ファッションやライフスタイルなど、様々なジャンルで「個性化の時代」と言われて久しいが、ラーメン業界においても、近年は「個性を模索する時代」になってきている。味やスタイルに個性を出そうとしているのはむろんラーメンだけに限らないが、その多様性や、工夫に制限が少ないことにおいて、ラーメンに匹敵する単品料理はなかなか見つからない。
特にここ10年ほどの、主に首都圏でのラーメンの個性化、細分化の動きは激しい。また、首都圏とは逆に地方、特に個性的なラーメンをかかえるラーメンでは、あまりラーメンの細分化はおこっていなかった。むろん従来のご当地ラーメンを見直したり、素材や製法を工夫して進化させたりする動きはあったが、あくまで各ご当地ラーメンがその地域の主力だった。ところがここ1〜2年、首都圏から始まったニューウェーブのラーメンが、全国各地に現れるようになってきた。長いラーメンの歴史の中でも、ほとんど初めてと言ってよい状況である。
明治40年代、浅草「来々軒」から始まった日本のラーメンは、その後全国各地に根付いて「ご当地ラーメン」となっていった。大正から第二次世界大戦前にも佐野、喜多方、京都、札幌、新潟など全国各地にラーメン店(当時は支那そばと言った)はオープンしているが、ご当地ラーメンの登場は主に戦後になる。
大陸で習ってきた中華そばを、屋台で出す生業を多くの引き揚げ軍人が始めたのだ。食料が非常に不足していた混乱期。各地の屋台は、地元で入手しやすい食材を代替に使ったり、あるいは地元の嗜好を自然に反映したりして、様々な形に変化していった。
日本各地のご当地ラーメンの多くは、この時代に基本スタイルが成立している。ご当地ラーメンは土地土地の事情や嗜好を反映した物であり、土着性の非常に強い料理である。その為、一旦ご当地ラーメンが成立してしまうと、それ以外のラーメンをなかなか受け入れにくくなってくる。また、全国に様々なラーメンがある事に興味を持つ人自体が少なかったのであろう。ご当地ラーメンがある土地はそのラーメンを、無い場所では東京風の醤油ラーメンのみが存在していた。
状況が変化するのは昭和40年の味噌ラーメンブームと、昭和60年代の豚骨ラーメンブームからである。
味噌ラーメンは昭和36年に札幌「味の三平」で提供され始めて札幌でブレイクしていたが、これが昭和40年の高島屋物産展での紹介、更に三年後の「サッポロ一番味噌ラーメン」の発売により、味噌ラーメンは全国的に認知されるに至った。多くの店で味噌ラーメンがメニューに加わり、また味噌ラーメンのチェーン店も爆発的に増えるなど、「ラーメンは醤油味だけじゃないんだ」と、ラーメンの多様性を認めるキッカケとなった。
豚骨ラーメンについては、味噌ラーメンのような明確なブームの端緒は判っていない。昭和40年代にはすでに熊本「桂花」が都内進出を果たしていたし、和歌山、広島、徳島などではスープを白濁させた「豚骨醤油」のスタイルも確立していたが、実際のブームとなるのは「なんでんかんでん」「九州じゃんがららーめん」などの人気店が出現してからだ。肉食に慣れた若者層の支持もあり、豚骨ラーメンもまた、全国に広く普及する事になる。
その次のトレンドは、1990年代に入ってからの「ご当地ラーメンブーム」となる。旭川、和歌山を筆頭に、尾道、徳島、函館、山形など、日本各地の個性的なラーメンが広く紹介された。ただしこのトレンドは、首都圏以外では大阪、名古屋、仙台などの大都市圏にある程度反映されただけであった。
ところが首都圏では、このご当地ブームと相前後して、ラーメンに大きな変化が起こってくる。札幌・博多という「土地」ではなく、すみれ・一風堂のような「店」、あるいは佐野実(支那そばや)、山田雄(麺屋武蔵)などの「人」に注目が集まりだしたのだ。ラーメンの個性化の、ある意味到達点である。
「ご当店」「ご当人」の流れが始まったのは1990年代の後半からであろうか。よい素材を使い、調理法にも研究を重ねるご主人に、料理人・職人としてマスコミが注目するようになってきたのだ。またTV番組で、佐野実氏が「ラーメンの鬼」として紹介された影響も大きい。
もともとは首都圏でのムーブメントだった「ご当人」と「レベルの高いラーメン」だが、ここ2年ほどで、全国各地に同様の新しいコンセプトを持ったラーメン店が出現している。
もっとも顕著なのが大阪。食い倒れの街、B級グルメのメッカ的な街でありながら、ラーメンについてはさほど目立ってなかったが、「洛二神」「龍旗神」「カドヤ食堂」「五大力」「上方屋 五郎ヱ門」などなど、食材や製法へこだわり、土地ではなく自分の個性を出そうとするお店が非常に増えてきた。
また仙台「本竈」、新潟上越市「あごすけ」、博多「鈴木商店」、広島「MONGOI」、札幌「国民食堂」、奈良「丸昌」など、枚挙にいとまがない。まさにその波は日本全国に広がっている。
味噌ラーメンや豚骨ラーメンの全国普及と、今回の「ご当人」が異なるのは、単に新しい人気ラーメンが流行しているのではなく、ラーメンを作るスタンス、料理人としての姿勢そのものが変化してきている点だ。ある意味ラーメンの高級化にもつながる現象であり、「ラーメンは庶民の食べ物であるべきだ」という異論もあるが、私は客側の選択肢のひとつとして、また今後のラーメンの可能性として歓迎している。
むしろ私が心配しているのは、ご当人の工夫が画一化してしまわないかという点だ。新しい「ご当店」各店の標榜は案外共通している。「無化調」「ダブルスープ」「内モンゴル産かん水」「スープをストレートに味わう為の塩ラーメン」「地鶏、黒豚、国産小麦のハルユタカ」などなど。それぞれに素晴らしい工夫なのだが、多くは「ご当人」の数名の先駆者が始めた事であり、なかなかそれらを超える斬新な工夫を見ることは出来ない。
まだまだ始まって間もないムーブメントだし、今後3年、5年と経つうちに、新しい工夫が出てくれることを願ってやまない。
(北島 秀一)
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