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バンダイビジュアルは、押井監督が出した予算に納得せず、それを削ろうとしていた。だが石川は、監督がこれだけの制作費で作りたいと考えている、そのビジョンを壊すことが怖かった。だから「うちも出資するから、監督の思うように作らせてくれ」と頼んだのである。

設立から5年程度の会社が5000万円を投資するには、相当の覚悟がいる。しかも、万年自転車操業が多いとされる中小アニメ会社においてはたいへんなことだ。

だが、石川は既に、将来の展開を見込んで、ファイナンス専門の子会社「イング」(90年設立)を立ち上げていた。そこで『パトレイバー2』への出資もスムーズに進んだのである。

ファイナンス専門の子会社をつくる先見性

「イング」を制作スタジオであるI.Gとは別会社にしたのは、クライアントに対する配慮だという。

「ファイナンスっていうと、アニメ業界では『ピンハネしてるんじゃないか』という悪いイメージがあった。それに『製作』にI.Gの名前が出たらクライアントが嫌がると思ったから、奥ゆかしさを演出するために別会社にしたんだよ」と、石川は言う。

「長いものには巻かれろ」と言いつつ、いつの間にか下請けから抜け出して、自分より上位だったはずのクライアントと同等の立場を獲得している。この渡世術はなかなか真似できない。

押井監督が、愉快そうにこう話す。

「石川は同じことは2度とやらない。それが最大の特長かもね。だから『パトレイバー2』のときは、作品に出資をした…(1作目と同様に)バンダイの下請けでやるつもりはないと。あれは面白いね。普通は1回うまくいくと次も同じことをやろうとするけど、あいつは違う。ま、それで痛い目に遭うこともあるんだけどさ」

それにしても、会社設立2年半で、もう版権事業の準備を進めていたとは…。その先見性に驚くばかりだ。

「『イング』が権利を押さえていたから、やりたくない仕事を断るだけの資本を蓄えることができた。そうでなきゃ、もし制作だけやっていたら、I.Gはとっくにつぶれているよ」

そう石川は言う。

現在、プロダクションI.Gの売上高の約3割を版権事業(制作者印税、出資金分配収入など)が稼ぎ出す。石川が蒔(ま)いた種は見事に芽を出し、すくすくと育っているようだ。

※本文敬称略

梶山 寿子

神戸大学文学部卒業。テレビ局勤務を経て、ニューヨーク大学大学院に留学し、メディア環境学を専攻。92年修士号取得。読売新聞米国現地版で記者として勤務した後、フリーになり、日米で取材、執筆を続ける。98年に帰国、社会・家族問題、ビジネス・トレンド、人物ノンフィクションを中心に、幅広い分野で執筆。TVコメンテイターとしても活動中。特に近年はアニメーションをはじめとするコンテンツ・ビジネスの取材に力を入れている。主著に、スタジオジブリのビジネスを追った『ジブリマジック』(講談社)、『家族が壊れてゆく』(中央公論新社)、『子どもをいじめるな』(文春新書)など。

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