このページの本文へ
ここから本文です

ビジョンが技術を先導する

iSeriesの設計者であるソルティス博士は、大学でコンピュータサイエンスを学び、仮想的なコンピュータやデータを利用者に意識させない仕組みなど、新しい設計思想を研究してから、IBMへ入社した。しかし今日でも先進的と言えるこの設計思想に基づいたコンピュータを実際に設計、生産、販売していくことは簡単ではなかった。

自著の冒頭にソルティス博士は「ほんのひとつかみの技術者とマネジメントリーダーたちの先見の明および創造性により、製品はいつも成功に導かれる」と記している。続けてリーダーとは何かに触れ、「洞察力のあるリーダーは何が出来るかというビジョンだけでなく、そのビジョンを他人に伝える能力も持っていて、そして関係する全ての人々にそのビジョンを自己のものと感じさせることができる」と書き、具体名を挙げてiSeriesの生みの親となったリーダーを紹介している。

中でも、製品開発プロジェクト全体のマネジャーを務めたハリー・タシジャン氏の存在は大きかったようである。ソルティス博士が学生のころ、IBMのロチェスター事業所に働きに来たことがあった。ロチェスター事業所とは、ミネソタ州にあるiSeriesの研究開発製造拠点である。タシジャン氏はソルティス博士に「コンピュータのアーキテクチャを勉強してはどうか」と勧め、その通りにしたソルティス博士を雇用した。

タシジャン氏は銀行端末などを製造していたロチェスター事業所を「ビジネスコンピュータシステムにおける世界のリーダーにする」というビジョンを持っていたという。IBMに入社したソルティス博士にタシジャン氏が与えた開発コンセプトは「小さくて使いやすいビジネスコンピュータ」であった。このコンセプトに、ソルティス博士の考えた設計がぴったりはまったのである。

iSeriesは現在、大企業でも使われているが、最初から大企業向けを狙っていたら、ここまでの成功はなかったであろう。というのはソルティス博士の設計は革新的過ぎて、大企業で要求される性能のコンピュータとして仕上げるのは難しかったからである。その後、コンピュータ技術がもともとの設計思想に追いつき、現在のiSeriesは大企業の業務を一手に処理できる処理性能を持っている。

また「小さくて使いやすい、科学技術計算用コンピュータ」を目指していても成功はなかったと思われる。科学技術計算においては処理性能が第一であり、iSeriesの当初の性能では市場の要請に応えられなかった。そもそも技術計算を担当するのは技術者なので、「専門家をおかなくても使える」というコンセプトはたいして魅力的ではなかったろう。

お知らせ

■■技術経営メールのご案内■■
技術経営戦略誌「日経ビズテック」はイノベーション(新製品/新事業開発)に取り組むリーダーに向けた「技術経営メール」をお送りしています。テクノロジーを生かしてビジネスを創造するためのヒント、技術と経営を巡る異論・極論を毎週火曜日にお届けします。お申し込みは http://gkm.nikkeibp.co.jp/ からお願いします。

谷島 宣之

経営とITサイト編集長。日経コンピュータ・ITpro・日経ビジネスオンライン編集委員。1985年に記者となって以来、情報システム関連のテーマを取材し続けている。特に、システム開発プロジェクトについては、100件以上の実例を取材し、報道してきた。かかわった媒体は「日経コンピュータ」「日経ウオッチャーIBM版」「日経ビズテック」「ITpro」「日経ビジネス」など。「経営者とIT担当者の間にある溝」に最大の関心を寄せる。

記事検索 オプション

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。

ご案内 nikkei BPnetでは、Internet Explorer 6以降、 Safari 2以降、Opera 8以降、Netscape 8.1以降またはHTML 4.01/CSS level 1, 2をサポートしたWebブラウザでの閲覧をお勧めしております。このメッセージが表示されているサポート外のブラウザをご利用の方も、できる限り本文を読めるように配慮していますが、表示される画面デザインや動作が異なったり、画面が乱れたりする場合があります。あらかじめご了承ください。

本文へ戻る