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MOT最新事情
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MIT教授のIT産業再生策を聞いて感じた日米の共通点

2003/06/17

クスマノ教授
 先日、MIT(マサチューセッツ工科大学)でMOT(技術経営)を担当する2人の教授が来日し、それぞれにインタビューする機会がありました。両教授とも、MITのビジネススクールである「スローンスクール」で教べんを執り、主にIT産業界の企業活動を研究しています。つまり、ITを中核にした企業の技術経営論で、独自の視点を提示されている方々です。

 マイケル・クスマノ教授は、彼の研究テーマである「Software Business」(ソフトウエア事業)について話してくれました。彼は、「Ideal Software Business」(アイデアを重んじるソフトウエア事業)という概念を提唱しています。

 クスマノ教授は、マイクロソフトやオラクルやアドビシステムズのようなソフト製品を製造・販売する企業は、Ideal Software Businessとはまだ言えない、としています。既存のソフト会社は、「複製」の事業モデルで大成功を収めたというのです。

 成功したソフト会社は、いったん「アイデア」が湧くと、それを低コストで複製することにより、極めて高利益を生み出してきました。複製の事業モデルという点では、ハードウエアや通信などのプラットフォームを提供する企業も同じ構造と言えます。

アイデアだけで利益を上げたソフト会社はまだない

 それに対して、「アイデア」にだけこだわって利益を上げる、Ideal Software Businessで食べていく企業はまだ、ほとんどありませんでした。しかし今後は、アイデアを重んじるソフト事業が盛んになる、というのが彼の主張です。

 そのきっかけは、ビジネス環境です。ソフト会社の戦略を考えるときには、市場環境の良し悪しを踏まえないといけない、と彼は言います。「これまでのようにアメリカ産業界全体が伸びているときは、複製事業モデルが正解だった。しかし、逆風が吹いたとき、モデルは変えなければならない」。

 複製事業モデルは、先々の製品計画を立てて投資し、製品を作っていきます。順調に売れれば開発資金を回収し、次の投資にあてられますが、不況のときは、固定的な計画が命取りになりかねません。

 クスマノ教授は、アイデア重視のモデルとして、「ハイブリッド・ソリューション」が現実的であると語っていました。ハイブリッドとは、製品に加え、サービス事業のモデルを組み合わせることです。

 ITサービスは人手を食うので、製品のように高収益は上げられません。しかし顧客の要求に柔軟に応じることで顧客満足度を維持していけば、不況になっても売り上げを維持できます。

 卓越したアイデアを打ち出し、しかもそれをITサービスできちんと実現していく。これがIdeal Software Businessというわけです。

生産性の高い企業を創る7条件

 もう一人の教授は、ブリュニュルフソン教授です。彼の研究テーマは、「Digital Organization(デジタル組織)」というものです。

ブリュニュルフソン教授

 ブリュニュルフソン教授は、生産性が高い企業になるためには、次の7つの条件が欠かせないと主張します。

(1)ビジネス・プロセスをアナログからデジタルに変える
(2)意思決定権を分散する
(3)オープンな情報アクセスを育む
(4)インセンティブからパフォーマンスへの橋渡しをする
(5)目的を常に見直して複数のゴールを想定する
(6)最高の人材を雇う
(7)人財への投資

 いずれも、「当たり前」と思われる方もあるでしょう。「すべてをデジタルにすればそれでいいのか」というつっこみもあるでしょう。ただし、このようにすべての条件を洗い出す思考法は参考になるところも多いと思います。

NASAと日本の共通点

 両教授は原則として、米国の事情と米国の企業について語っています。しかし私は、「日本のIT企業にもあてはまることばかりだなあ」と思いました。日米の差をとりざたする論調が多いですが、原理原則に大きな差はないようです。

 ここで話が飛びます。ITと言うと、私はNASA(米宇宙航空局)を連想します。最新のテクノロジーと最高水準のスタッフ、彼らを支える大勢の人たち。日本の技術者にとっても憧れの場所ではないでしょうか。NASAの施設内を清掃する従業員の胸には、「NASA」のワッペンが張られ、彼らもプライドもって仕事をしている、という話は有名です。

 先日、テレビで放映されていたアメリカ映画「アポロ13号」(原題:Lost Moon)を観ました。1970年に2回目の月面着陸を目指したNASAの人たちの物語を描いています。この映画を観るのは2回目でしたが、改めて感動しました。この映画には印象に残るシーンがいくつもあります。

 例えば、「置時計のようなアナログ計器」「押してはいけないボタンに貼った紙切れ」「司令室内のタバコとコーヒー」「想像以上に小さく少人数の指令室」「司令官、通信員、船長を結ぶコミュニケーション」「手でひねる回転スイッチ」「オン/オフを確実にする2個ボタンと、肉声による確認点呼」「ボールペンによる素早い検算」・・・。

 ハイテクの粋と言えるアポロは、このように現場の細かい作業の積み重ねで運営されていました。これらは、日本の優れた製造業現場の光景と同一です。

 NHKの「プロジェクトX」を私は、技術経営(MOT)の視点から観るようにしています。すると感動的な人間ドラマとは別に、現場の技術者たちの細かい実務が浮かび上がります。アポロ13はそこを大写しにし、プロジェクトXは背景として写す。手法の違いはありますが、技術の本質という点で日米に違いはないと思えてなりません。

(上里 譲=ビズテック局編集委員)

<ご案内>  日経BP社では8月末に技術と経営に関する『第2回ビズテック・シンポジウム』についてのアンケートを、WEBで実施しています(URLは下記に掲載)。アンケートにお答を頂いた方には、抽選で50名の方に全国共通ギフト券をお送りします。締め切りは6月27日(金)までです。ご協力をお待ちしています。 http://webres.nikkeibp.co.jp/user/bztsympo1.html


=読者からのコメント=

■技術の本質と言う点 及び、改善と言う点、両方に於いて、世界の技術者とあっていて、むしろ、日本の方が上だと何時も思ってます。同感です。では日本はなぜ駄目なのか? 小生は2点あると思ってます。一点めは、英語でのコミュニケーション能力。二点めは、NASA及び軍事技術に起因する憲法の壁、これは国家戦略意識が薄く、又、政府にもMOTのセンスを持った人材が少なすぎる事と思います。打開策としては、政府が音頭をとり、欧米並みに技術者の給与レベルを上げることです。事務系の給与は現在の六掛け、技術屋も現在の2−3割アップとして事務屋の2倍ほどにすべき。一保護者の視点から見ても、今のままでは投資効率が悪く、子供から見た場合、大学の勉強の不可が技術屋が圧倒的に多いのに馬鹿らしいと思うのでは? これでは理系が必要以上に減り日本の将来は無いと思います。又、メーカーの経営者少なくとも理系にする事を規範にまで持っていくべきだと思います。この様な変化が出てくれば、理系は、一年は海外大学で勉強される高額なコースが出てきても、保護者として、投資価値が出てくる。又、理系の給与が事務系の倍になれば、勤労への倫理観が向上する。もちろん事務系でも資格取得者及び能力の高い人に対して、高給にする事は良いと思います。
(MOT Promoter)

■「アポロ13号」は私も大好きで、4〜5回ほどでしょうか(?)見ました。私はプロジェクトマネジメントの視点で見ています。バックアップのパイロットやシュミレータの存在に用意周到な巨大プロジェクトの凄さを感じます。一方で、想定外の事故に対する臨機応変かつ迅速的確な数々の対処にも感心します。全体的かつ緻密な計画と個々の人々の高い能力の組合せがなせる技なのでしょう。・・・あまりMOTに関係のないコメントになってしまいました。すいません。
(fusa:39:製造業システム部門)


上里 譲

1984年に日経マグロウヒル(現・日経BP)に入社。日経データプロ(今はない)の記者として、OA(今は死語)、AI(人工知能)、金融システムなどの分野で、取材・執筆に携わる。1992年から約5年間、日経コンピュータ副編集長として、バブル経済の崩壊とともに衰退したIT産業を目の当たりにする。その後、2001年12月まで、日経情報ストラテジー編集長として、今度は“ITバブル”現象と向かい合う。「情報技術と経営が融合していれば、ITバブルは起きなかった」というのが持論。そして今年1月からビズテック局・編集委員として、MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)を中心に取材・執筆活動を始めた。MOTはまだ輪郭がはっきりしていない分野なので、試行錯誤の日々を送っている。
バックナンバー
■[2003/6/17]
・MIT教授のIT産業再生策を聞いて感じた日米の共通点

■[2003/6/3]
・「ものづくり」の体感と対話の価値

■[2003/5/20]
・日本型MOTの強みは「集団の知」

■[2003/5/13]
・技術経営の「脚本」を探せるか

■[2003/5/6]
・自社技術パワーが明日の利益を潰す!?

■[2003/3/20]
・「技術で儲ける」には発想の大転換を

■[2003/3/7]
・だれがMOTを担うのか

■[2003/2/21]
・立ち上がれ! 日本の技術経営


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