2003年12月、ラーメンの「食べ手」がプロデュースしたカップ麺「明星最強列伝 ぶっちぬき焦がし醤油味」が発売された。半年近い開発の中でいろいろな体験をすることができた。
コンビニが加速する、カップ麺開発競争
コンビニに入ると、毎週新発売品が登場していることを実感する。中でもカップ麺は、各社から新製品が切れ目なく投入されている。POSシステムが完備されているコンビニ業界では、販売数が落ち着くと、すぐに棚から外され、新製品と入れ替えが行われるためである。
カップ麺開発競争の中で登場したのが、「ご当店モノ」と呼ばれるスタイル。ラーメン界の有名店がその味を再現したり、店主が新たな味のカップ麺をプロデュースしたりしている。メーカーにとってはこれまでにない味を作れると同時に、お店にとっても知名度アップのチャンスであり、さまざまなお店が登場した。
あるメーカーの開発担当者は、ラーメン本を片手に全国のラーメン店を巡っては、店主にカップ麺開発を提案したとのこと。その一方で、あまりに多くの店がカップ麺を出しているため、差別化が難しいという課題も発生している。
「食べ手」がプロデュースするカップ麺
フードジャーナリスト、はんつ遠藤氏の「カップ麺をプロデュースしてみませんか?」という誘いで、このプロジェクトは始まった。これまでの「作り手がプロデュースする味」ではなく、「食べ手がプロデュースする味」が開発コンセプト。現役のTVチャンピオンラーメン王の小林孝充氏と3人で明星食品を訪れた。
開発担当者から提案されたのは「ワンタン」。ノンフライ麺の技術を使った「ノンフライワンタン」を開発したので、従来のワンタンと食べ比べてほしいとのこと。確かに、従来カップ麺で使っているワンタンよりは美味しい。しかし、ラーメン店で食べるワンタンと比べたら凡庸なものだった。
ワンタンの皮は、薄くした「ツルツル」と厚くした「モチモチ」があるのだが、最初のワンタンはどっちつかずだったのが不満を呼ぶこととなった。開発担当者に「ツルツルとモチモチ、両方の極限を作ってほしい」と依頼することになった。
個性を発揮するプロデュース
ラーメン店でもカップ麺でも、賛否が分かれるほど特徴を持った味は、全く受け付けない人がいる一方で、熱心に支持してリピーターになる人も現れる。毎週新製品が登場するカップ麺の中で「そこそこ美味しい」よりも「これはすごい」と思わせる商品で、リピーターを呼びたいと考えていた。
2回目の打ち合わせでは「ツルツル」「モチモチ」の2種類のワンタンを食べ比べた。どちらも初回に比べて特徴が出たが、より個性的なモチモチのワンタンをもとに、カップ麺を作る方向性が決められた。まずはこのワンタンに負けない麺を作ろうと、極太麺の開発を依頼。カップ麺業界初の8番の切歯(注)を用いたノンフライ極太の平麺を誕生させた。
試食してみるとツルツルした麺が口の中で踊り、モチモチしたワンタンと対比した食感が、成功を予感させた。
バランスをとりながら味のインパクトを求める
ワンタンと麺が確定して、残るはスープの味。単純な味では我々も消費者も満足しない。塩味と醤油味をブレンドさせた味のスープに、辛味噌を溶かしながら食べるスタイルを提案した。モデルとして考えていた店舗を開発担当者に挙げたところ即座に食べに行ったそうで、意識を共通化できた。
ベースとなるブレンドスープの味はそれだけでも満足できる出来栄えになったが、インパクトがもう少しほしいとの意見が出た。当初は味噌をメインに考えていたが、醤油を中心にピリ辛味をきかせた個性的な「焦がし醤(ジャン)」を使うことに決定した。焦がし醤をスープに溶かすと、香りと濃さが加わりつつ、スープ自体の味も活かされることになった。
カップ麺の説明には、食べる前に焦がし醤を全て入れてかき混ぜることになっているが、醤を入れる前のスープだけでもラーメンとして美味しく食べられる、2種類の味わいが含まれている。
カップ麺の命は短いけれど
開発作業の中には細かなものもあり、スープに各種魚介粉末をブレンドしたり、唐辛子とチリペッパーの比率を変えたりして、最良の組み合わせを求めた。カップ麺自体はサイクルが短く、「ぶっちぬき焦がし醤油味」もコンビニの棚から外れる日は遠くない。それでも、食べた人になんらかの印象を残せる味を作れていればうれしい。
創る苦労はいろいろあったが、食べてもらえる喜びは食べる喜びに勝る。とはいえ、カップ麺やラーメンを作り出す人たちの苦労を見聞きするにつれ、「作る側にはなれないなあ」と思ってしまうのも、また本音なのである。
(山本 剛志)
注:切歯…麺を麺帯から切り分ける時の歯のサイズ。数字が少ないほど太麺になる。
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