ビジネス変革のシナリオは誰が書くのか

2003/09/30

情報システムの威力を最大限に発揮させるためのカギは、ビジネスの変革と併せてシステムを導入することである。仕事のやり方を変えずに、システムだけ新しくしてもさほどの効果は出ない。このことはかねて指摘されてきた。問題は、変革のシナリオを誰が書くのか、である。
情報システムにまつわる問題は大別すると2つある。1つは、計画した通りのシステムをきちんと作れるかどうか。いわゆるプロジェクトマネジメントの問題である。これはコンピューター専門誌でしばしば議論されている。
もう1つは、そもそも計画が妥当かどうかである。本来なら、ビジネスの変革に合わせてシステムを導入すれば、顧客に新たな価値を提供できるはずだ。ところがそうなっていない事例が散見される。変革しようと言うのは簡単だが、具体的な計画を練るのは大変難しい。
「うちが書きます」とIBM
9月26日、日本IBMの大歳卓麻社長は、「オンデマンド・ビジネス」に関するプレスセミナーを開いた。セミナーで大歳社長の説明を聞きながら、筆者は「誰がどうやってオンデマンド・ビジネスのシナリオを書くのだろう」と考えていた。
オンデマンド・ビジネスについては過去に本欄で一度書いたことがある。そこでは次のように説明した。
オンデマンドとは、「要望に応じて」という意味である。企業経営者は、顧客や環境の変化を素早く察知(sense)し、即応(respond)できるようにしたい。この「sense&respond」をIBMはオンデマンド・ビジネスと言い換えた。
大歳社長は、「sense&respondを実現するには、企業内外の情報を把握する必要がある」と語った。そうすることで、顧客や取引先まで含めた全体のサプライチェーンを最適化できるという。IBMの調査によると、こうした全体最適に取り組み始めた企業はまだ5%程度。ただし、「60%もの企業が、全体最適の前段階にあたる企業内のビジネスプロセス最適化に取り組んでいる」(大歳社長)。こうしたことから大歳社長は、「2〜3年先には、オンデマンド・ビジネスは一般的になるだろう」と予測した。
この展望を踏まえ、大歳社長は「お客様のビジネス・トランスフォーメーション(変革)の支援に最も力を注いでいる」と強調する。IBMがプライスウォーターハウス・クーパースのコンサルティング部門を買収したのはそのためである。つまり、「変革する意図を持つ経営者の方はIBMに相談してください。そうすればシナリオ作成から情報システム構築まで一貫して手伝いましょう」というわけだ。
シナリオは社内で書くべき
IBMの戦略としては明快である。ただし顧客にとっては注意が必要だ。IBMのコンサルティング部門に変革のシナリオ作りを手伝ってもらうはずだったのに、なぜか大型の業務パッケージ導入を頼んでしまった企業が現実にある。こうしたケースではコンサルタントが数十人も顧客に押し寄せるので、顧客は億単位の投資が必要になる。これはIBMに限ったことではなく、大手のシステムコンサルティング会社とつき合う時にしばしば起きる現象だ。
プレスセミナーで大歳社長は、「オンデマンド・ビジネスの普及を阻む障害は何か」という質問に即答した。「経営者に変革の意識がなければダメです」。確かにその通りである。しかし、社長がやる気になったとして、そこから一足飛びに外部の企業を頼ってしまうと手痛い失敗をしかねない。
経営者の変革意図をシナリオに展開できる、強い人材を社内に持つべきであろう。経営者の意図を汲み取り、社内外の業務の流れを理解し、新しいビジネスプロセスを作り上げる。そしてそのプロセスを支える情報システムの基本構想をまとめる。果たして企業はこうした人材を育てているだろうか。
(谷島 宣之=ビズテック局編集委員)
=読者からのコメント=

■近時、この類の論が多く見られ、何を論議されているのかと疑問に思うことが多くあります。曰く「ベストプラクティスを提供するERP採用が現代経営である」「経営資源を集中する為にアウトソーシングを行なうのが現代の経営である」とされ、そう言ったことも理解しない経営体は淘汰されてゆくのです、と言った論調です。
社会に対して「何を行なうのか?」「それをどのような方法で実現してゆくのか?」は経営の根幹であり、始めであり終りでしょう。ベストプラクティス;アウトソーシングとアルファベットになると何かブランド品を購入したかのような錯覚に陥り、それを又煽る人々の存在も情け無い気がいたします。
言うまでも無く「ベストプラクティス」とは唯一でしょう? 皆が乗るものを採用してOnlyOne企業;差別化企業になるのですかね?論理矛盾です。『自己流』は自分で考えて切り替えてゆくしかないはずです。それを他人に依頼する? 流行のアウトソーシングとやらで。それは『他人流』でしょう。何に向けて何をどうするか?が決定されて、その方法論で助言を得ることは有るでしょうし、最悪前段の「何に向けて何をどうする」の段階でも外部の助言を得るコトもあるかもしれませんが、それはテンポラリイ=臨時の事であるべきです。何故なら、こうした作業は経営活動が続く限り、常時のコトとして永続されるからです。
こうした主要な、いわば『主体性』に属するような事に外部の勢力が不可欠といった事態では主体の要因である「評価能力」も失ったも同然だからです。傀儡政権モドキです。セブンイレブンの鈴木さんが総研のIT部門と常時会話を交わしながら情報システムのグレードを上げていった事例がありますが、誰でも出来る普遍的なことでは無いでしょう。IBMが提案された方法を採用するとしたら、依頼するのはIBMにその事業についての(常時の)全体経営まで任せる出資者:持ち株会社であろうと思います。即ち、IBMに頭脳部分を任せて生産:販売・・・といった各機能分担会社をくっつけたアウトソーシング集団を形成することも論理的には考えられますが、それは単なる『出資者』であり『事業者』ではない存在です。(出資会社も事業であるとするのは、ここでの論旨ではなく別問題。)
又は、IBMが運営する事業の部分機能を請け負うアウトソーシング企業でしょう。「選択と集中」といったことも関連した流行語ですが、あれは「作戦要務令」に出てくる言葉で「当たり前言葉」でした。今では古典に属するかもしれませんが、ドラッカーの「現代の経営」の方が余程経営の真髄が説かれています。時代が変わって「存在意義、道具:方法」が変わっただけのことです。
(武蔵:62歳:元情報システム管理責任者)
■読者の意見に全面的に賛成です。経営のコア・コンピタンスまでIBMに任せるのは,それこそ動かないコンピュータを導入することにつながるとまで考えます。
(匿名:電機メーカー,生産管理)
■「ビジネス変革のシナリオ」に限らず、その企業の存在意義に関わるような根本的な課題には、その企業自身が答を出さねばなりません。それは、「自分はこういう企業に成りたい」という企業としての「意思」ですから、限りなく主体的であることが不可欠です。そう言って良ければ「自己中心的」とも言えます。
IBMが提供している(らしい)サービスが、そうした「本来なら顧客が自己中心的に決めねばならないもの」までをも提供するものなのかどうかは分かりませんが、もしそうなら、そのサービスを有難がる顧客は死に体といえるでしょう。IBMが提供しているのはあくまで方法論の部分だけだと思いたいものです。
(ZED:34歳:電子機器製造)
■ビジネス変革のシナリオを経営者が社外に頼むようならその会社は終わりというですね。まだ残る芽があるならコンサルタントに投資家と組んで、乗っ取ってもらったほうがいいと思います。それができない(成果報酬で仕事のできない)コンサルタントは、贋物です。
(anex:44歳:SE)
■シナリオを描くだけなら、それほど困難な事ではないと思います。そして、その素養や素案を持った人材は、今でも社内に幾人かは存在しているのではないでしょうか。課題は、その人材を発掘して、活躍の場と力を与える事。そして困難なのは、利害関係者の承諾を得る事と徹底的に執行する事。そして、それは社内の人間にしかできません。その証拠にIBMもその部分をやるとは言っていません。人材がいないと言うのは言い訳に過ぎないと思いますし、コンサルタントに頼るのは改革の放棄に限りなく近い事だと思います。(fusa:39歳:製造業情報システム部門)
■この記事よりもその反応が面白い。基本的に変革のシナリオを書ける人材が社内にいないようでは成功はおぼつかないという(経験に基づいた)意見のようです。しかし改革の意欲は強くても、具体的に実行可能なシナリオを作りとその実行を専門家の助けを借りて初めて改革を推進できた経験があります。その意味で顧客が改革の為の学習意欲を高め、プロセス志向に持っていければIBMのアプローチが成功する領域はかなりあると思います。
(池田貞信:56歳:無職)
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