ここ数年、ラーメン業界も大きく変わってきた。良い食材を使って料理性の高いラーメンを出す店が増え、味が良いのは当たり前で、接客や雰囲気にもこだわる店が業界をリードしている。
もちろん、それは素晴らしいことなのだが、そのような新店情報ばかりがマスコミにもてはやされているのには、いささか抵抗を感じる。石の上にも3年というが、少なくとも3回くらい四季を経験しないと店の味は固まってこないはずである。
今回紹介する日本橋高島屋の脇にある「こんどう軒」は店を構えて87年。第二次世界大戦をはじめ、あらゆる風雪に耐え、世代を超えて味を引き継いできた店である。元は洋食屋だったそうだが、現存する中華料理店の中でも指折りの老舗に入るこの店が、マスコミに取り上げられることがめったにないのはとても不思議なことである。
同店は、昭和の時代にはどこにでもあった街場の食堂のような懐かしい雰囲気の中華料理店で、中華料理や定食などのメニューも豊富。とてもじゃないが旨いラーメンに出会える雰囲気ではない。しかしここのラーメンは筋金入り。伝統の技を廉価で楽しませてくれる庶民の味方である。
この店でなんといっても驚かされるのが、コークスで焼くチャーシュー。中華街にある海員閣がやはり今でもコークスを使って料理をしていると聞くが、私の知る限りではそれは二軒くらいである。
この店は地下に石造りの竈(かまど)があり、そこですべて料理が行われる。使い込まれたこの竈も、今まで極めて丁寧に扱ってこられたのだろうが、ガタがきたらもう修復できる技術者はいないであろうという骨董品。厨房は密閉された状態に近く、冬場でも暑いのだから夏場は気が遠くなるくらい暑いだろう。
そんな環境の中、ガスの二倍くらいの火力があるといわれるコークスで40分ほど焼いたチャーシューは表面がかりっとしてスモーキー、そして中は肉汁がほとばしるジューシーな仕上がり。これを気前良く厚切りにして4枚乗せたチャーシューメン700円とは気の毒なほど安い。
多少、自慢話になってしまうが、このチャーシューをでき立ての熱々で食べると、その味・香りはいっそう際立つ。特に串に刺して吊るされたチャーシューの一番下の端の部分。肉汁が集中してポタポタとそこから垂れ、しかもその汁がコークスの火で煙となって集中的に燻られる所。
決してお客様には出さない端っこの部分を切ってハフハフ言いながらつまみ食いすると、これが泣くほど旨い。朝早くから取材したものの特権だが、店に通い詰めてご主人と親しくなり、お願いすれば毎日作っているものだから口にすることができないとは限らないだろう。
近年、チャーシューはバラ肉か肩ロースをとろけるように柔らかく煮込んだものが多い。テレビでレポーターの女性が「やわらかーい。口の中でトロけちゃーう」などといっているのをよく目にする。しかし、そのようなチャーシューは大抵煮過ぎて味が溶出してしまい、豚肉本来の旨みは残っていないものである。
ここのチャーシューは、芯玉(しんたま)と呼ばれるモモ肉を使い、身が締まって噛み応えがある。年配の方には硬く感じるかもしれないが、肉の味が噛めば噛むほどに口の中に広がってくる。煮るのと違って焼くわけだから肉の旨みが逃げていかないのは当然である。豚本来の味わいが丸ごと残っているのである。
チャーシューのことばかり語ってしまったが、スープを焚く釜に目を向けると、ふんだんに使った鶏ガラと野菜の量に驚かされる。通常中華の店は弱火で澄んだ清湯スープ(チンタン)に仕上げるが、この店はスープが濁る直前の火加減で骨の髄までダシを搾り出している。
スッキリとした醤油味に仕上げているが、鶏のエキスを余すことなく表現したスープの濃度はきわめて高い。麺も以前は自家製で作っていたそうだが今はレシピを指定して発注しているという。中華の店にしては若干太めでシャキッと仕上げている。スープ・麺・具が三位一体となりバランスのとれたこの一杯。決してインパクトのある味ではないので目立たないが、手を抜かずに良い仕事をしている。この枯れた味わいを解かって欲しい。
夜9時までの営業だが、いつも10時過ぎまで常連客で賑わっている。というのは、中華の一品メニューをつまみに紹興酒や焼酎などを飲んでも二千円くらいで済んでしまうという、不況下のサラリーマンにはこたえられない使い方もあるからだ。
ご主人の話では、居座ったお客様に営業終了とは言えないので、日々夜遅くの店じまいになってしまうのだという。昼間は手ごろでおいしてランチ、夜は飲茶というか飲酒というか・・・気楽に一杯。涙が出るくらい良い店だ。
職場の近くにあったとしたら、私も常連になっているに違いない。立地も良く味も良いのにご主人に欲がないから、スポットを浴びることもなく地味に営業を続けている。マスコミやラーメンフリークの人達も新しい店ばかりでなく、ラーメンブームの底を支えてきた中堅や老舗の渋い仕事振りも、少しは見てあげて欲しいと私は思う。
(武内 伸)
「超らーめんナビ」
株式会社エディアが運営する携帯電話向けのラーメン情報サイト。Ezweb(トップメニュー⇒生活情報を調べる⇒グルメ⇒超らーめんナビ)、J-SKY(J-skyメイン⇒グルメ・ショッピング⇒グルメ⇒超らーめんナビ)の公式サイト。位置情報付データで全国のラーメン情報を紹介するほか、掲示板ではラーメン好きの人のためのコミュニケーションで連日盛り上がりを見せている。
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■中国の広東省深セン市公明で仕事をしています。最近は、かなり日本食の店も増えているそうですが、おいしいラーメンにはいきあたりません。最近は帰国しても都心へ出る機会がとても少なく、おいしそうなラーメンのお話、よだれが出るのを押さえつつ読ませていただきました。次回、機会があったら是非にと思っています。記事になると混むようになるのでしょうね。でも、、、。
(ラーメン好きの取手市民:47歳:技術顧問)
■そういう貴重なお店はそっとしておきましょう、華やかに取り上げてミーハーな客がどっと押し寄せて店主と常連に迷惑をかけるのがおちです。客が増えて丁重さが維持できなくならないように常連客だけで店がやっていけるなら分かる人だけ通える店を残しておきましょうよ。
(春田隆裕:51歳:通信機器メーカー勤務)
■美味しい店にもマスコミが取り上げやすい店とそう出ない店があるんでしょうね。すべての美味しい店がマスコミによって取り上げられるのは、少し迷惑な気がします。だって自分だけが知ってる美味しい店があると思えるのは日常生活の小さな幸せだと思いますしね。
(ば〜どまん:27歳:通信業)
■このお店の近所にオフィスがあったころ、たまに出かけていたお店でした。できあがった品が、いつも下から上がってくるのを、フシギに思っていましたが、謎が解けました。たしかに、今以上にお客さんが増えたら、いまでもお元気なのかどうか、お母さん一人で切り盛りしていた店内、大変なことになると思うので、そっとして置いて欲しいですね。
(Jody:41歳:システムエンジニア)