ブランドというと、普通はエルメスやルイヴィトンのような欧米の高級ファッションブランドが連想される。しかしブランドとは、商品における機能以外の、無形の価値全般を指している。日用品や雑貨など、あらゆるジャンルにブランドは存在する。
ラーメン店も例外ではない。ラーメンという商品そのものについて、確かに他にまねのできない味を提供する店は存在しているが、料理に特許が存在しない以上、かなり似たものを作ることは可能だ。最近のインスパイア系(特定の有名店から基本コンセプトを引用した店)の増殖は、その典型的な表れと言えるだろう。
だが、ブランド力があれば、同じような商品でも高く売ることができるし、リピーターをひきつけることができる。したがって、ある程度以上の規模でラーメンビジネスを展開しようとする場合、ブランド力が有ると無いとでは大きな違いが出てくる。
意識的かどうか分からないが、ラーメン業界で巧みなブランド戦略を展開している代表格が一風堂を運営する力の源カンパニーである。
ファッション業界などでありがちなパターンに、人気が出ると急速に多店舗展開を行い、その結果として有り難味が薄れ、顧客に厭きられてそれまでのもうけをすべて吐き出してしまうというのがある。しかし、一風堂グループは店舗数が相当多くなっているにもかかわらず、高く評価され続けている。それはなぜだろうか。
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| 一風堂 白丸元味 |
まず、一風堂にとって大きなターニングポイントとなったのは新横浜ラーメン博物館への出店であることは間違いない。初期のラーメン博物館は、しっかりしたコンセプトに基づき、全国から選りすぐりのラーメン店を集め、育成していた。
このためラーメン博物館に出店している店は一定水準以上という認識がラーメンファンの側にもあった。結果的に一風堂は大きくイメージを高めることになったのである。また、社長の河原茂美氏が「TVチャンピオン・ラーメン職人王選手権」での連続優勝などを通じて、優秀な職人としてのイメージを作り上げてきたことも見逃せない。
もう一つ、重要なポイントは旗艦店戦略である。通常は多店舗化にともなってチェーン店的なイメージがつき、評価は低下するが、一風堂は大名本店を置くことによってそれを巧みに回避している。大名本店では、他の支店では食べることができない重ね味というグレードの高いメニューが提供されている。これで個別店としての評価が維持できるわけだ。
このスタイルは外食業界では吉兆方式と呼ばれることもある。高級日本料理店の吉兆は、大阪、京都、東京で料亭タイプの店舗を経営しながら、ホテル、デパートなどにやや価格の安い支店を出している。料亭が名声を保っているからこそ、支店も集客することができるわけだ。フランス料理のひらまつグループや、フランスの有名シェフなども似たアプローチを取っている。
一風堂は高級料理店と同様の戦略をとっていることになる。ダブルスープ方式などに比べて価格が安めの豚骨ラーメンの中で、一風堂は価格設定が高めである。しかし、各店舗は業界でも抜群の集客力を誇っている。もちろん、味、サービス、内装の良さは大きな要素だが、ブランド力も要因の一つになっているのではないだろうか。
アパレル出身の麺屋武蔵は並列的な店舗展開を進めている。現在、麺屋武蔵の系列店は、「麺屋武蔵」、「麺屋武蔵 青山」、「麺屋武蔵 二天」、「麺屋武蔵 武骨」の4店だが、麺屋武蔵グループとしての関連性は持たせながらも、それぞれ異なったコンセプトで運営している。
これは既に全国屈指の有名店となった「麺屋武蔵」のブランド力を利用しながら、顧客を飽きさせない工夫と言えるだろう。
一方、従来からチェーン展開を行っていたグループは、むしろ店名を「隠す」戦略をとっているように見受けられる。チェーンの商標にはブランド価値がないと判断してのことであろうか。
天下一グループは、かつては比較的画一的な店舗運営を行っていた。しかし、最近は店名もばらばら(どことなく似てはいるが)で、傾向も少しずつ異なった店を出店しており、あたかも独立店であるかのようなプレゼンテーションである。それぞれの店のつながりはラーメンフリークでもなければ気づかないかもしれない。
ムジャキフーズグループも、系列であることをあえて前面には出していない。よってこやを運営するイートアンド(旧大阪王将)は「その店がよってこやであると余り印象付けない店舗作り」をコンセプトにしているそうだ。その方が飽きられないということらしい。逆説的な戦略でユニークである。
最近頻繁に見られるラーメン複合施設などへの出店はブランドという観点からはどうだろうか。同じコンセプトの支店を、複数の施設に単純に出店しているケースが目立つ。かつてのラーメン博物館への出店とは異なり、短期回収志向が強く出ているため、下手をするとデパートの催事に出店した程度にしか評価されないかもしれない。
店の数が増える分、ブランドが希薄化するだけに終わってしまう可能性が高いものと予想される。これらの施設に出店する際は、慎重にコンセプトづくりをすべきではないだろうか。最後につけが回るのはラーメン店なのだから。
(河田 剛)
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