――この「なぜあの人だと話がまとまるか?」は、執筆した田村さんご自身がいちばん読みたかった本だと伺ったんですが。
田村 ええ。もともと私は、話をまとめるのが不得意だったんですよ。ところが何の偶然か、企業の組織を開発するためのコンサルテーションに職業として携わるようになったんです。どうすれば話をまとめる力が付くのか考えるようになったのは、それがきっかけです。
――ちょっと意外な感じですね。
田村 話をまとめる能力というと、生まれつきの性格や資質によるものと思われがちですが、そうではない。後から学習して身に付けられるんですよ。そこには膨大なノウハウ、あるいは技術に相当するものがある。それを10年前、20年前に知っていればどんなによかったか。
――話をまとめるプロセスの中で「緩める、伸ばす、縮める」というのが出てきますね。
田村 話をまとめようと最初に思ってしまうと、どうしても小さく考えてしまうことが多いんです。だから、本当に望んでいることは何かということをまずじっくり考えるんですね。ところが、それは日常の思考ではなかなかできていないことで、頭のねじが緩んでいないのです。どうしても日常の生活の中で固まっている部分がある。まずは、それを“緩めて”いくわけです。
――なるほど。
田村 その上で大きなステップ、大きなビジョンを“伸ばして”描いてあげる。大きなビジョンを描いて、それが目の前の現実とどれだけ違うかということを感じると、緊張関係が生まれて、そこからビジョンと現実の間が“縮まる”という現象が起こるんです。
――それが「緩めて伸ばして縮まる」というわけなんですね。
田村 これこそが、話がまとまるサイクルであり原理である、というのがこの本の中心的なコンセプトなんです。
――自己分析をできる演習問題が幾つかありまして、これを解くことによって自分自身を客観的に分析できるじゃないかと思ったんですが。
田村 ええ。ただ、ノウハウが詰まっている本かというとそうでもない。この手順通りにやってくださいということではないんですね。手順なりテクニックを学ぶことによって、自分の中にある力を解き放ってあげるということなんです。
――ノウハウを得るためのものを自分で作り上げる、ということですね。
田村 ある意味自己分析なのかもしれません。しかし、それよりも、自分が力を使えずにいる理由を発見して、その障害を取り除いてあげる。それによって、自分がやりたかったことをやりたいようにできてしまうことに気づいてもらいたいというのが、隠されたメッセージの一つです。
――自分主義のけりのつけ方ということも書かれています。
田村 自分主義、相手主義という言葉をこの本の中で使っています。この二つは真っ向から対立しているように見える。矛盾しているように聞こえる。でも両方が必要なんですよ。自分が大事だということで、自分が本当は何をやりたいのかを明らかにする。その上で相手の話に行く。
――まず自分ありき、ですね。
田村 そこで自分の気持ちや考えがある程度整理ができ、“けりがつく”と、相手を思いやる余裕が生まれるんですね。相手を思いやってあげる、それがめぐりめぐって自分に帰ってくるということなんですよ。クライアントを先に置く、クライアントファーストということをよく言うんですが、それは自分のことを考えていないんです。これではうまくいかない。
――それで両方が必要だというわけですね。
田村 クライアントの求めていること、必要なことは何かということを100%考えるためには、自分がそういうことをしていて大丈夫なんだという見切りができているかが重要です。
――なるほど。
田村 話がまとまるという着眼点は非常に良かったと思っています。なぜかというと、例えば「リーダーシップは何か」とか「戦略的思考とは何か」といった非常に大きなアカデミックな理論は世の中にかなり古くからあるわけですよね。
――そうですよね。
田村 一方、最近流行と言ってよいのか分かりませんが、ロジカルシンキング、交渉術、説得力、こういったミクロなテクニックのたぐい。これも最近非常に多い。結局、この真ん中がないんですよ。戦略的に考えて説得力や交渉術を行使して何をやったらいいのか、という視点が今まで少なかった。
――意外と目に付かなくて盲点になっていたというわけですね。
田村 もう一つこの本で特徴的なことがありまして、直感に反するポイントの一つですが、問題解決してはならないということ。
――問題解決してはならない!?
田村 問題解決はコンサルタントがやってきたことであり、問題を解決するんだという熱意の賜物ではあると思います。しかし、問題を解決すれば解決するほど新しい問題が出てくるものなんですね。コンサルティングをやればやるほど複雑になっていくという現実があったわけです。
――逆効果とは言わないまでも深みにはまっていく、といった感じですね。
田村 この本で言っているのは、問題解決というのは心の持ち方として正しい入り口じゃないということを言ってるんです。問題を解決するなとは言わないんですけど、どの問題を何のためにどの目的でどんな大局感に基づいて解決していくのかと、この視点を作っていくことの方がずっと大事である。個々の問題を解決するテクニックに先に走るのは間違いであるということを言っています。
――目からうろこという感じですね。話をまとめるのは習得できる技術で、自転車に乗るようなものである、ということが書かれてます。
田村 これも私自身の体験なんですけど、ファシリテーションって、理屈で説明しようと思うと難しく聞こえることがあるんです。中立的だとか、自分の力で解決するんじゃなくて人の力を引き出すとか。ところがこれ、できるようになると、自分自身のファシリテーションもできるようになるんですよ。自分自身が非常に楽になるんです。
――そういう意味で自転車にそっくりということですね。
田村 自転車に乗れないときは、乗りこなすためにものすごいエネルギーを使って、力が入っている。けれども、いったん乗れるようになると、歩くスピードとは比べ物にならないスピードでA地点からB地点に行ける。しかも乗ってるプロセスが楽しいんですね。
もう一つは、一度乗れるようになると、もう忘れることがない。5年くらい乗ってなくてもたぶん忘れないと思います。それと同じだと思いますね。
■□■田村 洋一 氏のプロフィール■□■

バージニア大学MBA取得。野村総研、シティバンク、外資系の経営コンサルティングファームで活躍。現在はピープルフォーカスコンサルティング・プロフェッショナルアソシエイトとして、人事・組織開発コンサルティングを手がける。
書名:なぜあの人だと話がまとまるのか?
著者:田村 洋一
出版:明日香出版社/税込価格: \1,575 (本体: \1,500)

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