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ラーメンは文化だ!
プロフィール
佐賀・人情ラーメンとの出会いと、確信した加水率の秘密

2003/10/21

 佐賀というと、日本の中でも比較的話題の少ない県ではないかと思う。最近、「はなわ」の歌で少し注目を集めはしたが、あの歌を聞いて佐賀に足を運んだ人間はまずいないであろう。

 先日、テレビ番組のロケで、支那そばやの佐野実氏(注)と私とで佐賀のラーメンを食べ歩くことになった。まず佐賀駅について驚いたのは、県庁所在地のある駅であるにもかかわらず、人がほとんどいないのである。噂以上の寂しいところだと感じ、先行きに不安を感じずにいられなかった。

 まずラーメンを食べる前に、今回の第一目的を果たすために伊万里へ足を運んだ。突き抜けるような田舎の風景を眺めながら、目的地の窯元に到着。まずお茶を飲んで、伊万里焼の工程などの説明を受ける。そして、いよいよ、ろくろを回してラーメン丼(どんぶり)作りに挑戦である。

 一般に体験できる種類としては磁器と陶器があり、素人にとっては軟らかい土を使う磁器の方が圧倒的に難しいらしい。私は磁器に挑戦した。初体験の人は小さな皿から挑戦するのが普通だが、私たちは無謀にもいきなりラーメン丼に挑戦した。

 窯元の師匠の、「ある程度のレベルで妥協が必要」という言葉を無視して、硬い陶器を薄く仕上げようとして佐野さんは丼にヒビを入れてしまい失敗。同じく私も軟らかい磁器を薄くしようとした瞬間、ちょっとした力加減が狂い、完成目前の丼が一瞬にして大皿になってしまい、これまた失敗。

 結局2人とも、2度目の挑戦では、ある程度妥協して仕上げ、丼は一応完成。丼を作っているときは無心になれるということで、佐野さんもすっかりハマッてしまった様子。自分の家に窯を作るとまで言い出す始末だが、言い出したら本当にやる佐野さんのことだから、ひょっとしたら10年後はラーメン業界の魯山人になっているかもしれない。

 焼き物体験で一気に佐賀のイメージをアップさせた私たちは、気分を良くしてラーメン行脚を開始した。2日間で8軒のラーメン店を回った私たちの結論は、「佐賀のラーメンはあなどれない」であった。「佐賀ラーメン」という、ご当地くくりができるほど、数あるトンコツラーメンの中で際立った特徴を持っているわけではないが、ある程度の傾向にはまとめられる。

臭みがないトンコツ、生卵を落とすトッピングがある店が多い

 まず、麺がストレートなのは九州全般と同じだが、博多に比べて若干太めで水分もやや多めである。久留米でも最近水分を少し増やした麺が流行しているが、私の個人的な見解では、九州の麺も若干水を増やしたほうが食べやすくなるように思う。

 スープは白く濁ったトンコツスープだが、臭みがなく飲みやすい店が多い。店内に入ると豚の匂いがする店でも、スープは不思議と臭みが無い。

 意外と生卵を落とすトッピングがある店が多いのも特徴の一つ。海苔は乗ったり乗らなかったりだが、有明海に素晴らしい海苔があるのだから、ラーメンに使って特徴づけをすれば良いのに、と私は思う。

 佐賀の人は自らPRしたりするのは、得意ではないようだ。ラーメン店もびっくりするような完成度の高い店はないが、どの店も真面目に作っているのでハズレは少ない。

 観光地と違って、地元密着型の仕事をしないといけないため、地に足をつけた仕事をコツコツとやっているという印象が強い。総じてシャイなご主人が多く、根っから人が良い。

 私たちが地方に行くと、どこでも歓迎してくれるが、人によっては裏心が見え隠れしているのを感じる時もある。しかし、佐賀の人たちからは、心から歓迎してくれる気持ちがひしひしと伝わってくる。これまで佐野さんと2人であちこちの地方に行ったが、人の良さでは佐賀がいちばんではないか、というのが2人の一致した見解である。

 九州ラーメンのルーツの店は久留米の「南京千両」だが、佐賀のラーメンのルーツは昭和27年に佐賀市唐人町に創業した「北京千両」という店、と言われている。その4年後、白濁したトンコツラーメンのルーツといわれる久留米「三九」が熊本から昭和31年には佐賀へと移っている経緯から、佐賀のラーメンも久留米の影響を色濃く受けていると考えられる。

 あまり知られていないが、佐賀は製麺機発祥の地である。明治16年、佐賀市巨勢町(かつての佐賀県巨勢村)で真崎照郷という人物が製麺機を発明したことが現在の水分の少ない細麺を生み出した原動力であると私は推測する。

 東京より北の地域は、加水率が50%を超えるような水分の多い麺が主流である。手打ちから始まっているので、水分の少ない麺は作れなかったのである。

 それに対して、南にいくほど水分の少ない細麺が多いのは、トンコツスープに合うということもあるが、機械で打つと水分の多い麺はローラーにくっつくのでできないという構造的な要因の方が大きいのではないだろうか。

 また、水分が少なくて細い麺を作れることを誇るが如くに、その傾向が強まっていったのではないだろうか。いまだ誰もそんな説を唱える者はいなかったが、ずっと頭にあったこの説が、佐賀に行って確信できたような気がしている。

(注)佐野実氏
 藤沢支那そばや店主。某テレビ番組で鬼のラーメン指南役として全国にその名(顔)を知られるようになった。恐らく現在、日本でいちばん有名なラーメン職人である。

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武内 伸

有限会社ラーメン総合研究所所長。麻布高校在学中、ラーメンに目覚めメモをつけ始め、その数25年間で3165軒、5779杯。日本大学理工学部卒業後建設会社に勤め、1991年TV東京TVチャンピオン第二代ラーメン王となる。1995年11月に新横浜ラーメン博物館に入社。広報担当としてテレビ出演、執筆活動などを通じてラーメンの魅力を世に広める。2003年2月新横浜ラーメン博物館を退社。2003年5月に有限会社ラーメン総合研究所を設立して現在に至る。集英社OH!スーパージャンプの連載漫画「ラーメン人物伝'一杯の魂'」の原作を担当。単行本第1巻も発売中。8月18日発売号より第2章に突入。第1話は「春木屋」の巻。8月18日にはシマダヤより「薫風」、「濃粕」という醤油と味噌の生ラーメンをそれぞれ「ちゃぶ屋」、「むつみ屋」の店主と共同開発したものがヨーカドー系ほかで発売される。
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