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【解説】増える人数、減る年収、派遣社員が置かれる厳しい現実

2005年5月12日

「派遣労働」という働き方について定めた「労働者派遣法」の施行は1986年、わずか20年前のことである。まだ歴史の浅いこの就業形態で、人は経済的自立を果たしながら一生働き続けられるものなのか。

正社員での雇用を希望しながらそれが叶わず派遣社員となった吉谷万里子氏(仮名、37)の職業人生を記した前回・前々回には、激励の声のほか、「戦略不足だ」などの批判も寄せられた。今回は個別事例を離れて、派遣社員として働く人々の置かれた現状について考えてみたい。

厚生労働省が派遣会社からの報告を基にまとめた「労働者派遣事業報告」によると、2003年度の派遣労働者の数は約236万人で、前年度より10.9%増えた。いっぽう派遣事業の年間売上高の伸びは5.1%(2兆3614億円)と、派遣労働者数よりも伸び率が小さい。派遣労働者をとりまく環境の悪化をうかがわせる。

では働く人々を対象にした調査から、実情をのぞいてみよう。東京都による実態調査(2002年度)に回答を寄せた登録型派遣労働者(注1)575人の内訳は、86.6%が女性で、男性の割合は12.7%だった(無回答0.7%)。年齢は「30代以下」が全体の74.7%を占めた。派遣社員の大半は30代以下の女性で、40代以降も派遣社員として働く人はまだまだ少数派だと言える。

派遣社員にも求められる「専門性」と「管理職経験」

「50代の派遣社員なんて、ほとんど会ったことがないですよ」。NPO法人「派遣労働ネットワーク」で派遣社員相手の相談業務をする山崎富美子氏は言う。

年を取っても派遣社員として働き続ける人はなぜ少ないのか。

大手派遣会社のパソナ広報部に聞いてみた。同社の広報担当者は「うちでは年齢制限のある求人の仲介はしていない」との前置きした上で、「専門的な事務なら、30代後半、40代でも働いている人がいます」と語る。

なぜ「専門的な」とただし書きがつくのか。「20代、特に25〜6歳までならその人の可能性に賭ける『ポテンシャル採用』もあるけれど、30代の人は『キャリア採用』となります」と説明する。

35歳ともなると、普通の企業なら部下の数人はいるぐらいのキャリアを積んでいる。入社10年以上で、ずっと一般事務だけをやっている人はそういない。ある程度年齢がいった人に企業が求めるのは、派遣社員でも正社員でも、「管理職経験」や「専門性」といった「それなりのスキル」なのだ…と言う。

そうはいっても、派遣社員を続けつつ部下を持つ「管理職」の経験を積むのは現実的には難しいだろう。では専門的なスキルとは、どのようなものを指すのか。

労働者派遣法のそもそもの趣旨は、派遣労働者とは専門的な技術や知識を持つ者であり、企業が内部で育成できない場合に受け入れるというものだ。現在の労働者派遣法が定める「専門的派遣」の業務は26種類ある。派遣労働者はそのうちのいくつかを自分の「専門」として派遣会社に登録し、条件の合う受け入れ先の企業が見つかればそこへ派遣される。26種類のうちでは「事務用機器操作」や「ファイリング」などを自分の「専門」として登録する人が多い。(注2)

 しかし、例えば「事務用機器操作」は法の上では「専門」業務であっても、実社会では補助的な一般事務とみなされがちだ。

パソナでは、専門的なスキルをもつ事務職として、英文事務、貿易事務、財務と金融関連の資格保持者を挙げる。これらをまとめて「テクニカル」と呼んでいる。「事務機器操作」、「ファイリング」の仕事は「クラリカル」という括りで、非専門的な一般事務として扱っている。もっともパソナの売り上げに占める割合は「クラリカル」が約5割、「テクニカル」は約1.5割にすぎない。派遣社員の中でも「専門的」とみなされるキャリアを築いている人は、あくまで少数派なのである。

派遣社員の収入は大幅に下がる

派遣社員の収入面での現状は、厳しくなっている。

派遣労働ネットワークが3〜4年ごとに実施する調査の最新版「派遣スタッフアンケート2004」(回答者172人、女性147人・男性25人)によると、平均年収は216万円で1994年調査の266万円より大幅に下がった。時給の平均は1430円、こちらも10年前の1704円より大きく下がった。

東京都の調査でも、派遣社員の年収は「200万円〜250万円」が最も多く、全体(回答者575人)の21.9%。「400万円以上」稼ぐ人はわずか5.1%で、前回調査(98年)の8.0%より減っていた。

では派遣社員として働く人はなぜこの働き方を選ぶのか。都の調査でも「派遣スタッフアンケート」でも、約5割の人が「正社員として働ける適当な企業がなかったから」を理由として挙げている。いずれも前回調査より回答者の割合が急増した。かたや「賃金水準が高いから」という回答は、両調査ともに減っており、約16%だった。

「できれば正社員で働きたい」と望む派遣社員が増えている

今後の働き方について「派遣スタッフアンケート」で聞いたところ、「できれば正社員で」が62%と最多で、1998年調査時の30%より大きく増えた。ちなみに1998年調査では、58%の人が「派遣スタッフで」と答えていたのである。(注3)

では吉谷氏のような30代後半以上の派遣社員が抱える問題とはどのようなものか。派遣労働ネットワークの山崎氏は、「長く働いて、ある程度時給の高くなった人が、派遣先の企業に契約更新してもらえず解約される例が最近は増えている」と言う。

そのほか、受け入れ先の企業に連れて行かれて面接を受けさせられる「事前面接」、複数の派遣会社から来る候補者と競争させられる「他社競合」など、「労働者派遣法で禁じている行為が、派遣労働の現場では当たり前になっている」と山崎氏は話す。

ただし山崎氏は「労働者派遣法は規制が細かく、うまく利用すれば働く側にとって利点もある。派遣社員の方々はもっと声を上げてほしい」と言う。

例えば2004年3月に法改正された「優先雇用制度」。「(ある企業が)ある業務に3年以上派遣を受け入れ、その業務に新たに労働者を雇い入れる場合、派遣先(ある企業)はその派遣スタッフに対して雇用の申し込みをしなければならない」という規定である。山崎氏が執行委員を務める労働組合「東京ユニオン」の組合員には、労働基準監督署を通じた企業への働きかけが成功し、正社員として雇用された例もあるという。

厚労省によると、女性の就労者の5割強を、派遣社員やパートなどの「非正規就労者」が占めている。その割合は男性でも増えているし、世代で見れば若い世代ほど多くなっている。「非正規就労者」の実態については、回を改めてまた記したい。

(注1)登録型派遣とは、派遣の仕事を希望する人が派遣会社に登録手続きをしておき、派遣先が決まったときに派遣会社との雇用関係が発生するもの。2002年度には派遣労働者の84%が登録型派遣だった(厚労省調べ)。

(注2)そのほか「臨時的・一時的派遣」という派遣形態に「一般事務」という業務分類がある。都の調査では、「登録している職種」で最も多かったのが「一般事務」で53.7%、次いで「事務用機器操作」が29.7%、「ファイリング」が24.7%だった。

(注3)リクルート ワークス研究所「ワーキングパーソン調査2002」(首都圏)では、女性の派遣社員の5割が「転職を阻害する要因」として「募集求人の年齢制限を超えていることが多い」と挙げる。求人の年齢制限は、派遣労働からの転身を阻害する一因となっている。

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 派遣労働とともに大手ものづくり会社が多く採用している「業務請負」労働の実態も併せて掲載おねがいします。
 トヨタグループの純利益とも大いに関係することですし、問題として取り上げているのが野党の共産党やしんぶん「赤旗」だけなのでどうしても情感的で偏向しがちな記事に
なってしまいがちです。
 じつはこうした傾向があらたな偏見を生みだし、
派遣・請負労働問題の議論行為にネガティブな印象を
植え付け、タブー視することが労働者側の救済や
「派遣社員の方々はもっと声を上げてほしい」という
風潮すらもかき消されているような気がしてなりません。
 貧困や苦悩のレベルこそ違えど、「山谷ブルース」や
「自動車絶望工場」の現代版はそこかしこにあるはずで
あるのだが、純利益1兆超の喜ばしくも輝かしい結果ば
かりの報道ばかり。
 その裏側を取り上げる媒体が少ないのは
取材の煩雑さを嫌ってのことなのでしょうか。

長田 美穂

1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。全国紙記者を経て99年2月よりフリーに。

著書に、時代を代表する商品を素材に消費社会論を展開した「ヒット力」(日経BP社)とその新装改訂文庫版「売れる理由」(小学館文庫)、現代の少女の心の病をテーマにした「問題少女」(PHP研究所)、昭和のアイドル史を写真と共に綴った「アグネス・ラムのいた時代」(共著、中央公論新社)がある。月刊誌、週刊誌に寄稿多数。

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