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社長に見えない「社長」は異色ずくめ

確かに何をとっても異色の経営者だろう。

子どものころからアニメ番組はほとんど見たことがなかったのにこの業界に飛び込んだ、という経歴もユニークだし、外見もしかり…。“アキバ系”のオタクっぽい中年男性を想像していると、本人とのギャップに驚くに違いない。

筆者も初対面のときはちょっと面食らった。

「成功したアニメ会社の社長」には見えない、年齢不詳の不思議な人物。そもそも「成功したアニメ会社の社長」なる類型があるかどうかは分からない。だが、少なくとも「社長」に見えなかったことは事実だ。かと言って、テレビ・ディレクターなどの業界人とも、“堅気”のビジネスマンとも違う。

ネアカの体育会系で、しかも、ファッションは今どきの若者が好きそうなストリート・カジュアル系。それが長身のスタイルによく似合うのだが、どこか朴訥(ぼくとつ)とした雰囲気が漂うのがこの人らしい。

取材が始まると、混迷はさらに深まった。話が飛んで、何を言っているのかさっぱり分からない。

押井監督の言を借りると「初対面では、どう見ても、ただのバカにしか見えない(笑)」ということか。

だが、あいまいに相槌など打ちながらしばらく話を聞いていると、面白いことに情緒的な部分では石川が言わんとしていること、伝えようとしている核心は、痛いほど心に響いてくるのだ。

言葉は荒削りでも、心意気や熱意はずしんと伝わる。いつしか、その話に引き込まれる。

それが石川光久の個性であり、強みだ。その独特のパワーで、業界のタブーに挑戦し続けてきた。

「アニメ界の“長嶋茂雄”みたいな存在」

本郷監督はこう話す。

「会社が大きくなっても、石川さんは、ご覧の通りそんな感じ(笑)。昔と全然変わらない。そういう人が社長をやって、一本道でうまくやってきたように見えるけれど、崖っぷちも走ってきたはずですよ。後ろでは雪崩も起こっていたかもしれない。でも、なんとかうまく走り抜けてきた。結果的にI.Gはこの業界の中でも抜きん出て将来性のある会社に育ったんです」

「ほかのアニメ会社の経営者とは、目の付け所が違うんですよ。しかも、ほかの人なら簡単に失敗してしまうようなことを、かなりの確率で成功させている。これは一種の才能ですね。自分が前に出ることもできるし、後ろに下がることも自在にできる。苦しいときでも、みんなを楽しませよう、楽しく仕事をさせてあげようという包容力もある。野球選手で言うと長嶋茂雄さんみたいな存在じゃないでしょうか」

次回からは、石川がアニメ業界で歩んできた道のりを、駆け足で振り返ることにしよう。

梶山 寿子

神戸大学文学部卒業。テレビ局勤務を経て、ニューヨーク大学大学院に留学し、メディア環境学を専攻。92年修士号取得。読売新聞米国現地版で記者として勤務した後、フリーになり、日米で取材、執筆を続ける。98年に帰国、社会・家族問題、ビジネス・トレンド、人物ノンフィクションを中心に、幅広い分野で執筆。TVコメンテイターとしても活動中。特に近年はアニメーションをはじめとするコンテンツ・ビジネスの取材に力を入れている。主著に、スタジオジブリのビジネスを追った『ジブリマジック』(講談社)、『家族が壊れてゆく』(中央公論新社)、『子どもをいじめるな』(文春新書)など。

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