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イーグルスがもたらした、ハングリー精神の大切さ

野田氏は「これからも次々に課題をクリアしていかなければ、楽天イーグルスの黒字維持は難しいと思います。非常に高度な経営手腕が問われるビジネスであるのは間違いない。でも、思い出してみれば、楽天が楽天市場でeコマース事業をスタートさせたときだって、世の中では『物珍しさで話題にはなっているけれど、実質的な商売として成り立つかどうかは疑問』なんて言われ方をされていたんです」と語る。

楽天 楽天市場事業本部
野田公一 部門長

野田氏のこのセリフには、「ネガティブな推測をひっくり返した実績が我ら楽天にはあるんだ」という自信が見え隠れする。

「一人のファンとして、楽天イーグルスには、もっともっと強くなってほしいと願っています。でも、もしかしたら最初の年にこれだけ弱かったことで、私たち楽天の社員は皆、大事なことを思い出すことができたのかもしれません」。

たった数人の社員で1997年に産声を上げた楽天は、飛躍的な成長で今や3500人もの社員を抱える規模にまでなった。これは素晴らしいことだ。だが、野田氏も含めた経営陣の胸中には「楽天の急成長を支えたベンチャー・スピリットが消失してしまったのでは」という危惧もある。創成期を知らぬ世代にとって楽天は、「ベンチャー」ではなく「今をときめく大企業予備軍」との印象が強い。経営陣が声をからして「ベンチャー・スピリットを忘れるな」と叫んでも、過去を知らない世代にしっかりと届くかどうか心許ないというわけだ。

いわゆる「大企業病」。これを懸念し始めたタイミングで降って湧いたのが「楽天イーグルス誕生」というエポックだった。従業員が増えて、社員間のコミュニケーションが希薄になりかけていたとき、このエポックは共通の話題、共通の関心事となり、社内に求心力を起こした。

しかも、野田氏が指摘するまでもなく、楽天イーグルスはプロ野球史上に永遠に残るであろうほどのダントツの弱さを示した。同時に、弱いチームでありながらも「なにくそ。既存の勢力にいつまでも負けてはいないぞ」という気概を、試合で度々見せてくれた。

野田氏が言う「大事なこと」とは、「ハングリー精神を持って歯を食いしばる醍醐味」のこと。

「楽天イーグルスは、ビジネス面で多様な追い風をもたらしてくれました。プロ野球が持っている威力がどれほど大きいのかを改めて教えてもくれました。でも、三木谷は事あるごとに皆に話しています。『楽天は有名になった。しかし、あくまで野球で有名になっただけだということを忘れないでほしい。勘違いをしないよう心がけてほしい』と」。

どうやら、プロ野球参入の最大の効果はここにあるようだ。知名度アップによるビジネス効果は絶大だったかもしれない。しかし、それよりも大きかったのが「楽天イーグルスが、戦力も人気も全くない状態からスタートした」こと。応援しないではいられない新規事業であり、知らず知らずにベンチャー・スピリットを思い出させる奮闘を示してくれたこと。それが何よりの活力を楽天グループ全体に与えたのである。

「楽天イーグルス立ち上げ奮闘記」は、毎週月・水・金に更新。次回は、10月21日(金)に掲載する予定です。

森川 直樹

立教大学経済学部卒業後、フジサンケイグループ、講談社グループを経て独立。ビジネス誌を中心に活動しつつ、一般誌、女性誌でも幅広いジャンルを手がけている。

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