「大学生のとき、初めて行った海外がタイだった。だから、タイの街を歩いて、昔タイで思ったことと今の自分の気持ちを比べたかった。もう一度放浪したいのかどうかを考えたんだよ」
そう石川は言う。
ほんとうは、自分で自分を恐れていた。船に乗って当て所ない旅に出て、そのまま帰りたくなくなるのではないか、と。
だが結末は意外だった。
心の内を確認するように、石川は静かに語る。
「『もう放浪には興味がない』とはっきり思った。そこには自分が過去にひきずっていたものはなかった。放浪しても学ぶものはないと感じたんだよ。それよりも今の仕事が楽しい。やらなきゃいけないこと、やり残していることがいっぱいあるし、これからやることのほうがぞくぞくするって。これは大きな変化なのかもしれないね」
つまり、放浪よりも経営がおもしろくなったということか。
だが、こういう考え方もできはしないか。
石川は今も“放浪”しているのだ。彼にとって、「経営の舵を取る」ということは、何が起こるかわからない未知の土地をさまよう放浪と同義なのかもしれない。
※本文敬称略
※「石川光久、アニメビジネスを変えた男」は今回が最終回です。
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