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楽天は当初、新球団誕生の本拠地を、サッカーのヴィッセル同様、関西圏に置く構想を持っていた。しかし、市場マーケティングなどの末、9月22日には「本拠地は仙台」と発表した。下田氏自身は東京育ちだが、親は東北出身。「どうやら私が…」という予測がすぐに働いた。そして翌日、篠崎隆広 取締役、下田氏、新入社員だった藤田匡佑氏の3人に仙台行きの辞令が出た。

「要するに先遣隊ですよね。昼に転勤の辞令が出て、すぐに仙台に向かいました」。

たった3人。しかも、やらねばならないことは山のようにある。以来、翌年2月にチームの久米島(沖縄県)キャンプがスタートするまで、下田氏は球団広報関連の仕事を1人でこなすことになった。

「楽天に転職する以前から広報のお仕事をしていましたが、野球やスポーツにかかわる業務はまったくの未経験です。『スポーツ新聞って、どんな記事が載ってるの?』というレベルから勉強をしていきました。独特のノウハウが問われる世界ですから、慣れないうちは苦労もしましたよ」。

昨秋から今春にかけて展開された楽天イーグルス関連の報道量はすさまじい量だった。ただでさえ「日本のプロ野球はどうなる?」という興味から、ニュースへのニーズは高かった。同じく名乗りを上げ、仙台を本拠地とするプランを楽天よりも先に表明したライブドアの存在が報道をさらに過熱させた。

「いったい、どっちが参入を勝ち取るか」が国民的関心事とさえ言える状況だったのである。会見を開くときには、東京の楽天本体の広報チームのメンバーも入れ代わり立ち代わりサポートに付いたと言うが、そうはいっても広報チームは総勢で7人。もちろん各メンバーも特に野球に精通しているわけではない。

「同じマスコミでも、やっぱり経済誌や業界紙の記者さんと、スポーツメディアの方々では全然違うんですよね。それに取材に来る人数もまったく違うし、ともかく面食らうことばかりでした」。

そう語るのは、現在も楽天のグループ広報を務める勝浦麻里氏。マネージャーである下田氏が仙台に行ってしまった穴を埋めつつ、六本木ヒルズにも殺到していた野球関連の取材に対応。それまでかかわってきたビジネス系メディアの取材陣との文化面での温度差に戸惑い通しだったと言う。

スポーツを専門とする記者陣ではあっても、読者の興味は別のところにもある。「ITの楽天が野球にかかわったら、どんな新しいことが起こるのか」といった質問もたまには飛んでくるが、そもそも「楽天が展開しているIT事業」を熟知している記者は多くはない。会話そのものが成立しない、なんてことも多かったようだ。

「楽天イーグルス立ち上げ奮闘記」は全12回連載です。毎週月・水・金に更新。次回は、10月7日(金)に掲載する予定です。

森川 直樹

立教大学経済学部卒業後、フジサンケイグループ、講談社グループを経て独立。ビジネス誌を中心に活動しつつ、一般誌、女性誌でも幅広いジャンルを手がけている。

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