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ラーメンは文化だ!
プロフィール
鶏ガラスープの時代は来るか

2004/04/06

 ラーメンのスープの材料として、思い浮かぶのは何だろうか。豚骨、鶏ガラ、煮干、鰹節、鯖節、昆布、様々な野菜。その中でも鶏ガラは豚骨に次いでラーメンスープの基本としてよく使われる材料であろう。

 鶏ガラスープのラーメンと言えば、「昔懐かしいタイプ」のあっさりした優しい味のラーメンの定番のようなイメージがある。ところが、どこにでもありそうな鶏ガラベースのラーメンが、ある地域の定番のラーメン、いわゆる「ご当地ラーメン」として定着しているところは少ない。

 豚骨系でご当地ラーメンというと、いくつも思い浮かぶ。九州豚骨が代表的だが、和歌山、徳島、広島といった豚骨醤油のラーメンもあちこちにある。また、豚骨や鶏ガラを使っているが、魚出汁を表に出したご当地ラーメンも数は多い。

 一方で、鶏ガラベースが売り物のご当地ラーメンというのが意外に見あたらないのだ。

鶏ガラのご当地ラーメンはどこ?

 いやいや、懐かしい東京ラーメンはどうか、と言われるかもしれない。しかし東京の古い中華料理系のラーメンも多くは豚骨ベースのスープである。蕎麦屋系のラーメンは鰹などの魚出汁が勝っているところも多い。鶏ガラベースのラーメンが東京ラーメンとは言えないだろう。

 確かに鶏ガラベースのラーメンは、全国あちこちで出会う。でも、その地域の主流にはなっていない。あっさり醤油系の高山ラーメンは鶏ガラベースのスープを出す店が多いが、豚骨や魚出汁を使っているところもかなりあり、鶏系と言い切るにはためらいがある。

 鶏ガラベースのラーメンが主流を占めているところを挙げれば、岡山県西部の笠岡周辺である。鶏ガラをたっぷり使って濃厚な味を出しているのが特徴だ。さらに、チャーシューも鶏肉を使っている店が多い。食べ終わると、口の中が鶏味に完全に飲み込まれてしまう。後味はいい。

 実は、笠岡に近い、有名な尾道ラーメンも、元祖の「朱華園」は鶏ガラベースのスープである。他の店では小魚などを使っているが、朱華園では使用していないという。

 一方、もともとは豚骨醤油系のラーメンが主流だった岡山市でも、最近は鶏系のラーメンが勢いを増している。特に「天神そば」は、一杯のラーメンに一羽の鶏ガラと言われるほど大量の材料を惜しまずに使い、香り、味とも強烈な申し分のないラーメンを出している。

 私が食べたときは、別のラーメン店で一杯食べたあとでも「天神そば」の味は口の中に残っていた。山陽の岡山県、広島県東部の地域は、実は大きな鶏ラーメン文化圏と言えるだろう。

 あえて、もう一つ挙げるとすると、京都である。そうそう、あっさりした京風ラーメンね、とはラーメン好きならば、思わないだろう。背脂がたっぷりのったラーメンが最近の京都で多いタイプだが、スープは鶏ガラというところが多いのだ。

 「ほそかわ」や東京にも進出している「ますたに」が代表格であろう。そして、全国を席巻している「天下一品」の白くこってりしたスープも実は鶏ガラベースである。しかし、京都ラーメンといってもバラエティに富んでいて、「鶏」もある、という表現が正しい。

天下一品のラーメン

鶏ガラが主流にならない理由

 さて、どうして鶏ガラベースのラーメンがなかなか主流を占めて来なかったのだろうか。鶏ガラからスープを取るのは、豚骨からよりも時間はかからない。家庭で本格的なラーメンを作るときに、まず手がけるのが鶏ガラベースのラーメンだ。

 また、他の材料との相性もいい。豚骨系のラーメンでも、実際には鶏ガラを使って味に深みを出しているところが多い。

 最近は和風豚骨といって、豚骨系と魚系を合わせる傾向があるが、本来は、鶏ガラの方が魚系との相性はよく、バランスの取れたスープを作ることができる。ただ結果として、鶏味を表に出したスープにならなかったのかもしれない。

 さらに、鶏肉と言えば大量生産のブロイラーが主流を占めていた時代は、いい鶏ガラがなかなか手に入らなかったそうである。大量に使ってもなかなか深みのある味が出てこない。それよりは、スープ作りに時間がかかっても豚骨を使うという方向になったかもしれない。

 ブロイラーの骨よりは、廃鶏(卵を生めなくなった雌鶏)の鶏ガラの方が何とか味が出るようだ。岡山の鶏系の店でも廃鶏は多く使われている。最近ようやく、地鶏ブームもあって、良質の鶏ガラが出まわるようになったそうだ。それが鶏ガラベースの新しいラーメン店が増えてきたことの一因であろう。

 鶏はガラだけではなく、他の部位もラーメンのスープの材料に使われる。最近は(内臓を取った)鶏を丸ごと一羽入れてスープに使う店が増えている。鶏肉から出るイノシン酸ナトリウムや、モミジ(足先)などから出るコラーゲンがうまみを増す役割をしている。ただ、丸鶏だけだと、スープの旨みのバランスを取るのは難しいようで、豚骨や野菜、昆布などを加えて味を調えることが多い。

 一方、鶏ガラそのものは、昆布などと同様のグルタミン酸ナトリウムを多く含んでいる。鶏ガラが、イノシン酸ナトリウムを多く含む、豚骨や煮干、鰹節と相性がいいのは、味の相乗効果が効いているからである。

 また、スープそのものは豚骨ベースであるものの、鶏油を使って独特の風味を出しているのが、「吉村家」を筆頭とする家系の豚骨醤油ラーメンである。ラーメンスープに使われる脂はラードが多いが、家系では、あえて鶏油を使うこととで、独特の風味を出すのに成功している。鶏脂独特の香りと味は、弱いスープでは負けてしまう。あっさり系のラーメンで鶏油を使って成功してえる店がまだあまり多くない。

 湯島の「大喜」は、鶏油に負けないスープの味と力強さがあるし、「中村屋」は鶏油を増やしたラーメンが好評だ。しかし、全体では鶏ベースのスープでもラード(背脂、腹脂を含む)を使っている店が多いのが現状だ。

新展開の兆しも

 さて、数年前までは豚骨に席巻されていたような、ラーメン事情であったが、最近は鶏ガラベースの新しいラーメンが増えてきた。その一つが、ブランドものの鶏を使ったラーメンである。名古屋コーチン、阿波地鶏、比内地鶏や、烏骨鶏、軍鶏、最近ではダチョウでスープを取る店まで現れた。

 そのなかでも、ラーメン博物館をはじめとする「支那そばや」は、上質で深みのある鶏ラーメンを目指している。栃木県の「阿波家」を中心とする地鶏ラーメン研究会の店は、濃厚な鶏味のラーメンが売り物。バターを落としても負けないスープには驚いた。

 新しい店に共通する傾向は、スープそのものの味を強調するために、塩味のラーメンが売り物にしている点だ。さすがに、塩ラーメンのみという店はまだ少ないが、鶏ガラベースのラーメン店では、お薦めは塩と言われることが多い。駒沢大学の「屋台屋」は、最初は醤油のラーメンが主であったが、だんだんと塩味のラーメンの方が、人気が高くなっている。

 一方で、鶏の本家とも言える岡山にも強力店が現れている。岡山市内の「商人」は、和風豚骨と対抗できるような、節系と鶏味の両方が出ている、濃厚な和風鶏ガララーメンで気をはいている。笠岡では「おっつあん」という住宅地にできた新しい店が、伝統的な味の中にもパンチの効いた、素晴らしいラーメンを出している。

 今後、「鶏」のラーメンに目が離せない時代が続きそうだ。

(佐々木 晶)

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佐々木 晶

佐々木 晶(ささきしょう)  1960年2月、東京は渋谷に生まれるが、多摩地方で育つ。学生時代から週2,3回ラーメンを食べていたが、1996年に第2代ラーメン王の武内伸氏の著書を読み、ラーメン食べ歩きに目覚める。忙しい時間の合間を縫って、コツコツとラーメンを食べるようになった。これまで、2000軒以上の店を経験している。  2000年、「TVチャンピオン第7回ラーメン王選手権」に出場する。店の扉を触るだけで店名を当てたり、メンマや味玉の欠片で店を識別するなどたぐいまれな記憶力を駆使して優勝し、第6代ラーメン王となる。しかし実際には、データよりも食べ歩いた自分の経験を重視するタイプである。  普段は近場のラーメン店に足繁く通い、味の変化を楽しむというリピート派である。ラーメン食べ歩きでは、昔ながらの古い店や、辺境の店に特に興味を示す。地方食べ歩きのルート開発にも熱心で、秋田の「十文字ラーメン」と山形の「新庄ラーメン」を日帰りで食べ回るコースは、知られている。  2001年には光文社新書より、「ラーメンを味わいつくす」を上梓。食べ手の立場からのユニークなラーメン文化論を展開する。趣味としてのラーメン論は、文芸春秋や日本経済新聞などでも紹介された。その他に、東京一週間をはじめとする雑誌のラーメン記事、テレビ、ラジオのラーメン関係の番組に多数出演している。  本業は東京大学助教授で、惑星科学の研究者である。主に小惑星や火星の研究を行っており、最近では、アメリカ探査機の火星画像の説明などのために、テレビ、ラジオに出演した。
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