水に対するニーズが多様化し、消費者がおいしくて健康によい水を支持している。調理用の水の味にこだわる消費者に対し、水を無料サービスするスーパーが増加。従来の飲料メーカー以外の企業も参入し、「新」水ビジネスのすそ野と規模が広がっている。
2月19日、ミネラルウオーター最大手のサントリーが、熊本県の阿蘇外輪山に広がる約100haの森林を管理することが正式に決まった。ミネラルウオーターにとって、いまや採水地の自然環境は、品質を決める生命線となっている。
サントリーは、今年6月から「天然水(阿蘇)」を生産する九州熊本工場の稼働に合わせて、周辺の森林の管理を始める。同社は、この他にも「天然水(南アルプス)」を製造している山梨県・白州工場の敷地内の森林82.5haを自社で管理している。
欧州のミネラルウオーターの採水地をいくつも視察している水研究家の早川光氏は、「欧州では、採水地周辺の森林などの環境保全が義務づけられている。それに比べると、日本の取り組みは総じて遅れている。そのなかで、サントリーの姿勢は評価できる」と言う。
サントリーが採水地の自然環境の保全に力を入れるのは、消費者の間で水に対する関心が高まっているからだ。良質な地下水が採れるような山中でも、不法投棄の廃棄物やゴルフ場などから有害物質が流れるケースが考えられる。安全性が“売り”だったミネラルウオーターも、開発のあおりで、環境汚染の影響を受けるリスクが高くなっているのだ。
飲料メーカーなどで組織する日本ミネラルウオーター協会の調べによると、国産と輸入を合わせた2001年度の日本のミネラルウオーター市場は約1000億円で、生産量は125万koに上る。ともに10年前の約4倍に当たり、毎年平均15%前後の伸びを続けている。ミネラルウオーターが日常生活に根付いたと言える。
水の味への強いニーズ、ウオーターバーまで出現
急成長の背景には、水道水への不安があることは間違いない。2003年1月末から2月初めにかけて行った主婦を対象にした本誌のアンケート調査では、水道水を安全だと思う人は15.5%にとどまっている。
しかし、それだけではない。サントリーが、消費者500人に対して2002年4月に行った調査で、ミネラルウオーターを飲むようになったきっかけを聞くと、「水道水に不安」は48%で2番目。1番は「おいしい水を飲みたい」という回答で、78%と突出して多かった。近年の消費量の伸びは水の安全性だけでなく、味への追求が支えているとも言える。
こうした消費者の水へのニーズは、ミネラルウオーターに限らず、新しい水ビジネスを生み出している。ここ数年の傾向として、味にこだわる“グルメ”志向と、ミネラル補給などを意識する“健康”志向が目立つようになってきた。
グルメ志向の先端にあるといえるのが、昨年11月に東京の恵比寿ガーデンプレイスに出現した、水を専門に扱うバー「アールギャズ」だ。ワインも取り扱っているが、ミネラル分が日本産の一般的なミネラルウオーターの10倍以上ある「超硬水」から、アラビア半島の砂漠の地下水である「マサフィー」まで、世界各地の多種多様なミネラルウオーターを約30種類そろえている。
利用客の中心である20〜30代の女性に混じって、周辺のオフィスのビジネスマンも休憩がてら利用することが多い。アールギャズを運営するユニマットオフィスコは、「くつろぎながら水をじっくり味わったり、味の違いを楽しむ人が増えていることに目をつけた」と言う。
500mlで110〜380円と単価が安いため、水だけで収益をあげることは厳しいものの、多い日で200人ほどの利用者があり、「ワインバーとしても他店との差別化になっている」と分析する。
ウオーターバーは、バブル期にも登場し、一過性に終わった経緯がある。だが、サントリー・ウォータービジネス部の青木美輝部長は、「味を求めるニーズが確立した今回は、定着するのではないか」と分析する。
集客効果を狙うスーパー、水の無料サービスが急増
飲み水以外の水に対しても、グルメ志向は高まっている。2000年頃から集客のための“呼び水”として、店内で水を無料サービスするスーパーが出てきた。それぞれ供給している水の種類は異なるが、一般的なのは店内に設置した浄水装置で水道水を浄化し、調理用水として無料でサービスする形態だ。はじめに専用容器を購入してもらい、それに水を入れてもらうというものだ。
西友の東京・錦糸町店では、2001年5月から水のサービスを始めた。レジの後方に大型浄水装置を設置し、マイナスイオン水を無料でサービスする。500円の専用容器はこれまでに約1500本売れ、浄水装置は1日当たり、平均で約130回利用されているという。利用する主婦は、「この水だとおいしいお茶が飲める。毎日水をもらいにくるのですが、ついでに買い物もしてしまう」と笑う。
この水のサービスは、2000年12月に東京・荻窪店で始めた。具体的な集客効果は弾いていないが、西友は効果があるとみて、全212店舗中、92店舗で導入している。今後も導入店舗を増やしていく方針だ。
中堅スーパーのサミットも、飲料用にも使える水をサービスしている。2001年6月に埼玉県の川口青木店で、競合店対策として水の無料サービスを始めた。2001年度は1日当たりの利用回数の平均が626回だったが、2002年度に入るとさらに増え、夏場などは800回を超えるなど好評だった。
このため導入店舗を増やし、今では、全71店舗中、30店舗が導入済みだ。サミット・営業企画部の島崎義久氏は、「現場の感覚では集客効果はあると思う。スペースが許す店舗にはすべて導入する」と意気込む。
ほかにもイオンやイトーヨーカ堂など、さまざまなスーパーが水サービスの導入店舗数を増やしている。その背景には、家庭でおいしいものを食べたいというグルメ志向がありそうだ。従来は、お米を炊いたり、お茶をいれたりする時に使う水は、水道水を使うことが一般的だったが、「調理用に使う水にもこだわりたい」という人が増えている。実際、ミネラルウオーターでさえ、調理用に使われることが多くなっている。
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