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ラーメンは文化だ!
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映画「タンポポ」が残した功罪

2003/09/16

 「タンポポ」という映画を覚えているだろうか? 1985年公開の作品ゆえ、既に内容を忘れてしまった方も多いと思うので、ストーリーを簡単にご紹介しておこう。

 山崎努扮するタンクローリー運転手のゴローが、とある町で寂れたラーメン屋に立ち寄る。そこは夫に先立たれたタンポポ(宮本信子)が、一人で切り盛りする店だった。ゴローは店にいたピスケンという図体の大きい男(安岡力也)とその子分たちと乱闘になり、傷を負ってしまう。

 ゴローの傷を介抱しながら、タンポポはお店の窮状をゴローに打ち明ける。夫の死後、自己流で作っていたタンポポのラーメンはお世辞にも“美味い”とは言えない代物で、閑古鳥が鳴く毎日だったのだ。

 お店の再建のための力添えを依頼されたゴローは、店を街一番のラーメン屋にするべく仲間たちと共に立ち上がる。紆余曲折を経て、新装なったお店にはお客が詰めかける。その様子を満足げに見届けると、ゴローはタンクローリーに乗ってタンポポのもとを去っていく。

 西部劇「シェーン」に範をとったストーリーのこの映画は、後に故・伊丹十三監督の代表作の一つに数えられるようになる。しかし、実はこの作品、日本では公開当初ほとんど話題にならず、興行成績も芳しくなった。ところが、海外、特に米国、欧州で評判となり、その後、改めて日本での評価も上がり、日本人、特にラーメン好きにとっては忘れることのできない作品となった。

 海外では、この映画のヒットによって初めてラーメンの存在を知った人も多く、ラーメンを海外に広めたという意味での「功績」はインスタントラーメンと肩を並べるといっても過言ではない。

 特に、ラーメン作りに賭ける作り手の真摯(しんし)な思い、更に、たかだか1杯の麺料理をモチーフに、映画まで作ってしまう日本人のラーメンに対する愛情の深さを世界に知らしめた点において、その「功績」の大きさと重大さに関しては、並び賞されるものは一切存在しない。

 しかし、そんな大きな「功績」と同時に、この映画はラーメンに関する“ある誤解”を世界中に振り撒くという「罪」をも犯してしまった。ご覧になった人はご記憶にあると思うが、この映画には老優・加藤嘉演じる“センセイ”がラーメンの食べ方を指南する場面がある。時々、海外から「正しいラーメンの食べ方を教えてくれ」というリクエストをもらうことがあるのだが、どうやらこのシーンを見た人が、ラーメンを食べるのにも茶道のように正しい“お点前”が存在するかのように勘違いをしたらしいのである。

 改めて言うまでもないが、「正しいラーメンの食べ方」なんか、この世には存在しない。スープから始めようが、麺から食べようが、はたまた、(自分では絶対にやらないが)いきなり胡椒をかけようが、どう食べようと本人の自由である。時々、ラーメンの薀蓄(うんちく)を書いた本で、それらしいことが書いてあることもあるが、そんなものは書いた本人がその場で思いついた戯言(ざれごと)に過ぎない。

 とは言うものの、海外からの問い合わせに対しては、一つだけ決まって言うことがある。それは、「さっさと食え!」である。個人差はあるものの、欧米人は総じて食べるのが遅い。特にラーメンのように“熱い”モノを食べる時、“遅さ”が顕著になるが、その理由は以下の3つであると思う。

欧米人が「さっさと」食べられないそのワケは・・・

 第1の理由が「猫舌」。基本的に欧米には、ラーメンのように熱いものを、そのまま食べる料理はほとんどない。人間の口の中の感覚は生まれた直後が最も敏感で、年をとるにつれ鈍くなるものらしいので、熱いものを食べない欧米人の口は、熱さに対して耐性ができ上がらず、「猫舌」のまま成長する。

 従って、小さい子供が熱いものを食べられないのと同じ理屈で、大人になっても十分に冷まさないとラーメンを食べることができないのである。

 次に「食べ方」。ご存じのように、食事中に音をたてるのは欧米のマナーでは厳禁である。最近まで、彼らは音を出すのを気にして啜(すす)らないのだと思っていたが、実は彼らのモノの食べ方自体が我々とは根本的に違うことが分かった。

 例えば、コップの水を飲むときでさえ、欧米人はあごを上に向けコップをかたむけて水を流し込む。最後には顔が天井を向くくらいまで、コップをかたむけるが、我々は顔は動かさず、コップを少しかたむけて水を吸い込む。この吸い込む動作の有無が欧米人と我々の食べ方の決定的な違いで、ラーメンの食べ方にも顕著に現れている。

 彼らのラーメンの食べ方を見ていると、慣れない箸で慎重に麺をたぐり、口に入るサイズにまとめてから口の中に放り込む。こんなことをしていれば、麺を一気に啜(すす)りこむ我々より何倍もの時間がかるのは自明の理である。

 そして三つ目が、「食事の時間」に対する考え方の違いである。ミシュランやザガットなど欧米のレストランガイドを見ると、必ずといっていいほど、内装やサービスなど、料理とは直接関係のない評価項目が重要視されている。

 これは彼らにとって、「食事の時間」が家族や親しい人と過ごす大切な時間であり、その際に供される食事が店の内外装やサービスと同じレベルの、時間を彩る演出アイテムの一つとして扱われていることの表れである。

 ラーメンを食べる際も、我々のように一心不乱に丼に集中することもなく、ぺちゃくちゃとお喋りに興じ、なかなか箸なりフォークなりを口に運ぼうとしない。見る見るうちに、ラーメンはのびて膨れ上がっていくのは言うまでもない。

 「猫舌」や「食べ方」に関しては徐々に慣れてもらうしかないと思うが、「食事に対する考え方」に関しては、郷入れば郷に従えで、ラーメンを食べる時くらいルールに従って「さっさと食べる」努力をしてもらいたいものだと思う。

 我々だってよっぽどの非礼者でなければ、フランス料理のレストランで皿に直接口をつけてスープを飲んだりはしないし、何よりも、せっかくの美味しいラーメンがのびて無残な姿になっていくのを見るのはあまりに忍びない。これが「さっさと食え!」とアドバイスをする最大の理由である。

 もっとも、「さっさと食え!」というのは、欧米人に限らず、外に行列ができているのにもかかわらず、べちゃくちゃと喋ってばかりで中々箸を進めない日本人客にも言ってやりたい言葉でもあるのだが・・・。
(小関 敦之)

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=読者からのコメント=

■昔友人に、「そばは音を立ててすするな」といわれたことがあります。日本人にも大馬鹿者はいるようです。
(snark:39:無記入)

■この「タンポポ」はアメリカのレンタルビデオ屋にも置いてありましたし、時折ケーブルTVでも放映していました。もちろん伊丹作品のひとつとして受入れられているのでしょうが、東洋(日本)の神秘的な食べ物ラーメンを知る数少ない情報源として、諸外国で特に注目されているのかとも思います。まさに筆者の申される「功績」たる所以でしょう。
(戸崎誠:42歳:会社員)

■欧米人は熱いものを食べず、猫舌になるとのことですが、本当にそうですかね? ポトフとかシチューみたいにアツアツな料理はありますし、オイルフォンデューなんて、熱い料理の代表格になりませんか?
 人種・居住地によって猫舌発生率が違うかどうかは、統計学的に有意であるかを見ないと断言できないでしょう。
 ちょっとこじつけが過ぎるのでは?
(武蔵:62)


小関 敦之

1965年生まれ。早稲田大学教育学部卒・米国イリノイ大学MBA。銀行系シンクタンク勤務を経て、現在、大手広告代理店のマーケティング部門勤務。新商品開発・コミュニケ−ション戦略の立案などを通じ、食品・飲料メーカーのブレーンとして暗躍中。生来の"美味いモノ好き"で、オフィス近くにある築地市場を食卓代わりに完全掌握。2003年4月TV東京TVチャンピオン築地王選手権で、並居る強豪をぶっちぎって優勝。初代築地王となる。
 日々の築地的美食生活をつづったホームページ「Web 築地市場を食べつくせ!」の日記コーナーは、3万以上の登録がある日記リンクサイト"日記才人"で、常にアクセス数上位にランクされる人気。ラーメンに関しては、英語で唯一の総合ラーメン情報サイト「WorldRamen.net」を主宰し、日常的に海外ラーメン事情のウオッチ。この分野では、他の追随を許さない絶対的第一人者。
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