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入門「近自然学」〜豊かさと環境の両立は可能だ
プロフィール
環境問題って何だろう?〜エコロジー(環境)とエコノミー(経済)の関係

2004/09/07

山脇 正俊 氏

 「地球環境は崖っ縁に立っている」と言われる現在、人類はその解決に行き詰まっているように見える。革新的なテクノロジーもしくは魔法使いでも出現しない限り、こどもたちの明るい未来はないのか?

 自然が壊れ、環境が汚れ、動植物たちがいなくなること自体を問題とする向きもある。しかし、本当の環境問題は、今の豊かさが子供たちの時代まで長続きしそうにないこと。さらに、もしかしたら人類存亡の分かれ目が迫っているかもしれないことだろう。

 我々は、エコロジー(環境)とエコノミー(経済)が対立する多くの局面において、おそらくは苦渋の選択としてエコノミーをとった。その結果、環境はほとんどメチャメチャと言えるような状態になってしまった。いっぽう、選んだはずの経済も長い低迷を続けているのが現実だ。

 我々は何を間違えたのか? 素晴らしい環境と豊かさを取り戻すためにはどうすればよいのか? 本来、密接な関係があるエコロジーとエコノミー……それらについて、これから約10回にわたってお話ししていきたい。

1.環境問題とは何か?

 ある人は、そんなこと
 - 自然破壊
 - 環境(大気、海洋、土壌)汚染
 に決まっているではないか!と言う。

 またある人は
 - CO2濃度の急激な上昇
 - 地球温暖化
 - 野生動植物の絶滅
 - アルプスの氷河や南極北極の氷塊の溶融と消滅
 - 海面上昇
 - 台風や大洪水の多発
 などを思い浮かべるかもしれない。

スイス・アレッチュ氷河の後退(写真:WWFスイス)

 90年間でスイス・アレッチュ氷河はほとんど消滅してしまった。著者が在住しているスイスでは、このように「地球温暖化」が実感できる。

 しかし、これらが本当に環境問題の核心なのだろうか?

 自然が壊れたり、地球が温暖化したり、動植物が絶滅すると、なぜ問題なのだろう? 我々の日常生活にはたいして影響しないのではないか?

 問題の設定を間違えると、その後の対策は当然のことながら核心を外す。本当の問題とは、ごく大まかに言えば、
*我々がようやく実現した豊かさがどうやら長続きし得ないこと
*もしかしたら、人類の存続そのものも危うい可能性があること
の2点であろう。

2.地球環境の現状をおさらいしよう

 地球環境が「崖っ縁」と言われるが、具体的にはどういうことなのか?

 最も有名なデータは、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇と、それに起因するとみられる気温の上昇(地球温暖化)であろう。

 ほぼ一定であった大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が、西暦1800年ごろを境に上昇を続けている。1800年ごろに何が起こったのか? 「産業革命」である。石炭や石油などを大量に使うことにより、人類は現在の文明を築き上げた。その豊かさの陰には犠牲があったのだ。

 犠牲の一つが大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の急激な上昇である。

 大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が上昇すると、地球に熱がたまり、気温が上昇することが分かっている。いわゆる「温室効果」だ。少なくともここ1000年間、気温は少しずつ下がり続けていたことが分かる。それが西暦1900年を過ぎたあたりから急激な上昇に転じた。

 これらの環境データが物語るのは、今の豊かさは、子供たちを含めた人類の共有財産である地下資源や環境資源を使い尽くすことによって成り立っているらしいことであろう。石油はあと40年ほどで枯渇すると言われるし、環境は……どれほどもつのか?

3.このまま行くと……

 この先、地球環境はどうなるのか? 今までのいろいろな環境データから試算し予測することができる。

 今後100年間の地球の気温は急激な上昇が予想されている。いろいろなシナリオが考えられるが、2000年を基準(ゼロ)として、1.5〜6度上昇する可能性がある。1.5〜6度というと、たいしたことないように受け取れるかもしれない。しかし、この数字は全地球における、しかも平均気温なので、実は、夏場の灼熱地獄を意味する恐ろしい数字なのだ。

 地球環境が激変すれば、弱い動植物からどんどん死んでいく。それが「動植物種の絶滅」である。野生の動植物が死滅しても、我々人類の日常生活に当面は影響しないかもしれない。しかし、これは同じ地球環境に住む人類への警告と理解すべきであろう。

 多くの動植物が棲めない環境は、同じ環境に適応した我々にも、大変住みにくいに違いない。

 現在「約13分に1種」「1日に約110種」「1年間に約4万種」の割合で、野生動植物が地球上から姿を消していると言われる。絶滅種数の急激な増加がこのまま続けば、早ければ2030〜50年ごろには地球上の野生動植物はゼロになる可能性もある。……我々はそんな切羽詰まった状況に置かれていると判断せざるを得ない。

 こうした事態は、単なる杞憂であってほしいが、事実かもしれない。事実であると仮定して危険回避行動を取るのが、リスク管理の基本であろう。何もせず放っておくことに子供たちの未来を賭けるのは、リスクがあまりに大きすぎるのではないだろうか。

4.なぜ我々は環境問題を解決できないのか?

 なぜ我々は環境問題を解決できないのだろうか? それは、現状が「豊かさか環境か」のどちらかを取らなければならない二者択一だからである。

 現在の我々の豊かさは、石油エネルギーに支えられている。石油などの化石資源エネルギーは環境負荷の大きいことが分かっている。つまり、我々が豊かになればなるほど、環境へのインパクト(打撃)が大きくなる。

 逆に、環境に配慮すると豊かさを落とさなければならない。いたる所で見られる「豊かさか環境か」「建設か保護か」という対立はそのためだ。

 一度経験してしまった豊かさを、我々は諦めることができない。だから、環境問題が深刻であることを承知していながら、問題を解決するどころか、悪化の加速を止めることすらできないのだ。

5.どうすれば良いのか?

 それは「環境共生共存」、つまり、地球環境と人類が折り合いを見つけて共に生きることだろう。換言すれば、「豊かさを維持しながら、環境負荷を低減すること」で、「地下資源や環境資源の持続利用」とも言えよう。

 そんなことが可能なのか? ……可能なのである。どうすればよいのかを提案するのが「近自然学」である。

 「環境問題の解決」は「我々の豊かさの持続を約束」してくれる。また、「気持よいふるさと、素晴らしい国土。そして美しい地球を取り戻すこと」でもある。具体的には、「安全できれいな川を、交通事故が少なく走りやすい道を、気持よい住みやすいまちを、健康で美味しい食を、安くて環境負荷の少ないエネルギーを、個人の能力が生かされ十分な報酬の得られる産業などを実現すること」でもある。

 さらに言えば、「あらゆる分野で新しいビジネス・チャンスを生むこと」とも言える。ただし、そのためには我々個人や企業の「意識改革」や「体質改善」が必要なことも事実であろう。

 次回より、読者の反応などから筆者の気が変わらない限り、以下のテーマで書いていきたい。
 ・近自然学がすべてを解決するか?
 ・新しい交通システムと道づくり
 ・新しいまちづくり
 ・新しい川づくり
 ・新しい農林水産業
 ・新しいエネルギー利用
 ・新しいビジネス

(山脇 正俊=近自然学研究家)

=読者からのコメント=

■・新しい交通システムと道づくり ・新しいまちづくり ・新しい川づくり ・新しい農林水産業 ・新しいエネルギー利用 ・新しいビジネス

 これらはすべて大きな初期投資を要するように思えます。そして大きなパラダイムシフトを要するようにも思えます。大きなパラダイムシフトと投資への動機付け。これをどのように行うのかが、いちばん大きな問題であるような気がします。それなしに具体論を論じても卓上の空論になるのではないかと危惧するものです。
(匿名:39歳:技術)

■まだ連載が進んでいない中でのコメントですが。

 個人的には豊かさと"地球"環境との両立についての議論をご紹介をいただけることを期待しております。

 今後のテーマに予定されている、新しいまちづくりについては、身近な"住"環境はよくなるとは思いますが、地球環境とのつながりがよく分からない印象を受けました(例えば、この回で大きく取り上げられているCO2濃度上昇に対しては、抑制効果はあまり期待できないのでは?)。
(kitsuyuki:34才:研究開発)

■日本をはじめとする先進国の環境問題に対する意識は、学校教育や企業の方針により、変りつつあると思います。しかし、これから後進国が産業発展を迎えます。つまり、ここで議論されている経済的豊かさを享受していない人達が本当にたくさんいます。

 先進国が犯した過ち(環境破壊)の二の舞いを後進国が踏まないためには、どのように以下の項目をとらえ、今まちづくりをしている国々に伝えることができるのか、考えてみたいです。

 また、今後の連載を楽しみにしています。
 ・新しい交通システムと道づくり
 ・新しいまちづくり
 ・新しい川づくり
 ・新しい農林水産業
 ・新しいエネルギー利用
 ・新しいビジネス

(Hiro:34歳:技術)

■このような課題に関しては、一般的に皆さん、以下のような状況だと思います。
1.断片的な情報は持っているが、情報と情報が頭の中で結びついていない。
2.漠然とした不安は持っている。
3.自分は何をしたらよいか分からない。あるいは協力したいがどうしたらよいか分からない。
4.かと言って、知らないNPOなどに参加する気持ちもわかない。

 この辺の体系的な考え、そして我々が何をすればよいか、という示唆を頂けば幸いです。
(yomachi:54才:IT系)

■=筆者からのレス=
(匿名:39歳:技術)さんのコメントに。

 おっしゃること、私も共感します。

 我々が必要としているのは、観念的な議論ではなく、効果が上がり、しかも実践可能と思われる理念・原則とそれに基づいた手法の提案、そしてその実践です。考えるだけでは不足ですし、逆にやみくもに実践するのもムダが多すぎてもったいないです。

 近自然学はそういうものを目指しますが、まだ若い学問ですので空白の部分も多く、これからブラッシュアップしていかなければなりません。実際、300人ほどの人たちが「近自然の広場」というメーリングリストに参加して毎日活発な議論を続けています。始めて2年あまりで書き込み8500件という数字がその活発さを物語っています。

 ですから、今回の連載は、環境問題の解決案の一つをご紹介すると同時に、叩き台として問い、皆さんのお知恵を拝借することも大きな目的です。特にエンジニアの方々には特別な協力をお願いしたいと思います。同時にそれが新しいビジネス・チャンスでもあるわけです。

 「大きな初期投資」に関して。

 ソフトランディングかハードランディングかにより大きく変わる可能性もありますが、一概に初期投資が大きいとは言えないでしょう。例えば、スイス・チューリッヒ州、ドイツ・バイエルン州で広く実践されている「新しい川づくり(近自然河川工法:日本では多自然型川づくりという)」では、初期投資は全く必要ありませんでした。

 ただし、意識改革や新しい分野の勉強なども一種の投資ですから、その意味で全く必要ないというのは間違いかもしれません。

 次回に詳しくお話しするつもりですが、地球環境全体への貢献を考えるなら、特定の分野だけ、狭い地域だけの徹底的な環境対策より、広い分野、広い地域でのほどほどの対策の方が、同じ量のエネルギーや投資でも効果がより大きくなります。地球環境にとっても人類にとっても得策となります。

 つまり、複雑で高価なハイテク技術を少しだけより、単純で安いローテク技術を広く実践した方がよいのです。これが「負荷は集中、対策は分散」という原則で、今までの我々の盲点でした。そういうわけで、初期投資はそれほど大きくなくてもよいかもしれません。

 「パラダイムシフト」は必要不可欠だと思います。私はこれを「意識改革」と表現し、個人や企業単位でのシフトが可能だと考えています。

 いずれにしても、社会全体を一気に変えようというのは無理があり、あちこちに歪みを生む危険性があります。ですから、次のプロジェクトから新しい考えに則ってやればよいと思います。

 これは『新しい道づくり」でも同じです。いっぽう、「新しいまちづくり」ではかなりの初期投資が必要とも言えます。しかし、ここでも、再開発などの機会を捉えて実行すればよいでしょう。事実、チューリッヒ市内では、そのような再開発事例が二つ進められています。

 「新しいエネルギー利用」、「新しい農林水産業」では、個人や農業者がそれぞれ転換を実現することにより変革が進む、というロードマップを想定しています。大きな事業者がこの変革の波に乗るのかどうかは、経営者の判断に任されますが、乗り遅れれば大きな企業であっても生き延びることが難しくなるかもしれません。
(スイスの山脇:54歳:近自然学筆者)

■=筆者からのレス=
(kitsuyuki:34才:研究開発)さんのコメントに

 ご心配ごもっともだと思います。詳しいことは「新しいまちづくり」の章でお話しします。

 市街地を「集中高密度化」するとともに、大都市を「ユニット(小単位)分割」して「職住商学医緑などを近在」させることにより、CO2をはじめとした環境負荷はかなり低減される可能性も大きいでしょう。

 同時にこれらは、住民の生活の質の向上にも貢献すると信じます。住いから徒歩10分くらいの範囲内に、職場、学校、商店、緑地などがある、コンパクトで気持良いまちづくりです。
(スイスの山脇:54歳:近自然学筆者)

■=筆者からのレス=
(Hiro:34歳:技術)さんのコメントに

 ご意見、全く同感です。後進国の問題を放置しては、我々の努力はすべて水の泡となる危険性が大きいです。近自然学も当然それを考えます。ただし、近自然の原則はどこでも同じです。その場所の自然や社会の条件により、ふさわしいテクノロジーや形が変わるだけです。逆に言うと、テクノロジー主体の解決策は、落とし穴に陥る危険性が大きいという意味でもあります。

 環境問題の解決は一つのビジネスでもあり、企業にとっては大きなビジネス・チャンスです。しかし、従来のやり方は通用しないかもしれません。つまり、あるテクノロジーを開発して世界中に売り込むやり方は過去の物という意味です。その場の条件にジャストフィットしたソリューションを的確に見付けることが新しいビジネスになるでしょう。

 (匿名:39歳:技術)さんにもレスしましたように、複雑で高価なハイテク技術を少しだけより、「単純で安いローテク技術を広く実践」した方がよいのです。ということは開発途上国にもチャンスが大きいということです。むしろ先進国に適用するよりずっと楽かもしれません。太陽エネルギーをはじめとした再生エネルギーが十分にあることも大きな強みです。

 問題は、だれがそれをやるのかですが、「新しいビジネス」と理解すればよいのではないでしょうか。
(スイスの山脇:54才:近自然学筆者)

■=筆者からのレス=
(yomachi:54才:IT系 )さんのコメントに

 全く同感です。環境保護や共生共存が、市民の立場や、ましてやビジネスサイドから語られることはほとんどありませんでした。特にビジネスの視点からは、環境を守ることに(従って我々のこどもたちの将来に)否定的なものが多かったように思います。それは、「豊かさか環境か」「経済か環境か」「建設か保護か」という対立構造から抜け出すことができなかったからだと思います。これでは我々人類はいつまでたっても環境問題を解決することができず、最後はタイムアウト=時間切れとなる危険性も大きいです。

 そこで「豊かさと環境を両立」させるという新しい視点から環境問題を見直してみたいと思います。そうすると、全く別の世界が開ける可能性もありますね。具体的な手法に関しては、これから皆さんと議論していかなければならない部分もあります。どうか活発なディスカッションをお願いします。
(スイスの山脇:54歳:近自然学筆者)

■環境問題に関しては漠然とこのままではまずいよなという感触を持っていました。しかし、具体的には、個人として何かすべきこと、できることがあるのかが判断つきませんでした。

 自分自身の環境およびその環境が、ひいては地球環境につながっているという感覚(地球との接続感を持った神秘体験があります)はあるのですが、それがディープエコロジーなどで呼ばれるものであったのかもしれません。

 ではどうするか? 具体的な方法論が聞けると、うれしいです。
(Void:33歳:IT系ライター)

■こうした概念的ビジョンを描くことは大切だと思います。各論はこうした記事では追いきれないと思いますから、レスの中で補足的にフォローすればよいと思います。

 しばしばこうした論文は「机上の空論」と批判されます。ですが、それは(議論の掘り下げが浅いのでない限りは)読み手の想像力の欠如、つまり自分のスタンスに立ってのビジョンがないことの方に問題がある場合が多いと思います。

 まずは、こうした大衆的批判を恐れずに、理念・哲学のレベルで議論を提示していただきたいと思います。日本は、特にそうした抽象的概念が、現実の問題に比べて軽視されがちだと思いますので。
(vun:34歳:建築都市工学・教育研究)

■=筆者からのレス=
(Void:33歳:IT系ライター)さんのコメントに

 地球環境の現状が好ましくないということは、おそらく地球上のほとんどの人たちが共有している認識ではないかと思います。しかし同時に、多くの人たちがそれを認めたくないと(無意識に)思い、解決を先延ばしにしてきたことも事実でしょう。そうしているうちに、環境は加速度的に悪化する状態となり、歯止めをかけることすらできなくなってしまいました。

 ですから、おっしゃるように、まず地球環境が「このままではまずいよな」と思うことはとても重要です。そうでないと、我々は行動に移れません。危険に際して我々の身を守るのは、実は危機感の存在です。危険を危険と感じなくなれば対処できませんからね。

 そんなわけで、第1回目のお話しは、できるだけ多くの方々に「このままではまずいのではないか」と思っていただくための章と考えました。

 さて、「自分自身の環境が地球環境につながっているという感覚」は素晴らしいと思います。そのような感覚をお持ちなら、その後の話は速いでしょう。そこで「個人として何かすべきこと、できることがあるのか」です。もちろんあります。次回からを乞うご期待……では不親切ですね。

 普通我々は、弱小な個人が何をしようと地球環境にはたいして影響しないのではないかと考え、国が行なうような大プロジェクトに期待しがちです。しかし、それは間違いです。地球環境をここまで追い込んでしまったのは、実は小さな負荷の積み重ねです。

 次回に詳しくお話ししますが、地球環境と人類の豊かさのために「負荷は集中、対策は分散」という原則があります。そうすると、大きな環境対策プロジェクトを一つだけ実現するより、多くの個人が自分の生活する範囲内でできることをたくさん積み重ねた方がずっと有利になります。

 例えば、スイスだけが素晴らしい国になってもダメですし、水質の改善だけに徹底的な努力を注いでも、地球環境への貢献はそれほど大きくないと言えるわけです。世界中のあらゆる国々のあらゆる分野でほどほどの対策を重ねることをこそ、我々は考えなければなりません。

 そうすると、我々一人一人が「何をするのか」「何をしないのか」が俄然重要になってきます。
(スイスの山脇:54歳:近自然学筆者)

■=筆者からのレス=
(vun:34歳:建築都市工学・教育研究) さんのコメントに

 とても似た認識をお持ちのようです。なにやら、エールとエネルギーを頂いたようで、心強く感じました。どうもありがとうございました。「建築都市工学」がご専門とのことですので、特に「まちづくり」の章ではいろいろお知恵を拝借したいと思います。

 日本人の特質の一つは、論理的な思考法が苦手なことだと言われます。おっしゃるように、抽象的な「哲学や理念や原則」を軽視し、具体的な「技や形」を偏重するのもその現れでしょう。ヴィジョン(理想像)やスタンス(姿勢)が不明確なプロジェクトが、日本には何と多いことか。

 ヴィジョンは進むべき方向を示し、スタンスは到達すべき目標を決めてくれます。この二つが不明瞭ならば、進むべき方向も到達すべき目標も明確に決めずに走り出すことを意味します。これで効果が上らないのは、むしろ当然でしょう。それに、到達目標が不明瞭なら、結果の正否判定と評価もできないはずです。

 なぜこんなことが起こり得るのか? それは、工法(技)や資材や形が目的であるかのよう振る舞うからでしょう。「上」から与えられる「指針」やマニュアルに抽象的な思考プロセスを預けてしまい、具体的な造形に興味と議論を集中します。

 本来、「工法や資材」は目的を実現するための「ツール〔手段)」であるはずです。つまり、目的と手段の混同ですね。それに対して「形」はあるプロセス(過程)を踏んだ「結果」です。我々の行為はプロセスですから、ここでは、プロセスと結果の混同があるように思います。
(スイスの山脇:54歳:近自然学筆者)

■こんばんわ。紹介された「近自然の広場」ML管理者としても、連載が開始され、今後の展開を楽しみにしています。山脇さんの著者「近自然学」を越える内容になって下さることに期待しています。さて、寄せられた皆さんからのコメントは的を射たものに感じます。議論が深まることを予感させます。

 私からのリクエストですが、そもそも「近自然学」は単なるインフラ整備をまとめた学問体系ではないと思うので、インフラ整備に寄った各項のタイトルづけではなく、行政、企業、個人・・・立場によらず興味を持てるタイトルとして下さる方がありがたいように感じます。例えは「川づくり」ではなく「安全で自然豊かな川とは?」など、そういうイメージです。例えばですが。

 スイスなどは、自然環境もランドシャフトも社会資本としてインフラ整備のようなイメージで進めているように感じます。しかし、日本ではまだそういう感じではないと思います。だとすると、個人やビジネスのかかわりが非常に重要だと思うのです。そういう論の展開は困難ですか?

 それから、近自然学なるものの定義をされた方が、読みやすいようにも感じます。次回の「近自然学がすべてを解決するか?」では、心にかかわる学問まで包括しているということを、もう一度レクチャーしていただきたいと思います。私も、この部分は、まだ整理できていないので。
(あなぐま君:41歳:ML「近自然の広場」管理者 /大学)

■=筆者からのレス=
(あなぐま君:41歳:ML「近自然の広場」管理者 /大学)さんのコメントに

 コメントとリクエスト、どうもありがとうございました。

 「そもそも「近自然学」は単なるインフラ整備をまとめた学問体系ではないと思うので……例えは「川づくり」ではなく「安全で自然豊かな川とは?」など、そういうイメージです。」には、盲点を突かれ、かなりグサリと来ました。日本の現状や将来、そして特にこの連載の性格に少々無配慮だったかもしれません。急遽再考し、編集者と協議の上、可能であれば手直しを加えたいと思います。

 「個人やビジネスのかかわりが非常に重要だと思うのです。そういう論の展開は困難ですか?」とのことですが、それこそが私の興味であり、今回の連載のコアとも言えます。近自然学は市民の目線で環境とその問題を、また環境と我々とのかかわりを、さらに言えば人生そのものを見つめることに徹しています。

 何より我々がもっと豊かにもっと幸せになることを、そしてそれが子どもたちの世代まで続くことを目指しています。ただし、「道づくり」「まちづくり」「川づくり」(ごめんなさい。まだ適当なタイトルが思い浮かびませんので……)などはインフラ整備の性格が強く、個人としてどこまで直接かかわることができるのか、疑問でもあります。もし、アイデアをお持ちであれば、お知恵を拝借できればと思います。

 「近自然学なるものの定義をされた方が、読みやすいようにも感じます。」は、了解しました。考えます。

 「次回の「近自然学がすべてを解決するか?」では、心にかかわる学問まで包括しているということを、もう一度レクチャーしていただきたいと思います。私も、この部分は、まだ整理できていないので。 」に関して。

 次回のタイトルは「太陽エネルギーへの転換を考える」に変わりました。確かに予告では「近自然学がすべてを解決するか?」と大上段に振りかぶったのですが、コンパクトに平易に書くことを選びました。

 心の問題ですが……

 私自身、「豊かさとは心の豊かさのことである」というスタンスです。しかしながら、私は決して禁欲主義者ではありません。モノが心の豊かさを助けてくれることも事実なので、その意味で物質的な豊かさを支持します。

 しかし、これは私個人の、それも現時点でのことであり、だれでもいつでもそうでなければならないとは考えません。「物質的豊かさこそ豊かさだ」と信じるなら、それもありでしょう。いろいろな感性や考えを持った人たちが、それぞれ幸せに暮らすことのできる、自由で柔軟で大きな包容力を持った世界を夢想します。モラルでガチガチの窮屈な社会はごめんこうむりたいです。

 これからも、いろいろなアイデアをよろしくお願いします。

(スイスの山脇:54歳:近自然学筆者)


山脇 正俊

近自然(工)学研究家
チューリッヒ州近自然工法アドバイザー
スイス連邦工科大学・チューリッヒ州立総合大学講師
北海道工業大学客員教授
電子メール:
masayama@aol.com
ホームページ:
http://members.aol.com/
masayama/

最新著書:
「近自然学」(2004年4月、山海堂より出版)
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