スタミナと使い勝手の充実にこだわり続ける
ただし、「ウォークマンスティックは、ウォークマンのDNAをしっかりと引き継いだ製品だ」と伊藤係長は断言する。
ウォークマンのDNAとは何か。伊藤係長はそれを、「技術的優位性を発揮できる製品であること」、そして、「音楽の新たな楽しみ方を常に提案すること」の二つだと語る。
技術的な優位性については、VMEが大きな目玉だ。ソニーが「スタミナ」という言葉で表現する連続再生時間は、他社にはない強みとなっている。iPod shuffleは、1ギガバイト版に収録されたすべての音楽を、一度の充電で聞き終えることができない。これに対してソニーは、モバイル機器の基本とも言える長時間連続駆動に正面から挑んだ。
操作面においても、いくつもの工夫を凝らした。人差し指だけで感覚的に操作ができることは、ウォークマンが追い続けてきた理想の一つ。操作に必要なボタンなどを1カ所に集め、ディスプレイ表示を見なくても、指先だけで操作できるようにした。起動にかかる時間はわずか0.1秒で、すぐに音楽が聴ける。指先の操作に合わせて文字が回転したり、引っ張られるように表示されたり。こうした操作感覚の実現も、ソニーがDNAとして持っているこだわりの現れだと言えるだろう。
結果としてウォークマンスティックは、競合他社の製品にはない質感と操作性、そしてスタミナを実現した。
自由な発想で製品化に取り組めた
ソニーの社員にとって、ウォークマンは特別な存在である。だが、そのウォークマンが厳しい状況に立たされている。土壇場に臨み、ソニーの底力が試されようとしている。それは、だれの目から見ても明らかだ。
その渦中にウォークマンスティックは投入された。
しかし、開発メンバーに共通したのは、「『追いつめられた』という焦りはなかった」という感想と、「自由な発想で製品化ができた」という達成感だった。
「音楽を楽しむ。そのときに、どんなことをしたら楽しいか。それを真剣に考えた。ここにソニーならではの特徴がある」と伊藤係長は断言する。例えば、泡の様子を再現して有機ELディスプレイに表示することで、音楽を水の流れのように表現した。オーディオ機器としての機能とは直接関係のないこんな部分にも、徹底的にこだわった。
振り返れば、ウォークマンスティックは、現場の意見だけで開発が進められた製品だと言っていい。経営トップや本部長などの意見はほとんど反映されることがなかった。いわば、現場に息づくソニースピリットによって作り上げられたものと言っても過言ではないだろう。
ただし、ウォークマンスティックの事業が成功するかどうかは、まだ分からない。ウォークマンスティックの成否によって、ウォークマンのDNA、そして現場に根付くソニースピリットの真価が試されることになる。
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