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クスマノ教授 |
先日、MIT(マサチューセッツ工科大学)でMOT(技術経営)を担当する2人の教授が来日し、それぞれにインタビューする機会がありました。両教授とも、MITのビジネススクールである「スローンスクール」で教べんを執り、主にIT産業界の企業活動を研究しています。つまり、ITを中核にした企業の技術経営論で、独自の視点を提示されている方々です。
マイケル・クスマノ教授は、彼の研究テーマである「Software Business」(ソフトウエア事業)について話してくれました。彼は、「Ideal Software Business」(アイデアを重んじるソフトウエア事業)という概念を提唱しています。
クスマノ教授は、マイクロソフトやオラクルやアドビシステムズのようなソフト製品を製造・販売する企業は、Ideal Software Businessとはまだ言えない、としています。既存のソフト会社は、「複製」の事業モデルで大成功を収めたというのです。
成功したソフト会社は、いったん「アイデア」が湧くと、それを低コストで複製することにより、極めて高利益を生み出してきました。複製の事業モデルという点では、ハードウエアや通信などのプラットフォームを提供する企業も同じ構造と言えます。
アイデアだけで利益を上げたソフト会社はまだない
それに対して、「アイデア」にだけこだわって利益を上げる、Ideal Software Businessで食べていく企業はまだ、ほとんどありませんでした。しかし今後は、アイデアを重んじるソフト事業が盛んになる、というのが彼の主張です。
そのきっかけは、ビジネス環境です。ソフト会社の戦略を考えるときには、市場環境の良し悪しを踏まえないといけない、と彼は言います。「これまでのようにアメリカ産業界全体が伸びているときは、複製事業モデルが正解だった。しかし、逆風が吹いたとき、モデルは変えなければならない」。
複製事業モデルは、先々の製品計画を立てて投資し、製品を作っていきます。順調に売れれば開発資金を回収し、次の投資にあてられますが、不況のときは、固定的な計画が命取りになりかねません。
クスマノ教授は、アイデア重視のモデルとして、「ハイブリッド・ソリューション」が現実的であると語っていました。ハイブリッドとは、製品に加え、サービス事業のモデルを組み合わせることです。
ITサービスは人手を食うので、製品のように高収益は上げられません。しかし顧客の要求に柔軟に応じることで顧客満足度を維持していけば、不況になっても売り上げを維持できます。
卓越したアイデアを打ち出し、しかもそれをITサービスできちんと実現していく。これがIdeal Software Businessというわけです。
生産性の高い企業を創る7条件
もう一人の教授は、ブリュニュルフソン教授です。彼の研究テーマは、「Digital Organization(デジタル組織)」というものです。
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ブリュニュルフソン教授 |
ブリュニュルフソン教授は、生産性が高い企業になるためには、次の7つの条件が欠かせないと主張します。
(1)ビジネス・プロセスをアナログからデジタルに変える
(2)意思決定権を分散する
(3)オープンな情報アクセスを育む
(4)インセンティブからパフォーマンスへの橋渡しをする
(5)目的を常に見直して複数のゴールを想定する
(6)最高の人材を雇う
(7)人財への投資
いずれも、「当たり前」と思われる方もあるでしょう。「すべてをデジタルにすればそれでいいのか」というつっこみもあるでしょう。ただし、このようにすべての条件を洗い出す思考法は参考になるところも多いと思います。
NASAと日本の共通点
両教授は原則として、米国の事情と米国の企業について語っています。しかし私は、「日本のIT企業にもあてはまることばかりだなあ」と思いました。日米の差をとりざたする論調が多いですが、原理原則に大きな差はないようです。
ここで話が飛びます。ITと言うと、私はNASA(米宇宙航空局)を連想します。最新のテクノロジーと最高水準のスタッフ、彼らを支える大勢の人たち。日本の技術者にとっても憧れの場所ではないでしょうか。NASAの施設内を清掃する従業員の胸には、「NASA」のワッペンが張られ、彼らもプライドもって仕事をしている、という話は有名です。
先日、テレビで放映されていたアメリカ映画「アポロ13号」(原題:Lost Moon)を観ました。1970年に2回目の月面着陸を目指したNASAの人たちの物語を描いています。この映画を観るのは2回目でしたが、改めて感動しました。この映画には印象に残るシーンがいくつもあります。
例えば、「置時計のようなアナログ計器」「押してはいけないボタンに貼った紙切れ」「司令室内のタバコとコーヒー」「想像以上に小さく少人数の指令室」「司令官、通信員、船長を結ぶコミュニケーション」「手でひねる回転スイッチ」「オン/オフを確実にする2個ボタンと、肉声による確認点呼」「ボールペンによる素早い検算」・・・。
ハイテクの粋と言えるアポロは、このように現場の細かい作業の積み重ねで運営されていました。これらは、日本の優れた製造業現場の光景と同一です。
NHKの「プロジェクトX」を私は、技術経営(MOT)の視点から観るようにしています。すると感動的な人間ドラマとは別に、現場の技術者たちの細かい実務が浮かび上がります。アポロ13はそこを大写しにし、プロジェクトXは背景として写す。手法の違いはありますが、技術の本質という点で日米に違いはないと思えてなりません。
(上里 譲=ビズテック局編集委員)