昨今の「デパ地下グルメ」や「ラーメンブーム」に行列はつきものである。バブル経済期の西麻布の「ホブソンズ」というアイスクリーム屋も行列で有名になった。実はその行列にアルバイトのサクラを仕込んでいたという話があり、まさにバブルそのものでした。
「行列に並んでまでものを食べるなんて考えられない」という方々にはまったく理解しがたい話である。しかし、大抵の人は「何かしら?」「何だろう?」「おいしそう」「おいしいかもしれない」などと、ついつい興味がひかれてしまう。
普通のラーメン屋ののれんをくぐり、ラーメンを注文するとしよう。どんなに悩んだところで冷タン(水のコップ)が出てきてからラーメンを注文するまでは数分もかからない。注文を受けた主人はさっそく丼にタレを張り、麺を茹でにかかる。茹で時間は早い(細い)もので1分、遅い(太い)もので5〜6分くらい。丼のタレにスープを注ぎ、茹で上げた麺を湯切りして、スープに泳がせる。素早く焼豚、ねぎ、メンマ、のりなどの基本のトッピングや別注文のトッピングなどを盛りつけ客の所へ運ぶ。注文から10分もかからないはずである。
食べる方も猫舌や極端に食べるのが遅い人を除けばやはり平均で7〜8分くらいのものだろう。中細麺の醤油スープのラーメンであれば注文から10分もあれば食べて店の外に出ることも可能ではないか。では、何故ラーメン屋に行列ができるのか。人気があってお客が多いということはいうまでもなく、そのほかにも店によって、それぞれの理由がある。
永福町「大勝軒」はかなりゆったりとした席数、カウンター13席、テーブル4人掛け×2卓、2人掛け×1卓の計23席である。が、行列は店内にも続く。
そして、ラーメン丼を見て驚く。洗面器のごとく巨大な丼になみなみスープ、生麺2玉分(290gもあるらしい!?)の麺が泳いでいる。「らーめんはおやつではない」「ラーメン1杯で1食分の食事として充分満腹になること」がここ主人のモットーである。少食の私に対する嫌がらせか、拷問かと思うほど食べても食べても麺が減らないのだ。
それだけではない。この量を食べ終わるまで、決してスープが冷めないようにオランダ産の高級ラード「カメリア」をスープに溶かし入れているのだ。その熱さたるやいきなり最初にスープをズっと飲んだら口の中が火傷しかねない。
常連は漫画や週刊誌を片手に読みながら麺を高々とかかげ、充分冷ましてから口に運ぶ。先に麺をやっつけスープの温度がやや下がったところでスープをいただくようだ。溶いた生卵につけて麺を冷ましていただく攻略法もある。席に着いてからラーメンが出てくる時間は、さほどかからないが、スープが熱く量が多いので、食べる時間がかかり行列を生む。
池袋「大勝軒」の主人は中野の「大勝軒」でつけ麺を発案したというラーメン界の神様と呼ばれる男。麺の量が260g、大盛りはなんと2倍だとか…。しかし、ここは永福町とは全く関係のない超行列店である。
ここは店が狭い。カウンター8席、テーブル4人掛け×2卓であるが、隣の席の客と肩が当たらんばかりである。2人席のような小さな4人テーブルで相席し、窮屈な姿勢で太った大食漢が大盛りのつけ麺をすする様は見ているだけでお腹がいっぱいになってしまう。
麺も太いので、ゆで時間がかかる。ほとんどの客が注文するつけ麺は、ラーメンよりゆで時間をかけてから水でしめるため、さらに時間がかかる。そして食べるのにも時間がかかる。この店は区画整理のため、店舗立ち退きが決まって、再開のメドがたっていない。閉店を惜しむファンのさらなる行列が続いているようだ。
横浜港北区センター北「くじら軒」は、ニュータウンの一角だが、忽然と現れる行列に誰もが驚かされる。家系豚骨醤油が席巻する横浜では珍しい細麺の透明スープ、いわゆる支那そばタイプである。
ここの行列はまた別の理由である。席数は26と多いが、細い麺は伸びてしまうので1回に作るのは3杯まで、しかも透明なスープが細麺から溶け出た小麦粉のせいで濁るのを嫌い、頻繁にゆで湯をかえていることもある。
店内に入って注文しても、なかなかラーメンが出てこないのはこのためである。行列はなぜか中年女性が多く、食べ終わっても“まったり”して席を立たないのも回転を悪くしている原因かも。開店してものの30分ほどで「チャーシュー麺、終わりました」と行列の先頭に貼り出されると、なんとも寂しい気持ちになる。
埼玉県新座市の塩ラーメン専門店「ぜんや」も長蛇の列ができる有名店。ここの主人は元通産官僚の脱サラで自宅を改築した店である。よってバーナーの数が足りず、3杯作ったゆで湯を捨て、中華鍋に水を注ぎまた沸かすので時間がかかる。
主人の仕事は丁寧だが、この行列に対応するにはやや遅いかも…。さんざん待たされた挙句、店内にようやく入るとビールを飲んでるおじさんがくつろいでいたりする。
中野「青葉」は単純に店が狭いからだろう。コンパクトな厨房で夫婦の丁寧な仕事ぶりを眺められるカウンターのみの9席はいつも満席である。スープはやや茶濁した豚骨や鶏がらのと魚介を合わせたダブルスープと呼ばれるもの。豚骨の後のスープの流れに大きな影響を与えた店である。
焼豚は注文の度に1枚づつ切り出している。中野はラーメン激戦区であるがライバルと目された「香門」も閉店し、やはり抜きん出ている。今回、挙げた店の中では比較的早く食べらるが、近くの鍋屋横丁の「青葉」ならたぶん待たずに食べられる。
新宿「武蔵」は小滝橋通り沿いで祝日最高2時間・200人待ちという記録を持つ人気ラーメン店。この牙城はとうぶん崩せそうにない。店員のきびきびした誘導で普通の日なら思ったほど待たされないが、行列は券売機で食券を買った後にも続く。
豚骨鶏がらに昆布やサンマの煮干を合わせたスープに特徴がある。アパレル出身の主人だけに季節限定メニューも欠かさない。限定メニュー開発や直前のテレビ取材などのメディアの使い方も上手い。
池袋「蒙古タンメン中本」は上板橋に本店がある。味噌味のタンメンに激辛麻婆豆腐をのせた変り種。辛さの奥に旨みもあるが、とにかく辛い。店内の客はスープをすすり咳き込み、麺をすすっては咳き込む。脳天に突き抜ける辛さに耐え、発汗、紅潮間違いない。
苦行にも近いが、食後にはなんともいえない爽快感に満たされる。ここもスープまで完食するにはかなりの時間がかかるため行列ができる。
おいしいラーメンが行列を生み、行列がおいしいラーメンを育てる。ラーメン屋の行列には、客席数、厨房の広さ、麺の量、調理方法、店主のこだわり、場所や時間など様々な要素があるが、とにもかくにも美味しいラーメンであることは言うまでもない。
ただ、マスコミに取り上げられ行列ができた直後に、仕事が粗くなり、ラーメンがおいしくなくなった、と言う店も多々あることも事実。行列をわざと作っているラーメン店もあると聞くが、そういう店はいずれ自然に淘汰されていくにちがいない。
(林 英男)
<この稿で紹介した店一覧>
●永福町「大勝軒」
東京都杉並区和泉3-5-3 Tel 03-3321-5048
●池袋「大勝軒」
東京都豊島区池袋4-28-3 Tel 03-3981-9360
●「くじら軒」
横浜市都筑区牛久保西1-2-10 Tel 045-912-3384
●新座「ぜんや」
埼玉県新座市野火止4-9-8 Tel 048-477-2232
●中野「青葉」
東京都中野区中野5-58-1 Tel 03-3388-5552
●新宿「武蔵」
東京都新宿区西新宿7-2-6 Tel 03-3796-4634
●池袋 蒙古タンメン「中本」
東京都豊島区西池袋3-26-6 Tel 03-3989-1233
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