このページの本文へ
ここから本文です

マスメディアも、数字をあげて具体的に議論せよ

マスメディアにもタダの悪しき風潮が感じられる。

僕が最も恐れているのがメディアの反応だ。高速道路無料化には賛成するのに、増税には反対する。これはある種の詐欺だと思う。

消費税見直しの議論が出たときに、あるニュース番組のコメンテーターが「また増税ですか、無駄遣いはやめてもらいたい」と発言していた。増税=悪のステロタイプである。納税者(タックスペイヤー)ならば、どの程度の税とどの程度の行政サービスが見合うのか、を議論するべきなのに。いつまでも「とにかく何でも反対」と言っているだけではしかたがない。

東京23区は子供の医療費が無料……健康保険制度の崩壊を招きかねない

東京23区は、中学3年生までの子供の医療費を無料にしている。

僕はこの制度にも違和感を抱く。これは23区が行う自治の枠内の政策である。東京都もこれに文句を言うことはできない。しかし、ほんとうにこの医療費無料が少子化対策などの観点から政策効果を上げているのだろうか、きちんと検証されなければ「東京一人勝ち」などと言われてしまう。ちなみに、都下の多摩はタダではない。お金がある23区だけが実施している。

23区は「準自治体」なので、東京都が集めた固定資産税や市町村民税などの55%を配分して財政需要を賄っている。東京は地価が高いので固定資産税が多い。法人税の分け前もある。23区は財政的に余裕がある。本来ならば3割を自己負担すべき医療費を、税金を使って無料にすることができるのは財源的な余裕があるからだ。

7割を健康保険で賄うことは理解できる。社会福祉体制がしっかりしているということだ。残りの3割は自分で払い、「お金がかかったな」ということを実感するべきだろう。

しかし、タダにすると、こうした実感がなくなる。ちょっと風邪をひいただけでも医者に行くようになるだろう。熱が40度超えたときに慌てて病院に駆け込むのは仕方ないことだが、37度5分の微熱でも病院に行くようになる。1年に3回くらい病院に行けばいい人も、タダになれば10回病院に行く。

こうした事態は、健康保険制度の崩壊を招く。保険とは助け合いだ。みんなが払う健康保険料をプールしておき、誰かが病院に行ったときに、その費用の7割を、プールを取り崩して病院に支払う。不要な診療が増えれば、その分、みんなで払ってつくった国民健康保険のプールの取り崩しも加速する。

タダは、いろいろなものを壊していく。タダは、人を腐敗させる。

お正月にもちなどをまく行事がある。タダだと、多くの人が群がる。奪い合いはすごい勢いだ。みんながタダを喜ぶが、タダで国家は成り立たない。最近の風潮は、何か根本的なところが欠けていないだろうか。

猪瀬 直樹(いのせ・なおき)

作家。1946年、長野県生まれ。

1987年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』で1996年度文藝春秋読者賞受賞。以降、特殊法人などの廃止・民営化に取り組み、2002年6月末、小泉首相より道路関係四公団民営化推進委員会委員に任命される。政府税制調査会委員、東京大学客員教授、東京工業大学特任教授、テレビ・ラジオ番組のコメンテーターなど幅広い領域で活躍中。東京都副知事。最新刊に『東京からはじめよう』(ダイヤモンド社)がある。

(全 4 ページ中 4 ページ目を表示)

記事検索 オプション

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。

ご案内 nikkei BPnetでは、Internet Explorer 6以降、 Safari 2以降、Opera 8以降、Netscape 8.1以降またはHTML 4.01/CSS level 1, 2をサポートしたWebブラウザでの閲覧をお勧めしております。このメッセージが表示されているサポート外のブラウザをご利用の方も、できる限り本文を読めるように配慮していますが、表示される画面デザインや動作が異なったり、画面が乱れたりする場合があります。あらかじめご了承ください。

本文へ戻る