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テクノロジ解説
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第5回  エージェント技術でモバイルサービスの領域を広げる

2003/05/27

 「エージェント」という言葉は、様々な場面で使われています。技術を見ても様々な「エージェント」が研究開発されています。実際、研究者の間でも明確な定義はありません。そこで、ここでは「エージェント・サービス」として、

(1)いつでも、どこでも利用者がアクセスできる
(2)利用者がいちいち指示をしなくても、外界からのイベントを察知し、利用者の好みや状況に応じた処理を自動的に行う
(3)エージェントはネットワークのどこかにおり、利用者がアクセスしていなくても24時間365日休まず働く

 といったの3つの特徴を備えたサービスを考えます。

 ここで例を挙げてみましょう。ある利用者がよくショッピングに行く郊外の大型モールに出かけることを考えてみます。そのモールの入口を自動車で通過します。するとエージェントが、その利用者が何度か商品を購入したことのあるショップの最新情報として「本日XXショップにて紳士・婦人靴が30%割引の特別セールとなっています。YYショップでは…」という情報をカーナビを通じて知らせます。モール内ではカーナビのかわりに携帯電話を通じてエージェントが適宜情報を提供してくれます。

 このような例は他の場面でも考えられます。たとえば、外出時に家の状況を監視し、何か異変が起きたら携帯電話に通知するサービスや、ビジネス・パーソン向けでは、折り畳み式の携帯電話を開いた時やバス停・駅に到着した時に、大切なお客様からのメール到着を教えたり、スケジュールと現在いる場所から電車の出発時刻を教えたりするサービスも考えられます。

エージェント・サービスとユビキタス・ネットワーク

 今までもエージェント・サービスはありましたが、それは株価通知、求人求職マッチング、本やCDのお勧め…といった非常に限定的なサービスを提供するものでした。しかし、ここ数年でエージェント・サービスをとりまく環境が大きく変わりつつあります。

 エージェント・サービスの処理過程を大きく3つに分けると、第1番目は状況を察知すること、第2番目は状況と利用者の嗜好などを考慮して処理を行うこと、第3番目は処理結果を通知すること…になります。これらの中で特に第1番目と第3番目の状況が大きく変化しつつあるのです。

 かつては、エージェントが処理を開始するきっかけとなるイベントは、株価更新や新商品発売などのようなセンターで管理される情報の更新などでした。しかし、最近では街中に様々な電子機器が設置されています。たとえば、自動改札機やショップにある盗難防止ゲート、駐車場の自動発券機などはすでに日常生活に溶け込んでいますし、スーパーなどが発行するポイントカードの読み取り機はPOSと連携して日常的に使われています。今後も様々な新しい電子機器が街中に設置され、日常的に便利なサービスとして利用されていくでしょう。

 このような新しい電子機器の登場と並行して、電子機器のネットワーク化も進んでおり、街中にある様々な電子機器がネットワークにつながりはじめています。ネットワーク化された電子機器が街中のいろいろなところに設置されるということは、街中のいたる所にエージェントのセンサーを設置することが可能になりつつあることを意味しています。実際、すでにこれらの電子機器をネットワークで接続してサービスを提供している企業もあります。

 一方、エージェントが利用者に処理結果を通知するインフラも、携帯電話の爆発的な普及によりすでに整っています。また、今後はカーナビもネットワーク対応型になり、携帯電話同様の重要なインフラになるでしょう。携帯電話とカーナビにより、利用者はいつでもどこでもエージェントにアクセスでき、エージェントからの通知を受けることができるのです。さらにこれらの機器は、エージェントの状況判断として、利用者にとって重要な位置情報を教えることもできます。この点も見逃すことはできません。

 このように、携帯電話やカーナビからの位置情報や街中に設置されている各種電子機器からの情報をセンサー情報とし、また、携帯電話やカーナビをユーザー・インタフェースとして利用することで、エージェントはいつでもどこでも状況に応じたサービスを提供できるようになります。これはエージェントが提供するサービスの領域が従来よりもたいへん大きく拡がることを意味します。つまり、エージェント・サービスはユビキタス・ネットワークのひとつのあり方と言えるのです。

エージェント・サービスを実現する技術

 それでは、このようなエージェント・サービスを実現するには、どのような技術が必要でしょうか。エージェント・サービスを実現する技術には主に4つの技術があります。それは、

(1)エージェント・プラットフォーム技術
(2)インテリジェント技術
(3)ユーザー・インタフェース技術
(4)セキュリティ技術

 です。
 ここでは、これらのエージェント・サービスを支える技術に関してご説明します。

(1)エージェント・プラットフォーム技術
 エージェント・サービスをコンピュータ・システムで実現するには、利用者のエージェントが何らかの形でどこかに存在する必要があります。このエージェントは24時間365日活動し、街中にある様々な電子機器からのイベントを常に察知し、適切なタイミングで利用者の属性や嗜好情報を参照しながら処理を行わなければなりません。また、利用者が携帯電話やカーナビを通じていつでもエージェントにアクセスできるようでなければなりません。

 そのため、エージェントはセンターで管理されたサーバーに常駐するとともに、利用者がエージェントにアクセスする時には、利用者が持つ携帯電話やカーナビなどのデバイスにも存在しなければなりません。しかも、利用者からはあくまでひとつのエージェントが存在するように見える必要があります。

 このため、エージェント・プラットフォームには、利用者のエージェントをセンター内のサーバーで管理し、必要なときにそのエージェントの全体または一部のクローンを携帯電話やカーナビに移動・生成させる機能が必要です。

 一方、エージェント・サービスの利用者数は数千や数万人程度ではなく、数十万人や数百万人という数になります。したがって、センターにあるエージェントを管理するサーバーは、このような数のエージェントを管理し、高い性能と高いスケーラビリティを持つものでなければなりません。

(2)インテリジェント技術
 エージェントは、利用者が直接操作しなくても状況と利用者の属性情報や嗜好情報に応じて自動的に処理を行うものです。エージェントが行う処理のロジックをあらかじめ定義できる場合は、インテリジェント技術は必要ありません。

 たとえば、利用者の年齢・性別やあらかじめ利用者が登録した興味情報に合致した広告を提供するサービスでは、処理ロジックをプログラムで記述すれば十分で、このようなサービスでも利用者にとって十分便利なサービスとすることは可能です。

 しかし、利用者の興味をその利用者の過去のアクセス状況から自動的に学習したり、利用者が「ハワイに旅行したい」というような漠然とした指示から、航空券・ホテル・オプショナルツアーの手配を旅費や利用者の好みを考慮して具体的に計画するというようなことは、通常のプログラム記述だけでは困難です。

 このような高度なサービスを提供する場合、学習・推論・プランニングのようなインテリジェント技術が必要となるでしょう。もちろん、コンピュータで実現するものなので、人間の優秀な秘書のようにはなれませんが、インテリジェント技術を利用することで、通常のプログラム記述だけでは困難なサービスを実現することができます。

(3)ユーザー・インタフェース技術
 エージェント・サービスでは、利用者はエージェントに指示を出したり、エージェントからの通知を受けます。エージェントとのユーザー・インタフェースを従来通りのキー入力と文字表示で行うこともできますが、携帯電話や運転中の自動車のカーナビを考えると、キー入力と文字表示だけでは不便です。

 そこで音声によるユーザー・インタフェースが重要となります。エージェントのユーザー・インタフェースで必要な音声技術は、入力のための音声認識技術、入力および通知のための音声合成技術、利用者と自然な会話を行うための音声対話技術です。

(4)セキュリティ技術
 エージェント・サービスは、個人情報を扱うサービスです。したがって、これらの情報を第三者が取得できないように保護しなければなりません。

 エージェントは、管理されたセンター内だけでなく、利用者が持つ携帯電話やカーナビなどのデバイスにも現れます。センターとデバイス間やデバイス上のセキュリティも確保されなければなりません。また、不正なセンサー情報が入力されるとエージェントは誤った処理を行ってしまいます。

 このようなことが起きないように、センターが不正なセンサー情報を受け付けないようなセキュリティ機構も必要です。

IBMの取り組み

 IBMでは、お客様がエージェント・サービスを実現するためのキーテクノロジーである、高い性能とスケーラビリティを持つエージェント・プラットフォーム技術、学習・推論・プランニングなどのインテリジェント技術、「ViaVoice」に代表される音声認識技術や音声合成・対話技術、インターネットでサービスを展開するためのセキュリティ技術などの研究・開発を行っています。

 エージェント・サービスを実現するには、エージェント技術だけでなく、トランザクション処理やデータベース管理、Webサービス、システム管理などのエージェント技術以外の技術も必要となります。IBMは、Webアプリケーション・サーバー「WebSphere」、データベース管理システム「DB2」、システム管理ツール「Tivoli」などの製品群を揃えています。エージェント技術とこれらの製品群を用いることで、お客様にビジネスとしてのエージェント・サービスを実現するためのソリューションをご提供できます。

エージェント・サービスの実現にむけて

 エージェント・サービスは、携帯電話やカーナビをインタフェースとして、街中にある様々な電子機器とインターネットを融合したサービスであり、新しいビジネスの基盤となるものです。

 現段階で、この基盤を企業のビジネスとどのように結び付けるべきかという明確な回答はありません。しかし広告などの新しい情報配信基盤として、またCRM(カスタマ・リレーションシップ・マネジメント)を支える一つの基盤としての可能性が考えられています。すでに、自社のビジネスに沿ったエージェント利用モデルを考え、電子機器と携帯電話を結びつけた通知サービスをはじめている企業もあります。さらに、まったく別の観点から、街中や顧客企業に設置される大量の電子機器の監視・管理基盤として、個々の電子機器を担当するエージェントをセンターに常駐させてデバイスを管理する基盤としての可能性も考えられています。IBMは、エージェント技術を通じて、お客様とともに新しいモバイルサービスの世界を実現することを目指しています。

(山本 学/日本IBM 東京基礎研究所
インターネットテクノロジー/エージェントテクノロジー主任研究員)

=読者からのコメント=

■コンピュータ技術が分かりやすく解説してあり大変参考になりました。
 コンピュータがエージェントの役割をするようになるのは非常に喜ばしい事と思います。現にITが普及してコンピュータがエージェントの役割をして顧客に対して商品を提案するサービスがあると思います。
 しかし、コンピュータが顧客に合う商品を選んでくれるというエージェントサービスは嗜好の複雑な商品には不可能ではないかとも思います。同じ商品を買った顧客のリストを参考に提供してくれるというのも、やはり参考程度にしかならないのではないでしょうか。ここで、やはり、人間の力が必要になるのではないかと思います。
 ITを用いて企業のオペレーション戦略として、店員としての人間が「顧客のエージェントとして顧客に合う商品を見つけ、提案し、実際の購入は顧客で良いと思いますが、商品の組合せ、利用方法等の運用もエージェントが行う」というモデルです。
 私はこれをパーソナルエージェントマーケティングと名づけています。
 以下、私の論文です。よろしければご覧なってください。若造が生意気な事を申し上げて大変失礼しました。
・「商品とその商品を含む組合せのパーソナルサービスのブランド・マネジメント」(PDFファイルへ
・「マーケティングポートフォリオを用いたアイデアを出す技術」(PDFファイルへ
(馬場竜志:29歳:RBaba-マーケティングコンサルタント)


山本 学

1991年、日本IBM。東京基礎研究所にて業務システムのためのプラットフォーム技術の研究に従事。1996年より移動エージェント「Aglets」プロジェクトに参画。1999年より業務システムのプラットフォームとしてのエージェント・サーバ技術の研究を開始。現在も高速でスケーラブルなエージェント・フレームワークの開発に従事。
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