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ラーメンは文化だ!
プロフィール
「おばあちゃん生き甲斐系の店」

2004/04/27

 ラーメンブームに乗って新しい店が増えてきているが、店の主人は、ほとんどの場合、まだまだ男性である。他の飲食業では女性店主はかなり増えてきているが、ラーメン店ではまだ多くはない。

 ところが、古い店の中では、60代、70代、なかには80代の女性がラーメン店を営んでいる場合があるのだ。このような店を、私は密かに「おばあちゃん生き甲斐系の店」と命名して、噂を聞いては訪れるのを楽しみにしている。

初めての店は4年前

 初めて訪れた店は、平塚市北部にある。田畑が広がる地域の、表通りからちょっと入った目立たないところに、変わったラーメン店があると聞いたのは4年ほど前のことだった。住所を知っていても、まず自分で探してもわからない場所だという。行ったことがあるという人に連れて行ってもらう機会があった。

 土曜の昼。でも、開いている確率は高くない、と。案内人は自信なさげに、畑の中の細い道路に入る。集落の手前に車をとめて、歩いていくと店はあった。表側にはかすれた文字で店の名前が。暖簾(のれん)は出ていないが、案内人は構わず中に入っていき、ちょっと話をして外に出てきた。OKのサイン。

 この店は、かなり年配のおばあさんと娘らしき人の2人で切り盛りしている。店内は、田舎の中華料理屋風で、テーブルがいくつか。店の中に貼ってあるポスターなどは年代ものだ。ラーメンを注文する(壁にはラーメン以外のメニューもいくつか張り出されているが、変わったものを注文しても、無いことが多いと、聞かされていた)。

 醤油の味がはっきり出ていて、スープを覆うラードは多め。昔懐かしいタイプというよりも、しっかりした個性派である。チャーシューもうまく、そばにあったら通いたくなるくらいのレベルだった。なるほど、単におばあちゃんがやっているというのではなく、高いレベルのラーメンを出すから、話題になるのだろう。

 この付近の工場に勤める人が主な客のようだが、それでも、昼時を過ぎてようやく店を開くことが多いらしい。どうやら、商売というよりも、おばあちゃんの趣味、いや、「生き甲斐」として店の営業を続けているらしい。

看板が無い店

 水戸には古いラーメン店が何軒かあるが、下町に極めつけの看板の無い店がある。店に入ると、おばあちゃんが、ちょこんと座っていて店内を眺めている。ラーメンを作るのは、若い(といっても十分年配なのだが)女性。店を開いた時期を聞くと、40年以上前とのこと。おばあちゃんは80歳を越えているそうだ。おばあちゃん自身もまだラーメンを作ることがあるという。

 ここのラーメンは、スタイルこそチャーシュー、のり、メンマ、ナルト、ほうれん草とオーソドックスだが、古さを感じさせない味だ。化学調味料をかなり丼に入れていたが、後味は悪くない。看板はしばらく前に台風で飛ばされてしまい、そのままなのだとか。以降は、通称「ちゃんぽん屋」で通っている。

 岡山にも、おばあちゃん系の店があると聞いて、地元の人に車を出してもらって訪問した。岡山市の南にある「電幸」という店である。スナックのような外観の戸を開けて入ると、カウンターの向こうには80歳を超えた?おばあちゃん。豚骨醤油ラーメン。チャーシューの煮汁かな、タレの味がよく出ている。麺は、さくっとした感じだが、粘りもある。そして、たっぷりのチャーシューがうれしい。モモかロースなのだが、うまい。麺と合わせて食べられる。

 およそラーメン屋とは思えない「電幸」は、屋台時代からの名前だそうだ。「電灯のように明るく輝いて、幸せに長く続く店」という意味合いで知り合いにつけてもらったという話である。岡山の町は、昔は屋台であふれていたそうだ。

がん治療の寄付金を集めるための特売日も

 北海道で知られているのは、夕張にある「のんきや」である。大きなホテルの脇にあり、壊れそうな外観である。特に店の建物の左側の部分は傾いていて、2階の窓ははずれている。カウンターは全部で7席。そして狭い雑然とした調理場に、おばあちゃんと何匹かの猫。

 注文を取ると、チャーシューを切り始める。そして、切ったチャーシューを引き出しの中に一度しまう。雑然と並んでいるものが、おばあちゃんにとっては、長年慣れて使いやすい状態になっているのだろう。感心したのは、動きにほとんど無断のないことだ。

 見た目は結構豪華なラーメン。チャーシューはこぶりだが5、6枚のっている。動物系ベースで濃い味のスープ。塩ラーメンには、塩ダレではなく、塩を入れていたが、尖った感じはない。醤油の方は、野菜の味が出ているような不思議な味だ。

 東京にも、おばあちゃん系の店はある。「みに亭」は、大井町から5分ほど。夜は居酒屋を兼ねた、地元の人の憩い所になる店だ。狭い店だが、厨房をたくみに使ってラーメンを作る。中華鍋で麺ゆで。ラーメンは底広の丼に。上にもやしがのっていて、豚骨ベースのあっさりしたスープ。麺は中細で平たく少し柔らかい。スープの味は、近くの「永楽」や、以前の「ちゃぶ屋」に通じるものがある。昔風のラーメンを期待していたのだけれど、少し驚いた。

 おばあちゃんは髪を染めていて、70歳を越えているとは思えないほど元気。常連の酔客とのやりとりが面白い。毎年3月には、がん治療の寄付金を集めるための100円ラーメンの日があるそうだ。

 ラーメン作りは肉体労働である。また、開いている時間は短くても、仕込みはたいてい朝から始まり、後片付けを終えると深夜という一日仕事だ。そのような大変な仕事を老年まで続けていくのは、とても大変である。確かに、老年の人がラーメン店を守っている場合は少ない。

 特に、老男性が一人店を切り盛りしているケースはほとんど無い。有名な東池袋大勝軒も、今では山岸氏は多くのスタッフに支えられて店を続けている。しかし、女性の場合は、かなりの高年齢の方が店を続けている場合があるのだ。女性の方が、毎日のペースを崩さずに長く続けることができるのだろうか。

終わりの日

 おばあちゃんの店も、終わりの日が来ることがある。熊本駅の裏に「三徳」という店があった。おばあちゃんが作る美味い豚骨ラーメンの店があると聞いて、3年前に訪れた。駅の西側なのだが、出口がなく線路をどうやって超えたらいいか分からず、タクシーに乗った。運転手にも、「こんなところにラーメン店があるのかい」と、驚かれた。

 80歳近いおばあちゃんが一人で守っている店。ラーメンは400円。注文を受けると、(テレビの芸能番組を見ていた)おばあちゃんは腰を上げて、慣れた手つきでラーメンを作る。チャーシュー、キクラゲ、青ネギ、海苔。全体が絵としてはきれいなラーメン。クリーミーな見た目とは違いあっさりしたスープだが、もともとの豚骨ラーメンは、このようなものだったかもしれない。

 2年後にまた熊本を訪れる機会があり、再びこの店に行く。すると、男の人が店の片付けをしている。なんと、つい昨日に、店を閉めたそうだ。男の人は店主の息子さんで、2階に住んでいたおばあちゃんの荷物を取りにきたという。

 店を閉めたのは、体調などが原因ではなく、新幹線のための駅拡張工事が始まるからだという。さすがに年なので、他の場所に移って店を開くことはないようだ。

 できれば、元気な限り、店を続けてほしかったと思う。でも、そのときは、「三徳」のラーメンが再び食べられなかった惜しさで一杯であった。

(佐々木 晶)

■チャンポン屋
029-231-2504
茨城県水戸市本町1丁目10−15

■電幸
086-282-3992
岡山県岡山市内尾414-5

■のんきや
01235-2-3327
北海道夕張市本町1-52

■みに亭
03-3777-6646
東京都品川区大井4丁目12−24

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■ラーメンは文化だ! は今回が最終回です。ご愛読、ありがとうございました。


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=読者からのコメント=

■今回で最後とは残念です。気楽に読める数少ない読み物だったのですが...
(snark:39歳)

佐々木 晶

(ささきしょう)
  1960年2月、東京は渋谷に生まれるが、多摩地方で育つ。学生時代から週2、3回ラーメンを食べていたが、1996年に第2代ラーメン王の武内伸氏の著書を読み、ラーメン食べ歩きに目覚める。忙しい時間の合間を縫って、コツコツとラーメンを食べるようになった。これまで、2000軒以上の店を経験している。
 2000年、「TVチャンピオン第7回ラーメン王選手権」に出場する。店の扉を触るだけで店名を当てたり、メンマや味玉の欠片で店を識別するなど類い希(たぐいまれ)な記憶力を駆使して優勝し、第6代ラーメン王となる。しかし実際には、データよりも食べ歩いた自分の経験を重視するタイプである。
 普段は近場のラーメン店に足繁く通い、味の変化を楽しむというリピート派である。ラーメン食べ歩きでは、昔ながらの古い店や、辺境の店に特に興味を示す。地方食べ歩きのルート開発にも熱心で、秋田の「十文字ラーメン」と山形の「新庄ラーメン」を日帰りで食べ回るコースは、知られている。
 2001年には光文社新書より、「ラーメンを味わいつくす」を上梓。食べ手の立場からのユニークなラーメン文化論を展開する。趣味としてのラーメン論は、文芸春秋や日本経済新聞などでも紹介された。その他に、東京一週間をはじめとする雑誌のラーメン記事、テレビ、ラジオのラーメン関係の番組に多数出演している。
 本業は東京大学助教授で、惑星科学の研究者である。主に小惑星や火星の研究を行っており、最近では、アメリカ探査機の火星画像の説明などのために、テレビ、ラジオに出演した。
バックナンバー
■[2004/4/27]
・「おばあちゃん生き甲斐系の店」

■[2004/4/20]
・ラーメンフリークが作るラーメン店

■[2004/4/13]
・「期間限定メニューの効果」

■[2004/4/6]
・鶏ガラスープの時代は来るか

■[2004/3/30]
・テレビに愛されるラーメン

■[2004/3/23]
・いま栃木のラーメンが面白い!

■[2004/3/16]
・ラーメン店のブランド戦略

■[2004/3/9]
・「古い店をもっと愛して」

■[2004/3/2]
・ラーメン店 修業すべきか?独学か?

■[2004/2/24]
・「ご当地ラーメンと町おこしラーメン」

■[2004/2/17]
・二郎インスパイア系の出現

■[2004/2/10]
・「最強のラーメンファミリー〜丸長のれん会」

■[2004/2/3]
・2大国民食の狭間に:カレーラーメン

■[2004/1/27]
・ハワイ ラーメン事情

■[2004/1/20]
・カップ麺プロデュース体験記

■[2004/1/13]
・「ラーメン名店に名サイドメニューあり」

■[2004/1/6]
・2003年ラーメン界の動向

■[2003/12/22]
・2003年ラーメン業界を振り返って

■[2003/12/16]
・「浪花麺だらけ」の裏事情

■[2003/12/9]
・“曖昧な”国の“曖昧な”ラーメン

■[2003/12/2]
・新旧せめぎあう広島のラーメン

■[2003/11/25]
・全国・手打ちラーメンいろいろ

■[2003/11/18]
・進化する函館ラーメン

■[2003/11/11]
・外国人ラーメン武者修業者歓迎!

■[2003/11/4]
・チャーシューのこだわり

■[2003/10/28]
・日本のラーメン文化の起源

■[2003/10/21]
・佐賀・人情ラーメンとの出会いと、確信した加水率の秘密

■[2003/10/14]
・“サムライ・ラーメンシェフ”奮闘記

■[2003/10/7]
・ラーメン「こだわり」の波、全国へ

■[2003/9/30]
・滞在型ラーメン店の試み

■[2003/9/22]
・シーラカンスのような横浜ラーメン

■[2003/9/16]
・映画「タンポポ」が残した功罪

■[2003/9/9]
・激増するラーメン・テーマパーク

■[2003/9/2]
・ラーメン屋に行列ができる理由

■[2003/8/26]
・インスタントラーメンに関する一考察

■[2003/8/19]
・アジア各国における日式ラーメンブームの裏側

■[2003/8/5]
・ラーメン店における空間のおもろしさ

■[2003/7/29]
・ラーメン業界激震の名古屋にひっそりと店を出した旭川の名店

■[2003/7/22]
・半熟玉子の百年

■[2003/7/15]
・“家系”ラーメンの総本山「吉村家」とその弟子たち

■[2003/7/8]
・なぜか注目を浴びない伝統の味わい「日本橋こんどう軒」

■[2003/7/1]
・ラーメン新時代


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