−−タイトルにひかれて買いました。こんな本を待っていたのですが、実におもしろく読ませてもらいました。
野口 ありがとうございます。
−−「こんなに変わった! 日本人の欲求」は、「CORE」という名の調査データをもとに、1983年からの20年間をふりかえっています。まずその「CORE調査」についてお伺いできますか?
野口 COREは人々の行動の原点、意識や欲求について調べようということで始まりました。20年間、毎年首都圏に住む3000人を対象に実施してきた定点観測の調査です。
−−「CORE」というのは、中心とか核という意味ですよね。
野口 そうですね。それで、行動の中心・根幹にある原因を探ろうというものです。あのマーケティングの神様「フィリップ・コトラー」の著書でも取り上げられた「生活者の欲求構造」をとらえる意識調査です。
−−定点観測というのがポイントですね。
野口 はい。毎年、同じ内容で調査を続けることで、何が変わったか、何が変わらなかったのかが浮き彫りになります。継続することに大きな意味があるのです。
−−それにしても、よく20年間も続けましたね。出版の動機もそこにあったとか。
野口 CORE調査も20年という節目を迎えましたし、当社は創立35周年。記念の意味もありましたが、激動の20年間を日本人の意識や欲求にまで踏み込んで解説している本がなかったので、ここは一つ、マーケティング・リサーチ業界の底力をみせておきたいと大それたことを考え、毎日新聞社さんにデータを見せたら「面白い!」ということで。
−−20年間をふりかえるという内容ですが、どんな時代だったのでしょうか。
野口 まさに「激動の時代」でした。COREがスタートした1980年代はじめの日本は、「同じようなモノを持つ豊かな生活」を求める時代から、「自分らしい、心の豊かさを感じられる生活」を求める時代へと変わりつつありました。そんななか、弊社の社長をしていた牛窪一省が「欲求とは一人ひとりカタチが異なるもの」としてとらえなおし、「多様化するライフスタイルを構造的に、継続的に研究する必要がある」と考えて、調査・研究をスタートしたのです。
−−この20年には、いろんなことがありましたね。1983前には東京ディズニーランドがオープンしています。阪神タイガースの優勝は、18年前のこと。1985年当時、私は高校生でしたが、野口さんは?
野口 いまの会社で働いていました。バブルの1988年前後に、私はちょうど30歳くらいでした。NTT株が高騰し、「財テク」ができない社長は失格だなんて言われた時代です。
−−私はバブルが崩壊してから大学を出ましたから、就職難で大変でした。野口さんは、バブルの時期にはいい思いをされたのですか?
野口 私もバブルの恩恵は受けませんでした。私たちのお客様はバブル景気でどんどん儲かったようですが、私たちは調査会社ですから、仕事も単価は変わりませんので、銀座で豪遊するとかはなかったですね・・・やってみたかったけど(笑)
−−証券業界や建設業界はすごかったようですね。
野口 私自身はクラブに行くわけではなかったけれど、あの当時、夜になると銀座通りがタクシーでいっぱいになったことはよく覚えています。
−−なるほど。
野口 バブルは、1988年から1989年がピークで、1990年に崩壊しました。地上げで土地が高騰し、全国に第3セクターによるリゾート施設が建設されました。でも私たちは、バブルが崩壊してから「いままでのはバブルでした」と聞かされたのです。
−−バブルの時に、「これはバブルです」とは言えなかった?
野口 バブルという言葉はありましたが、みんな「ビールだってバブル(泡)があるから美味い」なんて言ってましたね(笑)。
−−さて、本の内容に入っていきたいと思います。この激動の20年間に、日本人の意識や欲求は、何が変わったのでしょうか。身近なところで、食生活では・・・。
野口 たとえば、バブルのころに「和風」が人気となり、そのまま高止まりを続けています。ここ10年間の社会現象としては「イタリアン・ショップ」が全盛となりましたが、パスタでも「納豆」「めんたいこ」「きのこ」「ちりめんじゃこ」など、和風にアレンジする流れがありますね。
−−確かに和風はヘルシーで、いまも若い女性に人気ですね。
野口 「和風」への注目は、バブルのころから始まっています。意識というのは、現象よりも先をいくことがあります。
−−そこがおもしろいですね。過去の実態を調査しても未来は分からないが、いまどんな意識や欲求があるかを調べると、これからのことが想像できる?
野口 予言とまではいきませんが、こうなりそうだという方向性はつかめます。
−−ファッションでは、いかがですか?
野口 ファッションも、意識が大きく変化しました。いまは誰もがみんな、「若くみられたい!」と思っています。
−−女性の高齢者だけではなく、男性も若くみられたい?
野口 もちろんです。若さに対する欲求が高まっています。ファッションの基本は「若さ」となっています。これは女性の例ですが、ある化粧品メーカーが、かつて「50歳以上」の女性に向けて専用化粧品を出して失敗しました。
−−50歳以上と規定されるのは、イヤなのでしょうね。
野口 私たちの意識は、通常10歳ほど、実年齢より低いといわれています。それを、わざわざ「50歳」という具体的な年齢で訴求したので、生活者は手が出せなかったのでしょう。
−−なるほど。CORE調査のデータを知っていたら、みんなが若くみせたいと思っていることがわかって「50歳以上」などという切り口は考えなかったということですね。
野口 そうですね。広告段階でもそうですが、むしろCORE調査は商品開発のときに力を発揮します。どんな意識や欲求が増えているかを知ることで、ニーズを発見し、それにフィットした商品やサービスの開発ができるようになります。
−−バブルとの関係では、どんな変化があったのでしょうか。
野口 貧富の差が拡大しているという意識が広がり、二極化が進行しています。バブル期は、「暮らし向きが良くなる」状況での「貧富の差の拡大」という意識でしたが、1990年代に入り、ITバブルが生まれて崩壊していくなかで、今度は「暮らし向きが悪くなる」状況で、「貧富の差の拡大」という意識が高まっています。
−−確かに社会は「二極化」していますね。よくテレビなどで経済評論家が二極化について語りますが、CORE調査は生活者の意識を調べていますから、データでパッとみせられると説得力があります。
野口 いま、実は「努力しても報われない」という悲観的な意識が拡大しています。失われた10年といいますが、生活者の元気や希望も、経済面で失われていった様子が痛いほどわかるデータです。
−−家族に対する意識も変わったようですね。
野口 1991年から1995年、経済が急速に冷え込むなかで、家族の「絆」が問われました。バブルの宴の後、わたしたちは根本的な『意識』を大転換します。バブルというものは、いまになってふりかえると。古いスタイルから新しい時代にふさわしいスタイルに移行するための準備期間でもあったのです。
−−バブル崩壊後、失われた10年を経て21世紀になったわけですが、「進歩」についての意識も変わっているようですね。
野口 はい。世の中の「進歩」というものに対して、肯定する人と否定する人が拮抗し、気持ちがゆれています。バブル期には多くの人が「世の中は確実に進歩している」と思っていたのですが、バブル崩壊後、「世の中は必ずしも進歩しているとはいえない」という見解が主流派となり、現在では拮抗しているのです。
−−昔は、科学技術の進歩が、そのまま社会の進歩だと思っていましたが、最近では違ってきていると。今年の4月には、鉄腕アトムの誕生日が来て話題となりましたが、いまは単純に科学技術の進歩が社会の進歩ではないということですね?
野口 はい。バブル期に女性の社会進出が進むのですが、女性が社会に進出すればするほど、女性に大きなストレスがかかっていきます。これは、旧態依然とした男性ビジネス社会のなかに女性が入っていったということもあるのですが、ITの進展も関わっていると思われます。
−−90年代の前半、私が就職したころにはモツ鍋が流行り、居酒屋には「おやじギャル」がたくさんいました。あれはストレス発散だったのか(笑)。
野口 若い女性のストレスは、90年代後半になってますます高まります。1997年以降の5年間で、ストレスを「しばしば感じる」とした未婚女性は、21%から32%へと急増しました。その背景には、携帯電話やWindowsなどのパソコンの普及があるとみています。ITは大いに効率を上げてくれるのですが、その反面、ストレスの負荷は大きいのです。
−−それで「癒し」がでてきたということですか。
野口 CORE調査では、「休息」という欲求が、少しずつ高まっていることが分かります。この20年間、私たちは「休みたい」「安全でいたい」という欲求を募らせてきました。それが「癒しブーム」の背景なのでしょう。
−−さきほど「悲観的」な意識が増えているとおっしゃいましたが、明るい意識はありますか?
野口 もちろんです。よく、90年代を称して「失われた10年」といいますが、CORE調査の結果を分析していると、表面的には元気がないようでもその根本には大きな変化があり、強い未来志向を感じます。
−−具体的には、どういうことなのでしょうか。
野口 生活者が「自分らしさ」を求め、「自分スタイル」の確立を模索している様子がありありと伝わってくるのです。80年代までは「みんなと同じがいい」という意識でしたが、90年代は「みんな違ってみんないい」という意識に変わりました。
−−金子みすずさんの詩が受けたのも、そこなのでしょうか。
野口 そう思います。自分スタイルを持つということは、自分の価値観を大切にして行動し、しかもそれに自信があるということです。バブルのころに、海外のスーパー・ブランドが輸入されました。バブル期に、日本人はいろいろと学習したと思うのです。
−−高級ブランド品は、その後も売れ続けていますね。
野口 その通りなのですが、購入する理由が違っているのです。当時は「みんなが買っているから」「ブームだから」ということで買っていました。それがいまは「自分スタイル」を実現するツールとしてブランドを買っているのです。バブル期に円高を背景として学習をしてきた成果が、90年代になって、生きてきたということでしょうか。
−−ということは、何も「失われた」わけではないと。
野口 少なくとも生活者の意識では、自分の価値観が育っていった90年代だと思います。21世紀に入り、社会のあり方も私たちの生活も大きく変わろうとしています。その方向は、まだぼんやりしていますが、少なくとも一人ひとりが「自分らしさ」を発揮し、そのパワーを社会の豊かさへの原動力とすべき社会であることは確かなように思われます。
−−この本を読むと、自分はあのころ何を思っていたのか、いろいろなシーンをふりかえって、なんだが「自分を再発見」していく感覚になります。最後になりますが、野口さんはこの「こんなに変わった! 日本人の欲求」を、誰に読んでいただきたいですか?
野口 ターゲットはマーケティング関係者。とくに新商品の開発や流通、販売、プロモーションにかかわる人には大いに参考になると思います。でも、私としては、専門家だけではなくて、一般ビジネスパーソン、それも20代から30代の若い人に読んでいただきたい。
−−なるほど、野口さんの「欲求」はよくわかりました(笑)。大手書店でも、ビジネス書でベスト5に入るなど売れています。ベストセラーになるといいですね。どうもありがとうございました。
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書名:こんなに変わった! 日本人の欲求―バブル前夜から20年
著者:リサーチ・アンド・ディベロプメント
出版:毎日新聞社/本体価格:\1800
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リサーチ・アンド・ディベロプメント
1968年創業の独立系マーケティング・リサーチ専門会社。独自のデータ収集機能と高度な分析手法を駆使して、調査企画のコンサルティングからデータ収集、集計・分析までの一環サービスを提供。(写真は野口秀樹氏)

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