ラーメンの具材として、ネギ、メンマと並んでもっともポピュラーなのがチャーシューだ。よく「ラーメンは丼一杯のフルコースだ」と言われる。スープがあり、麺が主食。ネギやメンマ、ほうれん草などがサラダ、そしてチャーシューがメインという訳だ。
「いや、それだとデザートがないぞ」と思わなくもないが、案外ラーメンの本質をついた表現だと思う。つまりチャーシューは、ラーメンの中では脇役でありながら、ラーメンを食べる楽しみの盛り上がりのピークを担当する重要なポジションにある。今回はそのチャーシューについて記してみる。
よく知られている事だが、中国料理の正式な叉焼、あるいは焼豚と、ラーメンに使われるいわゆるチャーシューは別の料理だ。叉焼は、豚肉のブロックに蜂蜜や紹興酒などを使ったタレで味を付け、窯やオーブンでじっくり焼き込む。
この際、紅麹で赤い色を付ける場合もある。調味タレの味付け次第だが、八角や紹興酒など、いかにも中国料理っぽい風味付けがされていることが多い。(※本文では便宜上、中国料理の方を「叉焼」、ラーメンに採用されている物を「チャーシュー」と記しておく)。
叉焼は、ラーメンというよりも中国料理の範疇なので、ラーメン専門店ではあまりお目にかかれないが、中国料理の色を残したラーメン店だと採用されている場合もある。
渋谷の「チャーリーハウス」はそのうちの一軒で、本場の叉焼を楽しめる。この店は、麺とスープをそのまま楽しむため、スープと麺だけの「光麺」と、具材を別皿に盛って提供している。実はこの光麺が上品でおいしく、昔からの人気店となっている。
それに対して、ほとんどのラーメンに採用されているチャーシューは、豚肉のブロックを茹でた煮豚である。この煮豚が採用された経緯には諸説あるが、広く一般的になったのは第二次世界大戦後のことだ。この普及に大きくかかわったのが、中国などから帰国した旧日本軍の軍人たちである。
戦後すぐ、日本各地に中華そばの屋台が出現したが、これは大陸から引き揚げてきた軍人が、戦時中に覚えて来た中華そばを生業として売るようになったためだ。旧日本軍炊事部隊での「軍事調理法」という本の中には、豚肉を煮込んで醤油に漬け込むという「煮ハム」という料理法が記されている。軍人達が、手間のかかる叉焼ではなく簡単にできるこの「煮ハム」を採用したのだろう。
初期のチャーシューは、前述のように煮込んだ豚肉を醤油に漬け込むか、あるいは直接醤油で豚肉を煮るような、ごく簡単な物であった。さらに、そうやって豚肉の味の出た醤油をスープのタレにリサイクルしていた。しかし、ラーメンの個性化が進み、他店との違いを出していくにつれて、味わいも調理法にも様々な工夫がなされていく。
煮込み/漬け込み用のタレに独自の味付けをしていくのを皮切りに、オーブンで焼いたり炭火で炙ったりして香ばしさを出したり、煮込み時間をより長くしてほろほろと柔らかい食感を出したり、仕込み行程もはるかに複雑になってきている。
また、素材についても工夫がされている。黒豚や銘柄豚などで肉質そのものの向上を図ったり、使う部位を工夫してよりラーメンに合った味わいのチャーシューを作ったりもしている。
ラーメンのチャーシューでもっともポピュラーなのは、もも肉だ。脂身やサシが少なく、しっかりした赤身の部分で、値段が安めな事もあってよく使われている。上手に処理するとざっくりした肉本来の歯ごたえや旨味が感じられるが、店によってはパサパサした繊維感が強すぎる場合もある。
バラ肉(三枚肉)はあばら骨付近の肉のことで、いわばカルビにあたる部分だ。赤身と脂身が層になっていて、脂身の甘味やふるふるした食感を味わうには一番向いている。豚の角煮もこの部位を使うといえば、どんな肉か想像しやすいだろう。多くのラーメン店ではこれをロールケーキのように巻いて使っている。脂身と赤身が渦まいているチャーシューは、このバラロールだ。
脂身のコクが若者に人気があり、さらに煮込み時間を調整する事で脂を残したこってりとパンチのあるチャーシューにも、脂が抜けたゼラチン質のとろける食感にも作る事が出来るので、今やもも肉と並んで多くのラーメン店で使われている。
さらに最近、比較的よく使われるのが肩ロースだ。文字通り前足を支える肩から背中の部分の肉で、赤身の中に適度にサシが入っていて肉全体が非常にジューシーである。
バラやモモよりは高級な部位だが、ロースなどよりは安価で、ラーメンには使いやすい。また、脂と赤身をバランスよく味わえるので、「普通はバラかモモだが、チャーシューメンには肩ロースを」などと使い分けている店もある。
普段何気なく食べているラーメンのチャーシュー。つい、大きさや枚数に目がいきがちだが、たまにはどんな肉なのかをちょっと気にしてみてはどうだろう。
最近は「ぜんや」(埼玉県新座市)や「隠国」(こもりく:神奈川県愛川町)のように、複数の部位を同時に楽しめる店もある。
(北島 秀一)
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