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ラーメンは文化だ!
プロフィール
新旧せめぎあう広島のラーメン

2003/12/02

 全国に数あるご当地ラーメンの中で、「広島のラーメン」と言うと「尾道」を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。1990年代半ばからのご当地ラーメンブームでスポットライトを浴びた尾道ラーメンだが、広島県には全く違ったラーメンスタイルがもう一つ、昔から存在している。

 尾道ラーメンは、尾道市、三次市、福山市など県東部の備後地方に普及しているが、広島市を中心とした安芸地方には「広島ラーメン」と言われる豚骨醤油スタイルが戦後の屋台から興っていたのである。

 「広島ラーメン」のルーツは昭和25年頃に店舗を構えた「段原食堂」だ。創業者の沖稔(おき・みのる)氏は、戦後すぐに「上海」という屋台を引き始めていたと言う。この当時から、すでに現在「すずめ」や「陽気」で人気の、伝統的な広島ラーメンのスタイルはできあがっていたそうだ。

 それもその筈で、この両店ともに「段原食堂」の縁者が開店しているのだ。「段原食堂」の次男、沖誠治氏が昭和45年に開店したのが「しまい」と言う店だが、この屋号はもともと「姉妹」から来ており、「段原食堂」の女将さんと「すずめ」の女将さんが実の姉妹であったからところから命名された。更に「陽気」は、「すずめ」の女将さんの義兄が創業者である。

 「段原食堂」をルーツとする「しまい」「すずめ」「陽気」は、系列店や暖簾分け店も含めて、広島ラーメンの王道として長く人気を保っている。基本スタイルは前述のように豚骨醤油。全国に点在する豚骨醤油スタイルの中でも、クセが無くマイルドで食べやすい物だ。

 ベースのダシには豚骨以外にも、トリガラや野菜を多用している為だ。麺は細めのストレートを固めにゆでる。博多以外では細麺は柔らかめにゆでる地域が多いが、「しまい」系の麺はあくまで固さを保った歯切れの良い物である。

 残念な事に、このスタイルのラーメンは県外ではほとんど食べる事はできない。首都圏への進出も、私の知る限りではほんの2〜3軒程度である。旅行や出張の折には時間を作って食べて見ても決して損はない。

新しい潮流

 長いこと、広島市近辺ではこの「しまい系」がラーメンの主流であった。「上海総本店」のようなさらりとした醤油ラーメンや、「来頼亭」「八戒」のような濃厚豚骨ラーメンもあったが、メインはやはり「しまい系」だった。この傾向が大きく動いたのは、2000年の9月。広島市西区三篠町に「我馬」がオープンしてからである。

「我馬」のラーメン
 「我馬」は、博多ラーメンの風雲児として全国に多数の店舗を展開する「博多一風堂」で修行したご主人の店だ。ラーメンそのものは「一風堂」譲りのクセが無くコクのある豚骨スープ。

 味、内装、気配り、サービスレベルなど、様々な点で最先端の全国級ノウハウを身につけた「我馬」は、広島のお客にとって単に「おいしい博多ラーメン」にとどまらず、「ラーメンは、陽気やすずめだけではない」と言う事を、言葉ではなく実体験として叩き付けたのである。まさに黒船来寇。広島市に住むラーメンに詳しい友人は、これを「我馬ショック」と呼んでいた。

 この「我馬ショック」以後、広島市には旧来のスタイルにとらわれない、新進気鋭のラーメン店が台頭してくる。

「ねぶかラーメンMONGOI」の
ラーメン
 代表的なところでは、元和食職人が作った「でっち」、牛テールという珍しい素材を活かした「食卓屋」、魚介類の骨を使いながら、全く濁りや臭みの無いクリアな味を作り出した「魚魚骨ラーメン」、広島産の乾し牡蛎・アナゴ・あさり等、全国的にも珍しい食材でスープを取るという「ねぶかラーメンMONGOI」など。

 いずれも首都圏から発信される、先端の「こだわり店」に勝るとも劣らない個性的なラーメン店である。まさに21世紀に入り、広島市のラーメンは一気に飛躍したと言えよう。この飛躍には、ラーメン店側のみならず食べる側の意識改革も重要であったのは言うまでもない。

これからの予感

 広島市に限らず、いまや全国各地に「こだわりの波」が波及している事は、2003年10月7日の拙稿、「ラーメン『こだわり』の波、全国へ」に記した通りだ。特に、大阪、仙台、名古屋など、「ご当地ラーメン」として先行するスタイルが希薄な大中都市でその傾向は顕著である。

 この「こだわりの波」により、様々な工夫を凝らした高レベルなラーメンが登場しているが、同時に「全国どこに行っても何となく似た感じのラーメンが出てくるのではないか」「今の流れが沈静化した時に、その地域のラーメン自体が勢いを失うのではないか」とも筆者は危惧している。

 料理として見れば、素材や製法にどんどん工夫をこらして行くのは自然の成り行きだが、それとは逆にラーメンが決して失ってはならない土着性、郷愁といった物も絶対に存在している。

 しかし、広島県西部は筆者の見るところ、「最先端のトレンドラーメン」と「昔なつかしいラーメン」がバランスよく共存している。そして、その両者の間に位置する「従来のスタイルを今の手法で磨き上げたラーメン」も存在しているのだ。

 ここでは「面館」「あ味」「海と大地。」の三軒を挙げるにとどめるが、これらの店が、「トレンド」と「伝統」のギャップを吸収し、先端の店舗群に対するお客の違和感を緩和しているように思えてならない。逆にいうと、「我馬ショック」以前からこれらがあったからこそ、その後のニューウェーブをお客が違和感なく受け入れられたのかもしれない。

 広島市は言うまでもなく中国地方の中核であり、100万人の人口を持つ政令指定都市だ。この規模で、しっかりしたご当地ラーメンのスタイルがあり、更に最近の流行スタイルを受け入れつつある都市と言うのは実は全国的に見てもあまり例がない。この土地で、今度はどのような新しいラーメンが産声を上げるのか。筆者は大きな期待をもっている。

■我馬
広島市中区中町5-8第二下中町ビル1F
Tel 082-545-7303
営業:11時〜深夜2時 無休

■ねぶかラーメンMONGOI
広島市安佐南区山本1-5-12
Tel 082-875-0051
営業:11時30分〜深夜1時(日祝は〜12時まで) 無休

※参考:快食.com
http://www.kaishoku.com/

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北島 秀一

1963年1月 広島市生まれ。進学のため上京後、首都圏のラーメンの多彩さに感動して食べ歩きを始めて20年ほど。スキルは約3000軒・6000杯。1997年、「TVチャンピオン第4回ラーメン王選手権」に出場。番組史上に残るデッドヒートの末、決勝戦で惜敗、準優勝となる。その後、講談社「東京一週間」「週刊現代」、アスペクト「ラーメンマニアックス」、テレビ朝日「スーパーニュース」、日本テレビ「ズームイン・スーパー」「とんねるずの生でだらだら行かせて」等、マスコミ出演多数。また、全国各地のラーメンサイト主催者との親交も深く、常に幅広い情報収集をおこなっている。そのキャリアを買われ1999年〜2003年まで新横浜ラーメン博物館に勤務、主にラーメン情報担当を務めた。
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