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第53回 「IT消費国からIT生産国への転換を」、デジタルプロセス・間瀬社長

2005年3月1日

(田中 克己=編集委員室主任編集委員)

「ITはもの作りを支えるソフト(技術)として、その重要性を増している。しかし、汎用ソフトが主流の時代に入ってからは残念ながら、ほぼ100%欧米のソフトに制圧されてしまった。その結果、日本の製造業は必ずしも適していないソフトを使用せざるを得ない状況に至った。21世紀の日本の製造業の成長にとって将来、致命的な打撃となるであろう」。

約30年間、日産自動車で開発部門などに携わってきたデジタルプロセス(神奈川県厚木市)の間瀬俊明社長は数年前から「このままでは日本のIT業界、さらにはIT立国があやうい状況になる」と思い始めたという。「日本はもの作り立国だと言っていた。確かに日本が発展するベースはもの作りで、それは間違いない。だが、併せてIT立国を標榜し、国の政策も企業もこの方向に向いている」(同)。とすれば、日本のIT技術力の低下はIT業界だけの問題にとどまらないことになる。

それが顕著に現れているのがソフトの輸出入だ。輸入金額は約1兆円もあるのに、輸出はその100分の1しかない。ゲームソフトの輸出があるという人もいるが、「ゲームソフトはコンテンツでストーリーを売っている。ゲームソフトを開発するソフトは欧米製品で中枢はおさえられている」(同)。また、「(楽天などの)インターネット企業が台頭しているのではないか」という人もいる。「確かに注目を集めているが、彼らに車(IT)は作れない。いわば運転手である」(同)。自動車産業からIT産業に移籍した間瀬氏にはこの10年間、有効な手立てがないIT業界は漂流状況に見えるし、このままでは日本はIT消費国になってしまうと危惧する。

こうした事態を招いた責任は、ITを活用する企業側にもある。日本の製造業は、もの作りに関して細かいところまで指示するDNAはあるが、経営者はブラックボックス化したソフトという目に見えないものをなかなか理解できない、あるいは理解しようとしない。自動車も家電も医療機器も携帯電話も、開発全体に占めるソフトの比重が高まっているにも関わらずだ。

「日本の強みが侵食される」

間瀬氏は自動車産業の例を上げて次のような説明をする。日本でモータリゼーションが始まった数年後の1970年、米国でいわゆる排気ガス規制のマスキー法が浮上してきた。日米自動車メーカーはその対応に迫られるが、「日本メーカーは、78年に日本版マスキー法が発効された段階で排気ガスを10分の1に削減する課題をクリアした。だが米ビックスリーはできなかった」(間瀬氏)。確かに日本の自動車産業も保護貿易時代があったが、技術革新を積極的に進めてきた結果ともいえる。

ところがエンジニアリング分野で大きな問題が表面化する。80年代の日本メーカーは自前で自社に適したCAD/CAMシステムを開発してきたが、90年代に入るとCADの開発コストが1社当たり100億から200億円に高まり、個別負担しきれなくなってきた。そこで欧米製汎用パッケージソフトを使うことを選択する。実際は「使わざるを得なくなった」(間瀬氏)のだが、実は日本製もあったのだ。「それはいい」と思わない風潮も日本市場にあったという。

こうした事態が今日まで続いている状況を、間瀬氏は「日本の強み(もの作り)が侵食されている。しかも無防備なままでだ」と見る。何故か。CAD/CAMシステムは、デザインから設計、生産というそれぞれの現場で行われる処理内容を、ソフトの機能として取り込むことで効率化や開発・生産期間の短縮を実現させるもの。機械でやっていたことをソフト化するために、CADにはいろんなノウハウを組み込まれることになる。

間瀬氏はここに大きな問題があるという。ノウハウが日本に蓄積されず欧米製品にいっているからだ。しかも、結果的にはコストを払ってノウハウを教え改善させているようにも見える。「離合集散が日常茶飯事の欧米で、M&A(企業の合併・買収)で1つのソフトを止めてしまうこともあり得るだろう。日本への販売金額が高くなることもあるかもしれない」(間瀬氏)。だからこそ「日本がもの作りの現場を持っている間に、それらノウハウを生かしたソフトを開発していく必要がある」と間瀬氏は力説する。

だが間瀬氏には、富士通やNECなどのITベンダーはエンジニアリング系に弱いように見える。「製造業向けの販売や物流などのシステムはあるが、製造業の技術そのものを支えるものがない」(間瀬氏)。メインフレーム時代からオープンシステム時代になり、日本のITベンダーは極端に言えば海外から買ってきたものをカスタマイズしたり教育したりする商売になりつつあるというのだ。

日本の製造業が世界で勝ち残るためにも、日本はITの消費国から生産国に転換していく必要がある。「自分の会社だけが生き延びるのではなく、日本企業でもアジア企業でもいいから他社と組んでやることだ」(間瀬氏)。欧米と日本は品質に対する捉え方は異なる。ある輸入ソフトに問題があっても欧米では大きな問題にならないこともあるだろう。そうなると品質や機能をめぐって、ユーザー企業と海外ITベンダーの間に入ったITベンダーは品質・機能の改善を要求するだけになってしまう。「そんなことに慣らされてしまうと、創造的な場がなくなってしまうし、(技術者の)喜びもなくなる」(同)。製造業の現場の技術者とIT技術者が融合し、欧米製品に勝てるソフトを作り上げるためにも「出来の悪いソフトでも徹底的に改良させていくこと」(間瀬氏)だ。

「作らずに買う」。日本のIT産業はこのままでいいのだろうか。

◎「IT最新事情」過去記事一覧へ


■田中克己(たなかかつみ)
日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ(現日経ソリューションビジネス)編集長などを経て2004年1月から主任編集委員。20年以上、IT産業の動向をウォッチし続けている。現在、日経ソリューションビジネスで「明日に駆ける」を連載中。専修大学兼任講師(情報産業)

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