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石川社長「I.Gというブランドはこれからもっと面白くなる」
写真:萩原美寛

早くから海外市場に目を向けるなど、目先のことに振り回されるだけでなく、「5年後、10年後に芽が出るような種を蒔(ま)いてきたこと」も、今になって着実に成果を上げつつある。タランティーノ監督から認められたのも、その一例であろう。

その信念は「人は嘘をつくけど、作品は嘘をつかない」。クオリティーの高い作品を作ることが会社の強みになると考えたのだ。

そのために、何よりもスタッフのモチベーションを大事にする。『キル・ビル』のエンディングのスタッフロールに、無理を言って、制作にかかわった「I.G」のスタッフ全員の名前を入れてもらったのもその一例だ。この交渉のために、石川はわざわざロサンゼルスの撮影現場に飛んで、監督に直訴したという。

「日本アニメのビデオやDVDのパッケージには、(出版社やテレビ局、広告代理店など)お金を集めてきた企業の名前が書いてあるだけ。でも本当に重要なのは“だれが作ったか”。海外ではそこをきちんと見てくれる。だから、タランティーノは僕を壇上に上げてくれたんじゃないかな」

カンヌ国際映画祭のレッドカーペットを歩く

冒頭で紹介した『キル・ビル』の記者会見のころを境に、石川の名前は新聞の経済面やビジネス誌に頻繁に登場するようになる。翌年の2004年春に公開を控えていた大作『イノセンス』のPRのため、積極的にメディアの取材を受けるようになったからだ。

『イノセンス』は興行的には苦戦したものの、「プロダクションI.G」のブランド認知度を飛躍的に高めた。また石川は2004年5月、この『イノセンス』を引っさげて、カンヌ国際映画祭のレッドカーペットも歩いている。日本のアニメーションがカンヌ映画祭のコンペティション部門にノミネートされるのは史上初の快挙だ。

そして2005年秋から、世界最大のアニメ専門テレビ局「カートゥーンネットワーク」と制作した新作アニメ『IGPX』が、日本を含む世界160カ国で放映される。

石川が蒔いた種がようやく芽を出し、葉をつけ始めた。どんな花が咲くかは分からないが、それもまた「楽しみだ」と無邪気に笑う。

「今は肥料をやっている状態で、枝も伸びていないし、蕾もついていない。I.Gというブランドはこれからもっと面白くなるんだよ」

自らに言い聞かせるように、石川はそう繰り返すのだ。

今、日本のみならず世界から熱い視線が注がれる「プロダクションI.G」。石川光久社長が歩んできた道と、そのユニークな経営哲学を、連載で紹介していく。

※本文敬称略

梶山 寿子

神戸大学文学部卒業。テレビ局勤務を経て、ニューヨーク大学大学院に留学し、メディア環境学を専攻。92年修士号取得。読売新聞米国現地版で記者として勤務した後、フリーになり、日米で取材、執筆を続ける。98年に帰国、社会・家族問題、ビジネス・トレンド、人物ノンフィクションを中心に、幅広い分野で執筆。TVコメンテイターとしても活動中。特に近年はアニメーションをはじめとするコンテンツ・ビジネスの取材に力を入れている。主著に、スタジオジブリのビジネスを追った『ジブリマジック』(講談社)、『家族が壊れてゆく』(中央公論新社)、『子どもをいじめるな』(文春新書)など。

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