企画が進む“会議力”、4人目は半導体検査装置大手、テラダイン日本法人の森時彦社長です。
森社長は、神戸製鋼所からGE(ゼネラル・エレクトリック)、テラダインへと転じ、M&Aや事業提携、技術開発マネジメント、マーケティングなどに携わる中で、神戸製鋼時代に留学して学んだファシリテーションの技術をマネジメントに生かしてきた経歴の持ち主です。日本ファシリテーション協会(FAJ)の副会長でもあります。
一般的に、ファシリテーターとは会議やプロジェクトにおける「意思決定者とは独立した存在」というイメージを持たれています。しかし、森さんは「経営者や意思決定者こそが、ファシリテーションをよく心得るべき」と説きます。今回は“ファシリタティブ・リーダー”とは何か、そのあり方についてお話しいただきました。
――ファシリテーションについての本を読むと、会議や組織変革プロジェクトにおける「ファシリテーター」の役割は、意思決定を下す「ビジネスリーダー」とは別の役割と定義されているように思います。社長であると同時にファシリテーターであるというようなことは、可能なのでしょうか。
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森 時彦 テラダイン(日本法人)代表取締役 |
森 時彦(以下 森) ええ、もちろん可能です! まあ、ファシリテーターといっても、ビジネス・リーダーの場合、ファシリテーションだけをするわけではありませんから、厳密には、“ファシリタティブ”(ファシリテーションのうまい)というべきでしょうか。欧米では、ひとつの認知されたリーダーシップのスタイルです。日本にもそのようなビジネスリーダーは、たくさんいらっしゃいます。例えば、伊藤忠商事元社長の丹羽宇一郎さんなんかはそうだと思います。
ファシリテーションを紹介する本には、ファシリテーターは中立者であるとか、議論の中身には責任を持たないとか、書かれているようですね。これを誤解して、リーダーはファシリテーションはできないと考える人がいるようですが、間違った理解だと思います。
私に言わせれば、多くの場合、ファシリテーターは中立というよりも、フェアであることが重要だと思います。ビジネスリーダーもフェアでないといけませんね。みんなの意見を聴き、公正な判断を下せることが重要です。またファシリテーションの良し悪しは、出てきた結果で評価されるべきではないでしょうか。ビジネスリーダーも同じですね。もちろん問題によっては、別途ファシリテーターを立てる必要があることを否定するつもりはまったくありません。例えば、部下の皆さんから私自身を評価してもらうような会議では、私は席をはずして、第三者にファシリテーションをお願いしています。
■経営者はファシリタティブ・リーダーであるべき
――それは、例えば、権限を持つマネージャーが自分の意見をごり押ししたり、複数のマネージャーが我を張り合ったりしていては、会議の席上で他の参加者から異なった意見が出なくなってしまうからですよね。
森 権限を持つ人に物怖じせずに意見を言えるようにすること。これは、ファシリテーターの役割の一つですね。
理想は、上司だけでなく全員が、不当に権限を行使したり、個人攻撃をしないフェアな人であることですね。上司自身が、人格的に部下からそう認められ、かつ会議などを効果的に活性化するファシリテーションスキルをもっているとうまくいくと思いませんか? そういう人は、“我を張った”議論をしませんし、他のマネージャーが“我を張って”いるときには、それをかわす術を心得ています。
一方、我を張る上司間の議論を部下がファシリテーションするのは至難の業ですね。上司側がやる方がはるかに簡単ですよ。第三者がやればいいという考えもありますが、専門性の高い議論などのファシリテーションは、第三者には難しいものです。
――確かにそうですね。
森 ファシリテーター、あるいはファシリテーションという概念について、日本では今非常に狭い定義が当てはめられようとしているのではないかという気がします。Facilitationという言葉の意味を、ご存じですか?
――はい、英語で「促進する」ということですよね。
森 何を促進するのだと思いますか? 私は、人と人とのInteraction(相互作用)を促進するのだと考えています。人と人がお互いの考えをぶつけ合って新しい考えやビジョン、意欲を生み出す。そういう“化学反応”を、促進するのです。
化学反応を起こすのに、第三者としての「触媒=ファシリテーター」が重要な役割を果たす場面はたくさんありますね。でも、全員がファシリテーション的なマインドとスキルを持っていれば、触媒がなくても効率的な化学反応は起こります。そういう意味で、ファシリテーターがいないとクリエイティブな化学反応の起きる会議ができないビジネスパーソンというのは、職業人としてどうかという以前に、社会人としてどうかと思います(笑)。ちょっと厳しいですが…。
――経営者の仕事は、部下や社外とのコミュニケーションですものね。
森 もちろん企業というのは、民主制だけでは動きません。それは、ドラッカーが何十年も前に看破していますね。コンセンサスで事業をうまく運営できるかと言えば、できないというのも事実でしょう。多くのトレードオフの中で、タイムリーに正しい意思決定を下す仕事は、リーダーのものです。だから、より正しい判断をするために、ファシリタティブであることは、リーダーとして重要な要件だと思うのです。
■「仕切り」こそが前向きな会議の秘訣
――ファシリタティブ・リーダーとは、どのようなものなのでしょうか。
森 例えば、私は10年近く外資系企業で働いていますが、米国の企業の、少なくとも幹部クラスというのは全員がファシリテーションの能力を当たり前のように身につけています。
それはどういうことかというと、「場の状況を見て、互いの議論のしかたを様々に変えていける」人たちだということです。私がよく例に引くのは、室内楽やジャズバンドでは、指揮者(ファシリテーター)なしで、演奏者同士、お互いの呼吸を見ながらテンポを変えたり、アドリブを入れあったりしますね。あれです。これに対して、日本企業はいつも同じやり方でしか会議しません。
例えばある業績目標に対し、いつも実績が下回っているとしますね。それについて話し合いをすると、例えばマーケティングがいつもみんなの非難を浴びて、会議は終わってしまうとしましょう。このパターンをずっと繰り返すのではなく、例えば「フォース・フィールド分析(force field analysis)」*1や「イシカワ・ダイアグラム」*2を使ってブレーンストームし、目標と実績の乖離(かいり)が生まれる根本原因を議論してみたらどうでしょう。そうすると、実績がいつも目標を下回るのは、マーケティングのせいではなく、実は、不足している営業の手伝いをマーケティングがさせられているからだということに、みんなが気がつくかもしれません。
つまり、マーケティングは適切な目標設定ができず、一方営業はひどく手不足であることが分かる。これは本当にあった話です。いったんこう認識されれば、解決方法は三つしかありません。人を増やすか、効率を上げるか、優先順位をつけて仕事を絞り込むかです。これで議論のポイントは大きく変わります。
こういうふうに、単なる部門間の利害の綱引きを避け、いつも物事を多面的に見る、あるいは見せることができ、立場の違う様々な参加者に同じゴールを意識させコミュニケーションに向かわせる人が、ファシリタティブな人なんです。
――日本企業の会議って、いちばん偉い人たちが綱引きばかりしていて、部下がなかなか口を挟めませんよね…。
森 それっておかしいですね。議論というのは、だれかが仕切って整理しないと前向きに進まないことろがあります。でも日本って、仕切る奴のことを目の敵にするでしょう? 「おい、何を偉そうに仕切ってるんだ!」とか言って。最近でこそ「ファシリテーション」という言葉が出てきてやっと認知されてきましたが、基本的に日本では「仕切り」がいかに生産性を上げるかということが全く理解されてない。
米国で会議していて、議論が紛糾すると“How can we facilitate this?”と言い出す人がでてくることは珍しくありません。これは「この議論、どうやって仕切ったらうまくいくかな?」といったニュアンスでしょうか。日本語の「仕切り」には悪いイメージが強いですから、あまりいい訳ではありませんが。
ところで、日本でも、絶妙な「仕切り」が発達している分野があります。それが、工場です。「QC(品質管理)サークル」や「QC七つ道具」という言葉、聞いたことがあるでしょう? 日本の製造業では、「中高卒の工員が統計を駆使している」と米国のビジネススクールの教授が驚いていましたが、あれは、立派なファシリテーション・ツールです。その結果トヨタやホンダは世界トップの競争力を持つようになったのではないでしょうか。
■「後ろ向き」の発言を「次の行動」に変える
――それに比べて、日本のホワイトカラーの職場にはそういうものが普及しなかったんですね。
森 そうです。QCをホワイトカラーの仕事に拡張したものとしてTQM(全社的品質マネジメント)という概念はあったんですが、これは、ファシリテーションという意味では役に立ちませんでした。むしろ一部で、官僚主義的な風土を生み出す手助けをしてしまった感がありますね。
よく「TQMなどの分析ツールは、やり方によって結論が恣意的になってしまうからダメだ」と言う人がいます。実際のビジネス問題は、基本的に、見方やウエイトの置き方で、答えが180度変わるものなんです。それはツールのせいではない。そうではなくて、そういうツールを使って議論をファシリテートすることがツールの本来の使い方なのです。
多角的な議論を引き出し、その中で最も優れたトレードオフを選択するのが、本来のビジネスパーソンの仕事なんですけれどね。金槌しか知らない人には、すべてが釘に見えるという言い回しがありますが、困ったものです…(笑)。
――日本では議論が堂々巡りする会議というのが、本当に多いですね。
森 米国の企業では、例えば英国人の弁護士、オランダ人の会計担当者、米国人のマネージャーが、顔を合わせたこともないのに電話会議で名乗り合い、問題を説明すると、すぐに議論を進め、契約書や提案書をパパッと作ってしまう。こういうスピード感は、日本では、工場以外ではめったにお目にかかれません。
なぜかというと、日本のビジネス社会では、コミュニケーションのルールが、オープン・アーキテクチャー型になっていないからです。オープンアーキテクチャーというのは、取り合いに関する規格が公開されている。それにあうパーツ(議論・アイデア)を持ってくるとすぐに議論がかみ合うわけです。
問題点を挙げて解決策を議論しようとすると、「いったいそもそも何でこんなことになったんだ(過去の話の蒸し返し)」とか「他の部署や客が悪い(コントロール不可能な要素のせいにする)」といったことを言い始める人がいます。それ自体、なんら問題ではありませんが、これに時間を取りすぎると困ります。こういうときには、すかさずボードに次のような図を書いて;
こういう発言をきちんと分類して並べて見せ、「では右側の分類に入る項目は何でしょうか」と促すことができれば、繰り返しや、後ろ向き、内向きの議論が減り、前に進みます。図を書くと、自分や他人の発言が全体の中でどういう位置づけにあるのかが見えるようになりますからね。
また、英語では“out of box”(箱から出る=既成概念から自由になる)という表現があります。2軸の図形表示(4分割など)を用いると、上記の2分割法では見つからないような、Out of Boxなアイディアを引き出すことも可能ですよ。そうなれば、みんなが前向きな方に目を向けるようになり、次の行動(Action)につながる話し合いができます。
私は、ファシリテーターは、常に目的を見失わず、それに至る最適なグループ思考のパスを提案し、アイディアを触発しなければいけない、と考えています。その上、何事にも前向きで、エネルギッシュ、アクション・オリエンテッドであることも重要要件だと思いますね。そういうファシリテーターを見ていると元気になりますからね。
もう一点。人間だれでも安心していられる「コンフォートゾーン」(安心領域)というものがあります。企業におけるファシリテーションでは、ここに安住している人を、ちょっと不安だけどできるかもしれない「ストレッチゾーン」(緊張領域)に引き出してあげることも重要です。チャレンジしない企業は、ダメになりますからね。これは個人も同じかもしれません。
ただ、多面的にものを見て、他人とうまくコミュニケーションを取ることは、日本人に比べて米国人のほうが小さいころから訓練されていると言えるかもしれません。米国の多くの学校では、インタラクティブに授業を進めることが当たり前になっていますから。突き詰めれば教育の問題です。
話が少し変わるようですが、日本ではよく「人を傷つけないようにしましょう」と言われますね。人を思いやる心は重要ですから、それに異論はないのですが、逆に、「自分の頭でしっかりものを考え、他人の言動に付和雷同したり、傷ついたりしない確立した自我を持つ人を作る」ことが、もっと強調されていいのではないかと思いますね。このことは、特にあらゆる国の人が集まる国際会議などに出席すると、本当に痛感します。
最後に、ファシリテーションを学ぶと「自分が変わる」という点を強調しておきたいと思います。意外と言われないことですが、自分の思考方法が変わります。会議や組織改革をファシリテートする機会がなくても、自分自身の思考をファシリテートできるからです。人の話を聴く力がつき、質問力も高まります。多面的な観察力がつきます。情緒的安定が増します。