トヨタ自動車は9月1日、エンジンと電気モーターを併用して動力を得るハイブリッド車、新型「プリウス」を発表した。約6年ぶりにモデルチェンジした新型はトヨタの環境イメージを牽引した前モデルと異なり、ハイブリッド車の本格普及という命題を担う。トヨタは新型プリウスをてこに次世代動力源のディファクト・スタンダード(事実上の業界標準)を握る戦略をさらに加速させる。ハイブリッド技術はトヨタが他社を大きくリードしているだけに、今後、トヨタを軸に業界再編が進む可能性は高い。
目指したのは“普通のクルマ”
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撮影=三井 公一 Sasurau, Inc. |
発表会の席でトヨタの張富士夫社長は、「運転する人が納得する走りを実現した」と胸を張った。新型プリウスは心臓部のハイブリッドシステムを新開発。モーターの出力を1.5倍に高めたことで、旧型の弱点だった加速性能を大幅に改善した。一方で燃費は1リットル当たり35.5kmと旧型に比べ15%向上した。
張社長が走りを強調したのは、プリウスを“普通のクルマ”として捉えてもらいたいと考えているからだ。「旧型は環境が全面に出ているため敬遠する人がいた。ユーザーの裾野が広がらなかったのも事実」。トヨタ幹部の1人はこう打ち明ける。
1997年に発売された前モデルはこれまでに世界で12万台が販売された。米国ではハリウッドスターが愛用するなど、「環境問題に積極的に取り組むトヨタ」のイメージを広めることができた。広告塔としては十分すぎる成果を出してきた。
しかし、販売面ではまだまだ不十分だ。国内市場での2002年度までの平均月間販売台数は目標だった1000台をわずかに超えた程度。「1カ月に3000台売れなければ量産車とは言えない」(トヨタ幹部)という水準からすれば、普及したとは言い難い。
新型プリウスでは、国内の月間販売目標を“量産車”レベルの3000台に置いた。トヨタ経営陣はこの目標にも満足していないようで、一部の役員からは「もっと多くすべき」との意見が出たという。世界初の車両安定性制御システムなど新技術を導入しながら、価格を標準グレードで旧型より3万円安い215万円に抑えたのも販売台数を増やすという意思の表れだ。
トヨタは旧型プリウスを発売した当初から、ハイブリッドシステムが次世代動力源の主流になると主張し続けてきた。将来的には水素を燃料とする燃料電池車が主流になると見られるが、水素の供給拠点整備やコストの問題から普及は相当先になると考えられるようになってきている。燃費や排ガスの規制は厳しくなる一方で、多くの自動車メーカーがより即効性のある解決策を探しているのが実情だ。
欧米勢もようやく本気
数年前にはハイブリッド技術に懐疑的だった欧米勢も本格的に力を入れ始めている。米フォード・モーターや独ダイムラークライスラーは今年中にもハイブリッド車を投入する計画。米ゼネラル・モーターズは2007年までにハイブリッド車を12車種投入すると宣言した。
海外メーカーの追撃が始まりつつあるこの時期に、新型プリウスで一気に市場を広げて次世代動力源のディファクトを固めてしまうのがトヨタの狙いだ。トヨタには既に約6年の販売実績があり、市場が広がれば広がるほどトヨタの優位性は高まる。
業界標準を握っていくトヨタの戦略は他の新技術でも同様だ。テレマティクスと呼ばれるクルマの情報化の分野では、トヨタの情報化端末「G-BOOK」を富士重工業に供給するほか、三菱自動車工業とも提携で基本合意した。
ハイブリッドシステムについては2006年から日産自動車に供給することが決まっている。張社長は「交渉までは至っていないものの、話はいろいろある」と話しており、提携が他の自動車メーカーに広がるのは間違いない。テレマティクスで提携する三菱自動車とハイブリッドでも手を結ぶ可能性もある。新型プリウスの売れ行き次第では、新たな再編が一気に進むことになるだろう。
(小平 和良=日経ビジネス編集)