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| 岩野和生 |
連載にあたってのご挨拶
2002年10月末、IBMは「e-business on demand」(e-ビジネス・オンデマンド)というビジョンを発表しました。その中で「オンデマンド・ビジネス」というものを次のように定義しました。
・企業内のプロセスとアプリケーション、外部のサプライヤーとディストリビューター、さらに顧客、従業員までも一貫して統合することで、お客様のニーズや市場のチャンス、外的な脅威など、あらゆるものに柔軟にかつ迅速に対応するためのビジネスのあり方と、それを支える技術
IBMがこの時期にe-business on demandを発表した背景には、IT技術の発展が著しく、それを実現する機が熟してきたと判断したためです。
この記事を含めてこれから21回にわたり、毎週最新のIT技術の紹介を連載することになりました。IBMが積極的に推進しているオンデマンド戦略の実現に関係するIT技術を中心にできるだけ分かりやすく、またビジネスとの融合でどういう価値をもたらすかを明確に説明していきます。
これからはITを活用してビジネスのコア・コンピテンシーを磨き、変化に即応することで競争力を高めていく時代です。この連載が読者の方々への何らかのお役に立つことを心から願います。
(岩野和生=日本IBM 基礎研究&エマージング・
ビジネス担当執行役員)
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| 北澤治郎 |
オンデマンドへのビジネス変革を支えるITシステムとは
IT(情報技術)とビジネスの融合は、ビジネスを勝ち抜くための重要な戦略であるということは、ビジネスパーソンの間でも共通の認識になってきました。 実際、厳しいビジネス環境にも関わらず、積極的にITを活用して競争優位を手に入れた企業も数多くあります。今後、特に次のような融合パターンが重要になってきています。
ひとつはIT変革型融合---すなわち経営が求めていることをIT戦略に反映することです。例えば、CRM(カスタマ・リレーションシップ・マネジメント)の実現にあって、組織や業務の設計だけでなく、ITを活用して顧客との接点を拡大したり、顧客の購買パターンや嗜好をスピーディーに分析するといったケースです。
もうひとつは戦略創出型融合---ITの革新的な活用に基づいて経営戦略を立案し実行することです。例えば、インターネットの普及をきっかけに始まった「amazon.com」のビジネスがあります。「地球最大の書店」という看板をかかげ、WebとITの力を最大限に活用してビジネスを伸ばしています。
この連載で紹介しますが、“旬の先端IT技術”がどんどん進展しており、上記のように積極的にITを活用してビジネスの未来を創造する競争が更に強まっていくのです。
巨大な流れ
IT技術の進歩は非常に激しく、例えば、日経コンピュータ誌発行の2003年度版の「情報システム・ハンドブック」をみると266項目もの新らしい基本用語が載っています。この連載でも様々な先端技術を紹介しますが、マクロにはe-ビジネス・オンデマンドの背景ともなっている大きな技術の流れがあります。
それは、ますます多くの多様なコンピューターがネットワークにつながれたデジタル・インフラストラクチャーが拡大するということです。これはコンピュータ本体としてわたしたちの目に触れるものだけでなく、目に見えない機器もどんどんネットワークに繋がっていきます。
例えば、既に高級な自家用車では100以上の組み込み車載コンピュータが使われています。また平均的な家の中には約50のマイクロプロセサが家電製品やゲームなど娯楽用機器の中にあるといわれています。これらがネットに繋がって統合されていき、新たな価値を生み出していきます。
また、コンピュータのパワーも劇的に伸び続けます。チェスの世界チャンピオンを破ったことで有名なIBMの「DEEP BLUE」(ディープ・ブルー)というコンピュータの計算能力はトカゲの脳ぐらいのパワー(1997年当時、8テラFLOPS:1秒間に8兆回の浮動小数点演算を実行)といわれていましたが、コンピュータは今後十数年で人間の脳くらいのパワーを持つようになるだろうと言われています。
オンデマンド・ビジネスの実現に向けて
ばく大な数のコンピュータや周辺機器がネットに繋がれていくという大きな流れの中で、先端IT技術によりそれらを統合し、さらなる価値を生み出すことができるようになってきました。特にオンデマンド・ビジネスの実現に向けて、次の3つの能力をITが実現することが重要であり、そのための先端技術が生み出されてきます。
(1)ダイナミック・バリュー・チェーンを構築する
自社のコア・コンピテンシ(中核となる競争力)を磨き、ビジネス・パートナや顧客とダイナミックな価値連鎖を形成することの重要性は 経営者やビジネスパーソンにとって共通の認識になってきました。実際、自社の得意なソリューションを“サービス・プロバイダ”として外販化したり、地銀共同センターのように共通のビジネス課題を共有したりすることが一般的になっており、業界の水平統合などが盛んになってきています。
今までは、各企業の業務アプリケーションやデータを統合するといっても簡単ではなく、多くの場合、大変な時間と労力・コストが必要でした。今後、さらにばく大な数の異機種のシステムが増加します。それらを統合するという課題に応えるため、XMLやWebサービスといった技術に加え、グリッド・コンピューティングやオートノミック・コンピューティングという新しい技術が進展してきており、コストを抑え、早く統合することが可能になってきます。
また、水道やガスのユティリティーのように、使いたいサービスを必要なだけ使い、その分の対価を払うというITの使用形態が可能になってきます。またサービスを使う側の立場ではなく、企業は自分が磨いてきたコンピテンシーに基づくサービスを、今より桁違いに大きな市場に迅速に売り出せるという、ビジネス・チャンスが到来します。
(2)ビジネスの柔軟性とスピードを上げる
予測不能なことが次々起こる経済・社会環境では、顧客の嗜好の変化や競合の変化などを機敏に察知し、オンデマンドに即応することが重要になってきます。
そのためには、今までのトランザクションや一般的なデータベースのデータの処理に加え、文字や音声など人間が生成したデータ、あるいは機械により生成された非構造化データの処理技術の活用が重要となります。
人間が生成したデータに関しては、例えば製品を提供する側が消費者や評論家などが新製品についてどのように思っているかどうか知るために、全Webを探索し分析するといった応用が考えられます。
また医療の画像データやビデオカメラからの監視データのように、機械が生成した非構造化データが爆発的な勢いで増えています。機械により生成されたデータは莫大なサイズですが、情報密度が低いという欠点があります。こうしたデータを迅速かつ効率的に分析するような技術、例えば、膨大な医療画像データを探索して胸の腫瘍と思われる数ピクセルを探したり、監視データから顧客や顧客の購買パターンなどを見つけるといった新しい技術が出てきます。
またRFIDタグ(無線タグ)など新しいセンサー技術が脚光を浴びており、デジタル・サプライ・チェーンや、より強力なCRMの実現も期待されます。
3)これからのITインフラを支える基盤を強化する
今日、IT予算のかなりの部分がシステムの導入や、動作確認、障害防止、障害回復に使われています。またスキルのある人員の確保や研修などに大きな負荷がかかっています。今後、システムはますます大きく複雑になっていき、e-ビジネスのインフラは企業だけでなく経済・社会全体のインフラとして重要な位置を占めるようになります。そうするとシステムの管理は大変難しくなります。そのため、今後のITそして経済・社会全体の発展に対する阻害要因としてシステムの「複雑さ」が問題になってきます。
IBMはこの問題を解決するためのビジョンとオープンなアーキテクチャとして、「オートノミック・コンピューティング」という概念を2002年10月に発表しました。オートノミック、即ち自律的という言葉は、人間の体が意識しないでも走れば自然と心拍数があがり汗が出るように、コンピュータ・システムが人間の手をなるべく煩わせずに自己管理をするということを目指すことを意味します。
もうひとつの大きな課題はセキュリティです。今日、セキュリティはシステム管理者だけでなく、経営者レベルでも主要な懸念事項になってきています。セキュリティというと、今までは保険としての視点やセキュリティ侵害への対応が主でした。これからはセキュリティの新しい役割として、パートナーや顧客との信頼性のある関係の構築や、新しい商品・サービスを積極的にいち早く市場に投入する際に必要となったり、また顧客サービスの向上においても重要な要素となります。そのためセキュリティの技術も進化し続けています。
終わりなきイノベーション
この連載を始めるにあたって、まずe-ビジネス・オンデマンドを中心にIT技術の大きな流れと方向性を説明しました。米国での特許において、IBMは全企業の中で10年連続で、最多の特許を取得しています。また5人のノーベル賞受賞者を出すなど、テクノロジー・カンパニーとして技術力を磨くことに注力しています。
次週から毎週、20回にわたって、今回示したITの課題に関してIBMが研究・開発の推進をしている技術について紹介していきます。
(北澤治郎=日本IBM エマージング・ビジネス事業企画
&マーケティング担当部長)