ここ数年、かなりいろいろな店で見るようになってきた期間限定メニュー。以前は冷やし中華ぐらいだったが、むしろ最近の話題の店では、冷やし中華を見ることはむしろ少なくなってきた。
その期間限定メニューと言うものの多くは、冷やし中華とはまったく性質の異なるものである。何が違うのか? 一言で言ってしまえば、冷やし中華は「実」、最近の期間限定メニューは「名」が主体であることが多いのである。
冷やし中華とは狙いが違う
そもそも冷やし中華は、熱いラーメンの売り上げが夏場に落ちていくので、冷たいメニューを出すことによって客離れを防ぐことを目的としてここまで広まったのではないかと考えられている。夏の暑い日に「冷やし中華はじめました」の紙を見れば、冷たい麺にさっぱりとした味、涼やかなビジュアルを思い描ける。熱いラーメンを意識することなく、夏でもラーメン屋に入店することができるのである。
それに対して期間限定メニューはどうだろうか? 店頭に期間限定メニューを始めたと書いてあってその店に入る人はどのぐらいいるだろう? 「限定」という言葉に弱いと言われる日本人であるが、単にそれを見ただけでその店に入る人は少ないだろう。かなりのラーメン好きぐらいではないだろうか。
3つの効果
それでは期間限定メニューにはどんな効果があるのか? 何よりも、まず思い浮かぶのは常連を離さないという目的だろう。
いくらその店が好きだと言ってもしょっちゅう同じ店で食べていたらさすがに飽きというものも生じてくる。ましてラーメン業界は次々に新しい店が開店し続けているし、味もどんどん進化する。そして、また新しい味が出てくる。時々違う味を食べたくなるのは極自然の心理だろう。
次には話題性の効果。有名店が期間限定で面白いメニューをやっているとなれば、飛びつくラーメンフリークはかなり多い。新しい情報はインターネット上でも重宝され、それが美味しい、もしくはインパクトがあれば、評判が評判を呼んで、かなりの話題にされる。
そしてこの話題性とも関連するが、マスコミへのアピールにもなるのだ。マスコミも常に新しい話題を求めている。どんなに美味しい店でも、そして常に改良して美味しくなっていってる店でも、目に見える動きがなければなかなか続けて取り上げてはくれない。
定期的にお店側から話題を提供すればマスコミとしても取り上げやすいというもの。例えば、これが単に冷やし中華だったとしたら、マスコミに取り上げるられるのが難しくなるのはちょっと考えれば分かるだろう。
店側にもメリット
さらに隠れたメリットの一つとして、店側のモチベーションを高く保つという効果がある。ずっと同じものを作り続けるのでは、良い意味でも悪い意味でも、どうしても慣れが生じてしまう。そこに新しいものを作るといく作業が加えるだけで、その慣れに刺激を与えることができる。
もちろん、これらのメリットなどとは関係なく、単純に店主の遊び心、客を喜ばせたいということでやっている店も多いのだが。
ところで、「期間限定」にしなくても、「新メニュー」を加えれば、その利を得られるのではないだろうか? そうはいかないのが現実だ。もし「新メニュー」として始めてしまうと、新しいものをやる度に、どんどんメニューが増えていってしまう。そしてその新メニューをやめたいとなった場合、あまりに早く終了してしまうと、「こけた」というイメージが付いてしまう。
その点、もともと「期間限定」としておけば、言ってしまえばいつでもやめることができる。評判がよければ「好評につき期間延長」などとすれば、続けても文句を言われることは少ないだろうし、そのメニューもよりアピールすることもできるのだ。
いつでもやめることができるというメリットは大きく、それによって「ちょっとぐらい外しても構わない」というチャレンジングなメニューに仕上げることもできるのである。
時には落とし穴も
メリットばかりを挙げてきた「期間限定メニュー」であるが、デメリットも存在する。当然のごとく通常メニュー以外のことを始めるわけなので、その分、仕込みの手間が増える。もちろんその分コストもかかる。普段と違うものを仕入れれば、原価率はどうしても上がってしまうだろう。
食材以外でも、メニューの掲示や食券機への対応などの手間とコストが発生する。そして、営業中のオペレーションも乱れやすくなってしまう。まだ営業が落ち着いてない店が、新メニューや限定を始めることによって、オペレーションがめちゃくちゃになってしまっているのはよく見る光景である。
そして、いちばん起こりやすい問題が、「限定」に気を取られるあまりに通常メニューの方がおろそかになってしまうことである。あくまで余裕のある範囲でやらなければ、メリットの多い限定メニューもマイナスにばかりなっていってしまうのである。
また、最近は雑誌などと連動して限定メニューを取り入れるという企画が多い。これは、その雑誌で確実に取り上げてくれるというメリットこそあるが、逆に言えば、他のメディアには取り上げてもらえないという欠点もある。
そして、それが評判を呼んだとしても、その半分はその雑誌の企画と共に終わってしまう。実際に雑誌側は自分の雑誌さえ売れればよいという考えである場合がほとんど。店側は決してマイナスにならないように、これらのことを留意したうえで参加してほしい。
地方にも広がり見せる
さて、期間限定メニューを始める店が増えてきたのはなんと言っても「麺屋 武蔵」の影響が大きいだろう。他の店ではまず食べることができないような斬新な限定麺を春夏秋冬と出し、ものすごい行列店になってもフリークに足を運ばせる。その度にマスコミにも登場し、常にラーメンの先駆者であり続けることによって、トップの位置を維持し続けているのだ。
武蔵の限定メニューではその度にいろいろな練り込み麺を使用する。いろいろな店が練り込み麺を使用するようになったのも武蔵の影響と言ってよいだろう。ただし、どんなに優れた限定麺を作っても食べに来る人のほとんどが通常メニューを食べているのも武蔵の特徴である。あくまで通常メニューあってこその限定麺であるのだ。
期間限定をやっている店の中でも面白いのが「虎心房」。何せ店主のきまぐれによって始まり、きまぐれによって終わる。しかしこの限定がまたどれも完成度が高く、店主のセンスの高さをうかがわせる。「春の潮」や「カレーつけめん」などフリークを虜にした限定メニューは数多い。この店のファンは、いつやっているとも知れないそれらの限定メニューを求めてついつい足を運んでしまうのである。
初台にある「一福」の「囲炉裏麺」はもともとTVの企画にあわせて作った冬のみの期間限定メニューであった。このメニュー、かなり美味しいのは間違いないのだが、その分かなり仕込みにも手間がかかり、もうけもほとんどない。
しかしあまりに客の評判がよく、要望が多かったため、次の冬にも同じメニューをやることにした。そうすると、TVやマスコミでたくさん取り上げられることに。
そして冬の間だけだったのが、「遠くから来てくれたのに無いと申し訳ない」「食べて喜んでくれるから」と、とうとう通年メニューに。それで実際お客さんも増えてきているというから、計算ではない、女将さんのお客さんに対する思いやりが、ヒットを生んだ何よりの要因と言えよう。
首都圏で多かった期間限定メニューもいまや関西をはじめ、地方に飛び火しつつある。食べ手としてはこれからもたくさんの斬新な限定メニューが出てくることを期待したい。
(小林 孝充)
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