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通常、部品を新たに作るときは、部品メーカーの開発費を委託側がどう負担するかについて、契約のパターンがあります。開発費をこちらが全面的に負担する代わりに、部品メーカーは他社には販売できないようにする。あるいは、こちらは開発費の一部のみを負担。最初の数万個だけは、こちらに独占的に供給してもらう。または委託側の負担はなし、ただし、他社向けより安く供給してもらう。大体、この3パターンです。

ところがキーボードの開発費の話題になったとき、部品メーカーが「開発費はいらない」と言うんです。素晴らしいアイデアで製品を作ることができた、これで十分だと。ありがたい話です。握手して別れました。

しばらくして、発売されたEee PCを見たら、うちと同じ形のキーボードが採用されていた。

Eee PCの発売元ASUSは、世界第4位のパソコンメーカー。部品メーカーは、これに採用されるなら十分、元は取れると判断していたのでしょう。そもそもその台湾のメーカーも、キーボードでは世界の超大手。私たちのような小さな会社と付き合ってくれたこと自体が、ありがたいことなんです。

さらにキーボードの良さと並んで挙げるべきなのは、ヒンジです。パソコンは既存の部品の組み合わせで作りますから、完全にオリジナルな部品は、どのメーカー製品にもそう多くない。私たちの完全にオリジナル部品は、実はヒンジだけ。価格的、性能的に見合うものがなかったので、このヒンジだけは新たに作りました。

ヒンジは、うちの優秀なエンジニアが、土日を徹して図面を引いた素晴らしい部品です。部品の耐用試験は、通常2万回の動作に耐えられるかを基準に行います。このヒンジは17万回の動作に耐えました。これ以上続けたら試験をする機械の方が壊れるかもしれないので、やめました。

ともかく、今の形にたどり着いたのは、アペラの失敗があったからでした。

長田 美穂

1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。全国紙記者を経て99年2月よりフリーに。

著書に、時代を代表する商品を素材に消費社会論を展開した「ヒット力」(日経BP社)とその新装改訂文庫版「売れる理由」(小学館文庫)、現代の少女の心の病をテーマにした「問題少女」(PHP研究所)、昭和のアイドル史を写真と共に綴った「アグネス・ラムのいた時代」(共著、中央公論新社)がある。月刊誌、週刊誌に寄稿多数。

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