近自然学では、共生共存を「我々の豊かさと地球環境との両立」と定義している。交通システムや道づくりにおける共生共存とはどんなものか?
我々の豊かさや利便性のためにクルマが大きく貢献するなら、クルマの利用を認めよう。しかし、多くの人命が失われるのは容認できない。同時に、豊かさをそがないようにしたい。場合によっては、さらに豊かさを増しながら環境負荷を低減させたい。しかし、そもそもそんな都合のよい方策があるのか?
今回から3回にわたって、「新しい交通システム」と「新しい道づくり」を提案する。
「新しい交通システム」では、エネルギー効率の良い、従って環境負荷の低い鉄道と船が主役を取り戻さならなければならない。そして、公共交通、自転車などを容易に利用できるシステムを構築する。さらに、カートレイン(クルマを運ぶ列車)やカーフェリーなど、鉄道や船とクルマとの新しいコンビネーション・システムも実現したい。
いっぽう「新しい道づくり」では、今までの道路が持つ問題点を改善したい。具体的には、多発する重大事故、増大する排ガスなどのエミッション(放出・発散)、恒常的な交通マヒ、交通弱者への大きな危険性、運転が単調で眠気を誘う……などへの解決策だ。
新しい道は、人間の心理を積極的に利用した、従来の道づくりとは正反対のものとなるだろう。「道幅は狭く、左右にワインディングし、上下にアップダウンし、木々で見通しが悪く、夜は暗く、交差点はロータリーや右左折優先で制御し、ドライバーに軽い緊張感を与える」という提案だ。
「新しい交通システムと道づくり」では、以下のテーマについて、順番に取り上げていく。
1.交通システムの大変革が間近に迫っている
2.新しい交通システムの提案:近自然交通システム
3.今までの道路が抱える問題
4.問題の原因とその対策
5.新しい道づくりの提案:近自然道路工法
6.クルマ主体から人間主体へ
7.「ランドシャフト(気持良さ)」:環境を評価するための新しい基準
1.交通システムの大変革が間近に迫っている
日本をはじめとする多くの先進国内では、物品の輸送はトラックが主体だ。しかし、これがビジネスとして成立するのは、排気ガスなどの環境負荷がタダだからである。
石油はあと40年ほどで枯渇すると言われており、希少性が増していく。さらに環境負荷ペナルティー(環境負荷の加害者に対する心理的・物理的制裁のこと。罰金、関税、税金、名前公表などの形を取る)が今後加わることで、遠からずガソリンの値段は現在の6〜7倍になることも予測されている。そうなると、本当に必要なもの以外、トラック輸送は経済的に成立しなくなる。こうした輸送の大変革は身近に迫っているのだ。
大変革は裏を返せばビジネス・チャンスでもある。そして、新たな雇用が生まれる可能性も大きい。
2.新しい交通システムの提案:近自然交通システム
道路交通の諸問題を解決するために、「クルマを諦める」という選択肢が我々にあるのか?……おそらく、ないであろう。
では、どうするか? まずは交通量をできるだけ減らすこと(リデュース)だ。日々の人の移動を減らすには「職住の近接」が最も有効であり、物流を減らすには「地産地消」が威力を発揮するであろう。しかし、これらは今回のテーマではないので、他章に譲りたい。この章では、その次の課題である「交通システム」と「道づくり」の見直しと新しい提案を試みる。
便利で環境負荷の小さな近自然交通システムの構築は、「クルマや飛行機のエネルギー効率を上げる」というテクノロジー(技術、工学)上の努力とは別のシステム工学による。
いろいろな交通機関の長所をうまく組み合わせたシステムを構築したい。長距離の拠点間は、鉄道や船を活用する。市街地とその周辺を結ぶ中距離では公共交通(トラム:路面電車のことだがそのまま郊外電車にもなる、トロリーバス:架線を持った電気バスで環境負荷が小さく柔軟性が大きい、バスなど)を中心に据える。
そして、短距離は、徒歩と自転車を主体とする。ドアtoドアの移動が可能なトラック、タクシー、マイカーは比較的短い距離において、徒歩や自転車を補う役目を負い、重量物の集配、高齢者や身障者の移動を助ける。
経済と環境の両面の理由から、マイカーやトラックが長距離を自走することは例外となるだろう。最寄りの駅や港まではマイカーで走り、そこからはカートレインやカーフェリーに乗る。目的地の近くの駅や港で降りて、再び自走する。それが鉄道とクルマの長所をつなぎ合わせたシステムだ。
エネルギー効率の良い飛行船(大型のツェッペリン飛行船の開発と製造を再開し、多くのバックオーダーを抱えて好調にすべり出した)のうまい利用も、重量物輸送をはじめとする分野で、これからの大きな可能性になるだろう。また、自転車をトラムやバス・地下鉄などに乗せて運ぶバイクトラムやバイクバス、バイクメトロを早急に実現させる。スイスやドイツでは、こうしたシステムはごく普通のものになっている。カートレインについても同様だ。
■次回の掲載は、10月19日の予定です。
(山脇 正俊=近自然学研究家)
■山脇さんのおっしゃることには、非常に賛同を覚えます。しかし、多少気になることがあります。
「自転車をトラムやバス・地下鉄などに乗せて運ぶバイクトラムやバイクバス、バイクメトロを早急に実現させる」。
とのことですが、日中でも混雑の激しい日本の交通機関では実現は難しいのではないでしょうか。
また、カートレインも車の積み降ろしに手間や時間がかかるし、マイカーを運ぶこと自体があまり効率的とは思えません(トラックやトレーラのカーフェリーでの長距離輸送は効率的ですが)。
それよりパーク&ライドやレンタカー、レンタサイクルの活用を図るべきではないでしょうか。あのセグウェイもうまく使えば電車に持ち込める便利な軽交通手段になるかもしれませんね。
理想的には自転車さえも必要としないコンパクトな町づくりが求められるところでしょう。その話は今後出てくるのでしょうね。
(我々は何処へ行くのか)
■内容は私が前から主張していたことにかなり近いものです。しかし、大都市圏を少し離れると鉄道はおろかバスもほとんど無い状況で、どうしたら移動できるかの方が、大きな問題です。
その他として、職住接近と現在の住宅政策の食い違いです。この点について私は、大都市内の賃貸住宅の多量建設、リタイアしてからの郊外での自宅購入がベターと考えます。しかし。が現実には住宅取得政策が先行しており難しいですね。
曲がりくねった道路の提案には反対です。住宅地内はシケインやボンエルフその他の方法でスピードを落とさせる対応が望ましいでしょう。しかし、郊外では、いかに早く着くかも大きなテーマでしょう。
(東海林 更二郎:57歳:株式会社NIPPOコーポレーション)
■=筆者からのレス=
(我々は何処へ行くのか)さんのコメントに
とても的確なご指摘を受けました。私の考えをもう少し詳しくお話します。
まず、交通システムは都市計画や道づくりとも連動していなくてはなりません。これだけ単独にディスカッションすることは、意味がないとは言えませんが、都市が変われば交通システムもまた変えなければなりませんので、非効率ですね。逆に、すべての分野を一気に変えることも現実的ではありません。最終的な到達目標を設定し、あらゆる分野でその方向へ踏み出すようにしたいものです。
そこでご指摘の点です。
まず「バイクトラム・バイクバス・バイクメトロ」の件です。
「日中でも混雑の激しい日本の交通機関では実現は難しいのではないでしょうか。」
おっしゃるように、東京など大都市の中心部では実践が難しいかもしれません。特にラッシュ時は絶対に不可能でしょう。しかし、場所と時間帯によっては十分に可能性がありますし、それを望む声も実際に聞きます。
私の住んでいるのはスイス最大の都市チューリッヒの郊外です。チューリッヒ市は人口約40万人で岐阜市ほどの規模です。地下鉄はありませんが、郊外電車、トラム、トロリーバス、バス、定期船などは、すべて車イス、自転車、乳母車、犬(盲導犬だけではない)などを乗せることができます。
車イスと盲導犬は無料ですが、それ以外は子供用料金が必要です。乗せてよい時間帯が決まっているわけではありませんが、自粛によって他の利用者との大きな軋轢(あつれき)なしにうまく機能しているようです。
大都市では意外に自転車が便利です。バイクトラム・バイク(トロリー)バスが実現すれば、自転車の利用者が増え、クルマや都市交通の混雑も緩和されるかもしれません。バスでしたら、車内に入れずに後部に吊るす方法もあります。
「カートレインも車の積み降ろしに手間や時間がかかるし、マイカーを運ぶこと自体があまり効率的とは思えません(トラックやトレーラのカーフェリーでの長距離輸送は効率的ですが) 」。
ご心配はごもっともです。
スイスにあるアルプス貫通のカートレインや湖横断のカーフェリーを見る限り、とっても簡単で迅速ですよ。適当な汽車や船の規模を選択することにより、待ち時間もほんのわずかです。チューリッヒ湖横断のカーフェリーは、朝夕は5分ごとに出ます。
ただし、おっしゃるように、マイカーを運ぶことに意味があるのかどうかという問題は残ります。こちらでは小さな子供たちのいる家族がバカンスに行く場合、クルマに自転車やボートなども含めた必要な物一切を積み込み、目的地まで行きます。キャンピングカーも次第に増えています。こういう人達にとって、汽車や飛行機での乗り換えなど、考えられないことでしょう。日本での状況は分かりませんが、そんなに違わないのではないでしょうか?
「それよりパーク&ライドやレンタカー、レンタサイクルの活用を図るべきではないでしょうか 」。
それも良いアイデアだと思います。
チューリッヒ市ではレンタサイクルは無料(デポジットを預ける)です。ミュンヘン市では自由に乗り捨てができます。スイスではカーシェアリング(皆で投資して共同でクルマを利用する)が大成功しており、大小の組織があって、必要なときに安くクルマを利用できます。考えればもっといろいろなアイデアが出て来るでしょうね。
今回の私の提案は、これが正解だというようなものではなく、ディスカッションのための一つの叩き台とご理解ください。どんなものにするのかは、これから皆さんでディスカッションしていく必要があります。
「理想的には自転車さえも必要としないコンパクトな町づくりが求められるところでしょう。その話は今後出てくるのでしょうね」。
核心を突いたご意見で、全く同感です。
ご想像のように、「新しい道づくり」に続く「新しいまちづくり」の章でお話しする予定です。ご期待ください。
(スイスの山脇:54歳:入門「近自然学」筆者)
=筆者からのレス=
(東海林 更二郎:57歳:株式会社NIPPOコーポレーション)
さんのコメントに
コメントどうもありがとうございました。
「内容は私が前から主張していたことにかなり近いものです」。
似たようなお考えの方がおられて、うれしいです。
「しかし、大都市圏を少し離れると鉄道はおろかバスもほとんど無い状況で、どうしたら移動できるかの方が、大きな問題です 」。
現状ではクルマの活躍の場はまだまだありますね。クルマは様々な問題を抱えていることも事実です。しかし、要はその特徴を生かしたうまい使い方を考えることだと思います。単に悪者扱いするのは正しくありません。
むしろ問題の根源は、そのような場所に住む人たちが都市志向だということではないでしょうか。都市志向にならざるを得ないとも言えます。大都市周辺の市町村には職場も学校も商店もなく、単なるベッドタウンでしかないことをこそ問題にすべきでしょう。
「その他として、職住接近と現在の住宅政策の食い違いです。この点について私は、大都市内の賃貸住宅の多量建設、リタイアしてからの郊外での自宅購入がベターと考えます。しかし。が現実には住宅取得政策が先行しており難しいですね 」。
全くそうですね。我々はかなり近い認識を持っているようです。この点に関しては、「新しい道づくり」の後に続く「新しいまちづくり」の章でディスカッションさせてください。
「曲がりくねった道路の提案には反対です。住宅地内はシケインやボンエルフその他の方法でスピードを落とさせる対応が望ましいでしょう。しかし、郊外では、いかに早く着くかも大きなテーマでしょう」。
この後2回にわたって「新しい道づくり」についてお話します。これをお読みいただいた後に、ディスカッションをぜひ続けたいと希望します。その際に「曲がりくねった道路の提案には反対」の理由をお聞かせください。私自身とても興味があります。
では、またその折りに・・・
(スイスの山脇:54歳:入門「近自然学」筆者)