横浜ラーメンというと、トンコツ醤油味で極太麺、のりが3枚にチャーシューとほうれん草という「家系」ラーメンが今や主流となっている。しかし、私が子供の頃の横浜ラーメンには、「ラーメン」「タンメン」「サンマーメン」という3種類があり、ラーメンはサッパリとした醤油味でストレートの細麺、具はメンマとチャーシューくらいで、チャーシューは淵の赤いものが多かった。今ではそんな横浜ラーメンを出してくれる店も少なくなったが、「奇珍」だけはシーラカンスのように昔のやり方のまま、その味を伝えている。
場所はJR石川町駅から徒歩10分。元町の入り口に入らず右折し、フェリス女子学園のある丘の下のトンネルをくぐった少し先にある。トンネルの手前は官公庁や横浜スタジアムに中華街などがあり賑やかだが、トンネルを抜けるとそこは昭和30年代に戻ったようなレトロな町並みになる。
「奇珍」は大正15年に店を開いた老舗中の老舗で、中華料理一般がメニューにある。私は中華料理王ではないから、中華料理をあちこち食べ歩いたわけではないが、今まで中華街で私が食べたどこのものよりも「奇珍」の料理の方が旨いと思ったし、値段も安い。店構えも散切り頭を叩いたような文明開化の香りがする。中華料理を食べて文化を感じさせてもらえるのだから非常にお値打物である。
明治32年に開業した伊勢佐木町の「博雅亭」は残念ながら店はなくなってしまったが、ラーメンを食べて文明開化を感じたのはこの2軒くらいである。「奇珍」にはもちろん「タンメン」や「サンマーメン」もあるが、そのふたつのメニューについては機会を改めて書きたいと思っているので、今回はラーメンのことだけを述べさせてもらう。
ラーメンは中国の麺文化が進化して日本の食べ物となったのは間違いない事実である。中国の麺料理は主食なので上に具を載せて、日本でいえば丼物と同じような食べ方をする。そのためスープ自体には濃い味付けや脂を多く含んだものではない。具と一体になって始めて成立する食べ物である。しかし、日本のラーメンはスープ自体に脂や塩分を持つため、スープと麺だけで十分食べられるようになっている。
中国の麺から日本のラーメンへの進化のキーワードは何かを分析すると次の3点があげられる。まずは、スープに日本の調味料である醤油を加えたこと。次に鰹節や煮干しなどの和風ダシを加えたこと。そして中国にはない縮れを麺に加えたことである。
奇珍のラーメンは醤油味にこそなっているものの、和風ダシは決して使わないし、麺はストレートである。まさに中国の麺文化が進化しかかった状態のまま、シーラカンスのごとく生き残っているのである。チャーシューは淵を食紅で赤く塗って炭火で焼く。メンマはスルメイカのような平べたく乾燥したものを何日も掛けて水で戻す。枕木のような形のメンマは極太。繊維質の歯ごたえは残しながらも軟らかく仕上げてある。塩抜きしただけのメンマでは絶対に出ない食感である。
ご主人の黄国明氏は、いろいろなメニューの一つなので、ラーメンには全くこだわりはないという。先代のおやじが作ったレシピを、そのまま引き継いでいるだけだと。麺も機械打ちの自家製麺を毎日自分で作る。ラーメンに使う全てのものに多大な手間を掛けている。こだわっていないのではなく、これ以上こだわれない状態なのである。こだわっていないといいながら、まだまだ麺の勉強がしたいという。
「こだわりの××」なんて自分で謳っている店で、本当にこだわっている主人と出会うことは少ない。かの鬼のラーメン指南役として有名な支那そばやの佐野実氏も「自分は豚を育てているわけではないし、良い食材を取り寄せているだけで、こだわっているなんて言えない」と断言する。「こだわり」という言葉の定義は明確ではないが、「こだわり」という言葉に自分を置き換える人よりも、「こだわり」という言葉に逃げない人のほうが、よりレベルの高い仕事をしている事例が多いというのは私の経験則である。
スッキリと澄んだサッパリ醤油味のスープに極細のストレート麺が泳ぐ。この麺が細いのにも関わらずあまり茹でのびしないのは不思議である。具はメンマとネギのみ。チャーシュー麺を頼まないとチャーシューはのらない。この何の変哲もない素朴なラーメンの中に、昔ながらの横浜ラーメン、最後の横浜ラーメンという響きを感じるのは、私だけではないだろう。
(武内 伸=ラーメン総合研究所所長)
■奇珍
住所:横浜市中区麦田町2-44
電話:045-662-9494
定休日:木曜日
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「超らーめんナビ」
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■気になって仕方なかったんですよ、単にそれしか知らないとか、融通がきかないってだけを「こだわってるから」などというケースが多くて、、、。
いや、スッキリしました(笑)。
(らっこ:40代:Webサイト関連)
■欧米にあるChinese Restaurantのmenuにある『LOMEN』は元々はどんな麺なのでしょうか? それと、麺そのものについては、ちぢれ麺とかストレートであることよりも、生麺か、乾麺かの違いの方が大きい気がする。勿論、生麺の方が歴史も新しいでしょう。この生麺が出てきたあたりから、日本のラーメンが進化したように思うが、生か乾かに焦点を当てて、過去をひも解いて頂けませんか? Chineseの麺は相変わらず乾麺を使っていませんか?
(ガンプ:省略:省略)
■乾麺? ここカリフォルニアでは乾麺を使っているChineseを知りませんが、、、、。もしかして欧州在住の方ですか? イタリアでは、ChineseでもSpaghettiが主流なのには驚きましたが。
(btwtrading:31:貿易、飲食業経営)
■あと、奇珍は確かに、独特の雰囲気が出ていますね。横浜で好きなところといえばかつて平沼橋にあった八起の焼きそばは美味しかったのですが、シェフが変わってしまいました。家系ラーメンもいいですが、吉村屋は並ぶのが嫌で、、。港北ニュータウンのビッグヨーサンの隣にあったラーメン屋、桜木町の紅葉坂下のサクラギ大将、なんかは思い出深いですね。サンマー麺、実際に美味しい店、ご存知の方教えてください。ここロスアンゼルスでは食べられるのですが、いまいち餡が美味しくなくて、、。
(btwtrading:31:貿易、飲食業経営)