美食の本質を考える(最終回)

2005/03/22

振り返ってみると約2年間にわたって、(自称、オフタイム・クリエーターとして)仕事以外のちょっとした生活シーンをいかに愉しく充実したものにするか、ということを胃袋感覚で考えて書き続けてきました。いよいよ今回が、一応の最終回となります。
「食」に関するコラムを執筆するにあたり、できる限り店の紹介は避けてきました。美食を追求することは大切だと思っています。でも、人によって価値観が違うわけで、「この店が美味しいよ」と私的な嗜好のまま紹介するのはどうかと思っていました。普段上等なものを口にしている人にとって美味しいものであっても、それを食べ慣れていない人にはかえって不味く感じたりもするケースもあるだろうし、その逆もしかりだからです。
美食と人生
愉しい人生を過ごすためには衣食住の充実感が必要ですね。なかでも「食生活が豊かである」ことは大事だよなと日々感じています。それは単に贅沢(ぜいたく)をすることではなく、自分の好きな味や料理に対する価値観を満足させる機会に数多く出会うということだと思います。
そのために、料理に対する感性や舌を磨く機会を大切することが大事ではないかと思います。一日の仕事が終わった後の限られた時間や週末まで、慢性的に仕事の「おつきあい」を続け、感動の薄い料理や酒を飲み食いし、結果的にストレスでくたびれていくのはなんだか寂しい気がします。
美食の本質
日本は、世界のどの国よりも山海の食材が豊富で、四季折々に美味しいものがあります。それらの食材を自分の感覚で吟味し、存分に愉しむことが、日本人として大切な能力のひとつなのではないかと思います。誤解しないでほしいのですが、決して「知識」で美味しい不味いを語るのではなく、海や土の香りのする旬の食材の味を自分の舌で実際に感じ取ることが大事だということです。
その経験を積み上げていくと、料理屋で「今、旬のこれが美味しいよ!」って勧められたときに、その店の料理人の技とそのレベルが分かるようになると思います。自分の舌が覚えている過去最高の味よりも美味しいと思うものに出会ったときの感動は大きいものです。そんな感動を体験できた店は贔屓(ひいき)にしたい店の一つになるはずです。そんな店がいくつかあると愉しいですよね。自分の舌で自分が本当に美味しいと思う食材、料理、そして店を探求する「遊び心と意欲」が大切です。
本当の美食は、自分のお金で楽しめる範囲で味わってほしいものです。時々、高級レストランなどで、接待らしくここぞとばかりに高価な料理や超高級ワインを飲んでいる人たちをみかけると「なんだかなぁ、その会社、大丈夫?」と不安を感じるのは私だけでしょうか?
ワインリストを見ながら「どれが、いちばん美味しいの?」と聞きながら注文するのは本当に無粋ですよね? 自分のお金だったら、違いが分からなければいちばん安いのを頼むはずで、そうでなければ料理を決めて「料理に合うワインをお願いします」となるはずなんです。自らの分をわきまえ、自分が美味しいと思うもの、好きなものを何に気兼ねすることなく味わうことが美食の本質じゃないかなって思います。
料理の基本
料理についても同様です。昔から言われるように、高級な鰹節を買う前に見事に薄く削れる上質なカンナを買いなさい、ということに尽きます。決して究極の食材だけを使うのではなく、素材の味を確実に引き出すことが料理の基本中の基本だと思います。
次に料理はできたらすぐに食べるのが美味しいと思います。香り、温度、色、食感の変わらないうちに出すのも重要です。いくら上質のお味噌を使い、上質の具を入れても味噌汁は冷めたら美味しくないわけです。合理的に作り、最適なタイミングで食べられるように出す料理人の「心」も基本の一つですね。
食材一つひとつは大地の恵みで、それぞれ自然の力と持ち味を秘めています。料理人がその持ち味のすべてを引き出すよう調理し、食べる方もその本当の味を自分の舌でしっかりと見極められるように修行(努力)するというやりとりが、食という文化を作り上げていくんだと思います。美味しいものに出会い、「ああ、生きてて良かった!」と思えると機会が増えるといいですね。
最後に
最後に、このような機会を与えてくれたnikkeibp.jpの田邊編集長およびお世話になった編集部の方々にこの場を借りて謝意を表します。また、毎回、私の稚拙な文章にもかかわらず最後まで読んでいただき、コメントまでくださった読者の皆様にも感謝いたします。今後も食に関するコラムを私の個人ブログで書き続けて行こうと思います。2年間、ありがとうございました。
■私の個人ブログ
(北野勝康@世話人)
=読者からのコメント=

■楽しみにしていたコラムが終了するのは誠に残念。
店の名前が紹介されないのも残念でしたが、自分なりの店を見つけることも大事であることに納得。
機会がありましたら、またぜひコラム掲載をお願いしたい。
(暇な中年:57歳:営業)
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