特許権の取得と特許侵害(5)
(矢野 千秋=弁護士:矢野・千葉総合法律事務所)
特許権の取得と特許侵害(4)からの特許権の続きです。侵害と目される相手方の対応です。前回は「要件1をつぶす」をお話しました。今回は要件2、要件3つぶしです。詳しく見てみましょう。
1 要件2をつぶす
要件2は「無権限の実施行為であること」でした。このためには、実施許諾、クロスライセンス契約、先使用権の検討、そしてこれは当たり前ですが、侵害行為の停止、権利譲渡を受けるなどの方法があります。
(1)実施許諾、クロスライセンス契約
特許権者との話し合いにより、特許権者から実施許諾を受けたり、クロスライセンス契約を締結したりします。実施許諾を受ければ、その後の実施行為は「有権限」になり、「無権限」の実施行為でなくなります。要件2が外れました。クロスライセンス契約というのは、特許権者から特許権の実施許諾(ライセンス)を受ける見返りに、相手方も特許権者に対してなんらかの権利のライセンスをする契約です。通常のライセンス契約が権利の許諾と金銭の交換であれば、この契約は権利許諾と権利許諾の交換です。通常、特許権の抵触問題が発生しているような場合は、特許権者も侵害と目されている相手方も、同じ業界に属していることが多いのです。であれば互いに利用可能な特許権を保有している場合も多く、かなりの確率で権利をクロスしてライセンスできる場合があるのです。
もちろん、当事者間のみで話しが付くのが、一番手間が掛からず望ましいのですが、当事者同士の話し合いでは結論が出ず、訴訟が提起されてしまう場合も少なくありません。ただ、訴訟が提起されたとしても、すべてが判決で解決されているわけではありません。提訴後に話し合いが成立して、訴訟上の和解ということでライセンス契約の締結に至ることもあります。当事者だけの話し合いでは、お互いが自己の立場を譲らず、話しが付かないことも多いのです。でも訴訟になりますと第三者である裁判官が間に入ります。片方が無理な要求をしていれば、それを裁判官がいさめるようなことも期待できます。つまり、訴訟になると裁判官が介入し、ある程度の仲裁活動が期待できるので、和解が成立しやすいとも言えるのです。
だから訴訟にしろと言っているわけではありません。訴訟ということになれば、大なり小なり費用などの出費が不可避です。特許侵害訴訟ということになれば弁護士の費用も通常訴訟より割高なのが普通です。以前にも申し上げたように、権利侵害の問題は、すぐれて経済的な問題でもあるということです。いたずらに感情的になって合理性のある法的判断を忘れ、結局つまらない出費をして経済的損失を被る愚を冒すべきではありません。冷静に、そして客観性のある主張を交換し合うべきなのです。そうすれば、裁判所で話し合いが付くものなら、裁判所に行かずに話し合いがつくはずであるとも言えるのです。当事者だけでは、なかなか法的に客観性のある主張の交換は難しいかもしれません。ならば当事者双方が、この分野に精通した代理人弁護士を立てて話し合うのが適切な方法です。もちろん、そうした弁護士はこの分野のプロですから、訴訟になった場合の結果もある程度見通した、客観性のある範囲での話し合いが可能になります。また、弁護士会に設けられている仲裁制度などを利用するのも、余り費用を掛けずに専門家の意見を取り入れた合理的解決を導く一つの方法でしょう。
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