新商品・サービスを開発して市場に投入するまでの「タイム・トゥ・マーケット」の短縮や迅速な顧客サービスによる顧客満足度の向上は、企業にとって重要な経営課題となっています。また、予測不可能なビジネス環境の変化を敏感に察知し、迅速かつダイナミックに対応するには、社内だけでなく顧客からパートナーまで含めてビジネスが見渡せなければなりません。このような迅速性・即応性を持ったe-ビジネスを実現するためには、企業内外の膨大な量のデータやアプリケーションを接続し統合する必要があります。
それは、例えばこれまでは別々の部門がバラバラに管理し、手間をかけて同期していた顧客情報が、「一度入力すれば他のアプリケーションにもその情報が自動的にリアルタイムに伝わり同期できる」ようになることを意味します。アプリケーションの統合は、これまでの投資を最大限に活用しつつ、今の業務効率を向上するための社内のごく一部の統合からでも始めることができるのです。
これは、部門間でのデータ統合に留まりません。部門ごとに個別に導入されてきた業務アプリケーションの接続や、新たに導入するERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)などの基幹パッケージ・アプリケーションとレガシーな業務アプリケーションの接続も必要になってきます。
さらに、社内だけでなく、サプライヤから販売店までエンド・トゥ・エンドでアプリケーションを接続し、リアルタイムに情報を共有するといったことも求められているのです。企業の合併・統合においても、アプリケーション統合の必要性が高まっています。
ビジネス・プロセス統合とは?
情報のリアルタイムな同期・共有といったアプリケーション統合からさらに一歩進めて、業務の流れ、すなわちビジネス・プロセスをはっきりさせて、それに沿って自動的に必要なアプリケーションを呼び出すようにするのがビジネス・プロセス統合です。
例えば、顧客からのオーダーを受けてからその商品が顧客の手元に届くまでの、オーダー処理、在庫処理、配送会社への集配依頼、そして課金までの業務の流れを1つのビジネス・プロセスとして定義します。
まず、顧客からのオーダーがあると、このビジネス・プロセスが起動され、オーダー処理アプリケーションを呼び出して受注データを受け取ります。そしてその処理が終わると自動的に在庫処理アプリケーションを呼び出して受注データを渡すという具合に、ビジネス・プロセスの自動化によって全体の処理にかかる時間やコストを削減しつつ、アプリケーションの統合を実現します。
ビジネス・プロセス統合の特徴
ビジネス・プロセス統合では、業務とデータの流れを管理する機能を個々のアプリケーションから切り離し、ビジネス・プロセスとして集約します。個々のアプリケーションは現状のまま使えるため、これまでの投資を活用しつつも効率の良いシステム開発が可能となります。
また、それまで統合してきた個々のアプリケーションには影響を与えず、新しいサービスを提供するために最適なアプリケーションを迅速に既存のシステムと統合させることができます。
例えば、先に述べたオーダー処理から課金までのビジネス・プロセスに、優良顧客を優遇するためのポイント・サービス処理を導入するとします。その場合、ビジネス・プロセスにポイント・サービス処理を追加して、ビジネス・プロセスからポイント・サービス・アプリケーションを呼び出すようにすることで、既存のアプリケーションを変更することなく新しいシステムの導入が可能となります。
このように、ビジネス・プロセスを柔軟に改善できるようにすることは、これからも変化し続けるビジネス環境に迅速に対応するために情報システムに必要な要素となります。
ビジネス・プロセスの最適化を進めると、企業をまたがったビジネス・プロセス統合も必要になってきます。例えば、自社のコア・コンピテンシー(中核となる競争力)へ経営を集中させるために、ノンコア(コア・コンピテンシー以外の業務)を社外のサービスに求めることがあります。
社内業務と社外への委託業務それぞれのビジネス・プロセスを明確にすると、自社のアプリケーションとノンコアの業務を提供するパートナー会社のアプリケーションとが接続した一連の業務の効率的な処理が、ビジネス・プロセス統合により可能になります。
ビジネス・プロセス統合のためのミドルウエア
ビジネス・プロセス統合を実現するためのミドルウェア・プラットフォームには、次のような機能が必要となります。
・ビジネス・プロセスを実行するエンジン
・ビジネス・プロセスと各アプリケーションを接続するアダプター
・標準的なビジネス・プロセスを定義したテンプレート
・ビジネス・プロセスやアダプターをカスタマイズするツール
IBMの製品である「WebSphere Business Integration」(以下、WBI)では、現在業界で広く使われているSAP、Siebel、PeopleSoftなどのアプリケーションに対応したアダプターやSWIFTなどのメッセージ交換のためのトランスポートに対応したアダプターなど、各種アダプターを用意しています。また、アプリケーションを接続するための標準インタフェースとして今後は利用の拡大が見込まれる“ウェブ・サービス”技術に対応したアダプターもサポートしています。
これらのアダプタによって、今まで投資してきた、あるいは今後開発/利用する、さまざまなアプリケーションをWBIで統合することが可能になります。またWBIでは、業界の標準のビジネス・プロセスに準拠したビジネス・プロセス・テンプレートを各業界を対象とした製品として提供しています。
ビジネス・プロセス統合ソリューションのライフサイクル
では、ビジネス・プロセス統合のソリューションを開発・運用するライフサイクルには、どのような作業が発生するでしょうか。その例を挙げてみましょう。
・モデル化とシミュレーション:
まず、要件定義の段階で、現状の業務をシステムやプロセス、そしてそれらに関わる人という面から分析し、どこにボトルネックや無駄が存在するかを明確にします。そして、ボトルネックや無駄を解消し、業務を遂行する上での目標値を満たすように、目指すべきプロセスを設計します。
ここではビジネスの観点からプロセスを定義します。この際に業務やデータの流れを図式化することによって、一目瞭然になるようにすることをモデル化と言います。このモデルをシミュレーションすることによって、プロセスの最適化を図ることができるので、現状と将来のオペレーションをモデリングすることが、分析時の大切な要素になります。WBIではこのモデル化とシミュレーションを行うツールを提供しています。
・アプリケーションの統合:
目指すプロセスがビジネスの観点から設計できたら、実際にそのプロセスが業務フローとして流れるために運用する、ITレベルの設計を行います。
ここではそのプロセスの制御の流れやデータの流れを実装したり、各アプリケーションが扱うデータとプロセス上で扱う一般化された共通のデータの間のマッピングを実装することになります。それらをプログラム・コードを書かずにビジュアルに簡単に実装するためのツールや、企業が独自に開発し活用してきたカスタム・アプリケーションを統合するためのアダプターを開発するツールをWBIが提供しています。
・企業間の結合:また、顧客やビジネス・パートナーをも含めたビジネス・プロセス統合を実現するために、WBIでは企業間のアプリケーション結合をサポートする機能を提供しています。
・ビジネス・プロセスの監視:
このようにして開発したプロセスの運用を始めた後に大切なのは、それらのプロセスをモニターして分析することによって、期待されたアウトプットが出るようにプロセスを改善することです。まず、日々の業務の遂行状態を監視することによって、どの業務が停滞しているかを見つけ、リソースの調整などでプロセスを改善していきます。
・業務効率の管理とプロセスの向上:
また、プロセス全体の有効性を向上するために、一定期間の業務効率を評価し、その評価結果を、さらなるプロセスの向上のために、モデルにフィードバックします。
先程の分析時のシミュレーションと違うのは、実際に運用した後の実測値をモデルに反映することができるということです。例えばシミュレーション時には20分で完了すると想定していた業務が実際は平均30分かかっていたら、それを分析に反映し、それがその後のプロセスにどのような影響を与えているか分析し、プロセスを改善しなくてはいけません。ビジネス・プロセス統合のソリューションの場合は、この評価を定期的に行い、常にプロセスを向上することが重要になります。
オンデマンド・ビジネスを目指して
ビジネス・プロセス統合は、IBMが提唱しているe-ビジネス・オンデマンドの環境を実現するための重要な要素です。統合のためには、まず最初にビジネス・プロセスをはっきりさせる必要がありますが、いったんビジネス・プロセス統合を実現すると、その後は継続的にビジネス・プロセスを最適化していく基盤が整うことになります。
このように、ビジネス・プロセスそのものの変革と、そのためのITインフラの変革とは、表裏一体となって進むことになります。また、ビジネス・プロセスの最適化は、まず早急に解決しなければいけない問題から着手し、ニーズに合わせ徐々に進化させることができます。最初は業務ごとに、次に会社全体に渡って、さらにパートナー会社も含めたバリュー・チェーン全体に渡ってビジネス・プロセスの変革を行うことで、真のオンデマンド・ビジネスへと進化していくことができるのです。
IBMでは、ビジネス・プロセスの変革を支援するビジネス・コンサルティングと、WBI製品によるビジネス・プロセス統合のためのITソリューションの両方を提供しています。日本のIBMソフトウェア開発研究所では、通信業界、エレクトロニクス業界、自動車業界、そして金融ネットワークのための全世界向けWBI製品を開発しています。また、顧客がWBI導入を検討する時から購入した後まで、日本で製品開発に携わるエンジニアが顧客を支援できるようにしています。
(森 徹=日本IBM ソフトウェア開発研究所
ストラテジー&Linux技術センター部長)