旬材社長 西川 益通
28年間、造船会社に勤めた。日本の漁業の繁栄と没落の双方を目の当たりにした。「漁業者の経営改善に役立つサービスが何かできないか」。55歳で早期退職し、起業した。1年目は棒に振った。2年目で光明が見えた。3年目、突然の脳梗塞に襲われた。そして、今……。
取材・文=永井 学
写真=塩川 真悟

港を回っては、現地の漁師や漁業組合を訪れ、漁の調子を尋ねる。市場にも頻繁に顔を出し、買い付けに奔走する毎日だ
その日、2004年11月末の未明、旬材(しゅんざい)の社長、西川益通(ますみち)は、自分の身体に起きた異変に愕然とした。
「さて仕事しよう思たら、言葉が出てこん。半分くらい忘れとる」
物事のイメージは浮かんでくる。筋道立った思考もできる。だが、考えを言葉にしようとすると、単語を思い出せない。舌がもつれる。
突然の失語症。脳梗塞──西川は直感した。慌てて会社近くの病院に駆け込んだ。幸い、症状は軽度。だが、即刻入院。絶対安静が言い渡された。
しかし、数日後、西川は病院を“脱走”する。会社に向かった。自分が仕事をしなければ会社が危ない──そう思ったわけではない。むしろ西川は、「思い込み」だけで始めたこの商売が、自分抜きでも回っている姿、それをどうしても確かめたかったのだ。
全国の漁業者や農家といった生産者から直接、珍しい旬の食材を買い付け、レストランやホテルなどの飲食店に卸す。それが、西川が2002年に立ち上げた旬材のビジネスモデルである。
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