このページの本文へ
ここから本文です

一方、宇宙開発における日・ロ間の協力の歴史は浅く、双方の信頼感醸成も十分であるとは言い難い。この状態でいきなりクリーペル開発の様な大型案件をスタートさせたとしても、相互不信が発生し、結局は「日本は金だけ出せばいい」ということにもなりかねない。

有人宇宙船開発で全面的に協力する前に、もっと小さな案件を積み重ねて相互の信頼関係を作っていくべきなのだ。

筆者はクリーペル開発では、日本は機体の開発に深くは踏み込まず、一定機数の購入を保証し、種子島宇宙センターからの打ち上げの権利を得ることに専念すべきではないかと考える。合わせてH-II系ロケットの有人打ち上げに向けた改装を実施し、ロシアのサポートを受けつつ、種子島からのクリーペル打ち上げと運用で、まずはロシアとの信頼感醸成を図る。

今後末長くロシアとの相互補完的な関係を結ぶならば、迂遠なようだが、まずは互いに信頼に足るということを実感するようにしなくてはならないだろう。

国際協力を成功させるには、シビアな現状認識が必須

日本はかつて、米国からの技術導入でN-IからH-Iまでのロケット3機種を成功させた。技術導入が決まった1969年当時、米国はアポロ11号の月着陸を成功させ、宇宙分野での西側の結束を誇示したいと考えていた。さらには、独自の固体ロケットを発展させていた東京大学の研究を牽制し、日本のロケット開発を米国系の技術で絡め取ることも検討していた。そんな米国の思惑と、米国の技術を入手したい日本の思惑が一致したところで技術導入が実現し、成功した。

一方ISSでは、計画の早い段階で冷戦が終結し、状況が激変したにもかかわらず、日本は米国からの有人宇宙技術習得に執着した。その結果が、完成し、米国に出荷されているにもかかわらず、打ち上げのメドすら経っていない日本モジュール「きぼう」だ。

日本には、国際協力を無条件に良いものと考える傾向が存在する。しかし、国際協力は同時に生き馬の目を抜くようなきびしい国益追求の場であることも理解しなくてはならない。

真の国際協力を成功させるには、まずなによりもシビアかつ正確な現状認識が必要である。同時に状況変化に素早く対応できる体制の構築も必須だろう。

◎この連載は今回が最終回です。

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション・ライター。 1962年、東京都出身。日経BP社記者として、1988年〜1992年に宇宙開発の取材に従事。主に航空宇宙分野で執筆活動を行っている。著書に『われらの有人宇宙船』(裳華房)、『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(日経BP社)、火星探査機『のぞみ』の開発と運用を追った『恐るべき旅路』(朝日ソノラマ)、スペースシャトルの設計が抱える問題点を指摘した『スペースシャトルの落日』(エクスナレッジ)などがある。

(全 6 ページ中 6 ページ目を表示)

あなたのご意見をコメントやトラックバックでお寄せください

記事検索 オプション

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。

ご案内 nikkei BPnetでは、Internet Explorer 6以降、 Safari 2以降、Opera 8以降、Netscape 8.1以降またはHTML 4.01/CSS level 1, 2をサポートしたWebブラウザでの閲覧をお勧めしております。このメッセージが表示されているサポート外のブラウザをご利用の方も、できる限り本文を読めるように配慮していますが、表示される画面デザインや動作が異なったり、画面が乱れたりする場合があります。あらかじめご了承ください。

本文へ戻る