あなたは定年後も働きたいと思いますか。それとも、「もう結構」と思っていますか。その理由は? 漠然とではなく、一度、じっくりと自分の心のうちを見極めてみてはどうだろうか。
「マイクロビジネス」のすすめ
2004年12月、65歳までの継続雇用などをうたった改正高年齢者雇用安定法が施行された。2006年4月からの定年の延長、継続雇用制度の導入などを企業に義務づける。トヨタ自動車や日揮などの大手を中心に、さっそく再雇用制度を取り入れる企業が出てきた。
しかし、これは皆が手放しで歓迎すべきことなのだろうか。もちろん、定年後も働かなければならない事情のある人もいるだろう。ただ、社会は画一的であってはならない。人それぞれが自分に合った働き方や生き方ができる、柔軟な仕組みを考えることが重要だ。
先日、ある会社から人材を紹介してほしいという依頼があった。求めているのは、嘱託としてフルタイムで働いてくれる50代後半〜60代前半までの人。給与も待遇も悪くない。心当たりに声をかけたら、すぐに集まるだろうと思っていた。しかし、これが意外に苦戦だった。
返ってきた答えの多くが「興味はあるがフルタイムがひっかかる。週2〜3日の出勤ならやってもいいけど」というものだった。一度自由を味わってしまうと、満員電車で通うような毎日にはもう戻りたくないということらしい。しかも、気の利いた人は、自分のやることをとっくに見つけていたりする。それを捨ててまで、今さら2〜3年の会社勤めに復帰しても仕方ないというのが本音なのだ。
ただ、フルタイムで働くのをためらうこういった人たちも、何もせず悠々自適と暮らしているわけではない。何かしら社会との接点を保ちたいと考え、NPOや有料ボランティアなどで小遣い程度を稼いでいる。実は、立派なサービス業従事者なのだ。好きなこと、自分のできることを生かし、自分の都合に合った無理のない働き方をしている。
これも起業の一つの姿だろう。“マイクロビジネス”と呼ぶこともできる。起業と言うと、ベンチャーなど大きな事業を思い浮かべがち。しかし、身の回りや地域を見渡せば、必要とされていながら不足していることはいくらでもある。だれでもできるものの、だれもやらないことは多いのだ。例えば、我が家のマンションには、各家庭の細かな修繕を引き受け、重宝がられている人がいる。大きな金額にはならないようだが、仕事が絶えることはない。
リタイア後の働き方は自由がいい。これまでの人生では、意に沿わない仕事もしてきただろう。人に雇われ、給料をもらうことが仕事だと思い込んでいる、“サラリーマン根性”はさらりと捨てて、自分で工夫し、自分に合った働き方を見つけることだ。
それが見つかれば、人に「定年」を決められることのない、気が済むまで働くことのできる社会、マイクロビジネスで高齢者も貢献できる社会が生まれるはず。
「徹底的に働いてみる」という選択
一方、「自分はやはり企業人でいたい」という人も少なくない。
新聞に載っていた人生相談を思い出した。相談者は定年後に再就職した男性。収入が増えた、生きがいができたと喜んでいる。しかし、勤務時間の関係で、家でほとんど食事をしない。当然、妻は歓迎せず、冷たい。自分がこんなに頑張っていることを、妻に分からせるにはどうしたらいいかという相談内容だった。
それに対する回答はこうだ。「奥さんが冷たいのではなく、あなたが冷たいのだ。仕事に夢中で、自分は楽しいかもしれないが、奥さんは一人で家を守っているだけ。今、奥さんと向き合わないで、病気にでもなったときどうする」。
他人事とは思えない人が多いだろう。仕事大好き人間は、何のために働くかという視点が欠落しがち。働くという手段が目的になってしまう。定年延長や再雇用などの制度が確立すれば、自分自身を見つめる機会もなく、再び会社勤めというベルトに安易に乗ってしまいがちなのではないだろうか。
退職しても「趣味がない、やりたいことが分からない」という人は多い。仕事仲間や会社との安定した関係がなくなることへの恐れもある。しかし、こういう人を一概に責めることはできない。なにしろ、日本の高度成長を支えるために、会社第一主義で育てられた世代だ。残業は日常的。従って、ミュージカルや演劇、映画、コンサートなどアフター5の芸術の場で、働き盛りの男性の姿はほとんどなかった。
こういう人は、会社の仕事が生きがいであり、趣味なのである。それならば、今さら無理して、したくもない趣味をつくることはない。徹底的に会社で働くことを追求すればよい。
それには、定年後も会社で必要とされるスキルや技術、能力を磨くことが必要だ。再雇用と言っても全員が対象になるわけではない。単に働きたいといって、漫然とできることではないのである。
趣味を生かして無理せず仕事をするか、仕事を生活の中心に置くか。どちらを選択するにせよ、定年後では遅い。今からさっそく人生設計に取り掛かるべきだろう。
次回からは、具体的な働き方のスタイル、中高年を活用しようとする企業の取り組みなどに踏み込みます。
●アリア
事業内容
・シニア世代の暮らしと行動研究
・シニア世代への情報提供
・シニアコミュニティの企画・運営など。
●NPO法人おとなの暮らしと仕事研究所
「Ryoma21」は、主に50代を対象に、アクティブに生きるための仲間つくり、活躍の場作り、仕事作りを支援している会です。何かやりたいと思っている人が、それを実現するために仲間を募り、自己表現を行い、社会との接点を創り出す場です。モットーは、「いくつになっても、人は夢を語れる、学べる、成長できる、活躍できる」。
(松本すみ子=アリア)
■私は、再雇用してもらえるならありがたい。企業人でいたいためなどではない。定年後、年金をもらえるまでの間、小遣いを稼ぐ程度では生活できないからだ。
(匿名)
■私は現在46歳。興味深い記事に感じましたのでコメントさせていただきます。
私は、昨年6月にサラリーマン生活に別れを告げました。これが2度目なのですが、最後になるでしょう。1回目は若かりし26歳のときに後輩とベンチャーを立ち上げ失敗。会社の中で、自分のやりたいこととできることを増やしてきました。
昨年独立を決意したのは、社内で相応の地位と収入を得て、何も困らない状況になってしまったからです。やはり、その年齢に応じた“ワクワクする自分”が欲しくなったからです。
私は、「マーケット・プロデューサー」という、旬のビジネスを世の中に送り出す仕事を天職として選びました。自分が好きで得意な仕事を、これから先は徹底して追求しようと…。今では自分の得意分野の仕事で、全く違う複数の業界業種4社の仕事をしています。それも労働力(時間)の提供ではないので、拘束されるのは月に何回かの打ち合わせ程度。自由な時間も持てています。これは、最近話題になっている「インディペンデント・コントラクター」という働き方そのものです。
シニア世代には、ピッタリの働き方だと思います。
(HitHit-Gallery:46歳:Topdas(株) マーケット・プロデューサー)