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トヨタ自動車にも生きる金次郎の思想

このマニュアルは、関東一円をはじめ、北は相馬藩(福島県)から西は三河(愛知県東部)あたりまで、かなり広い地域に伝わっていった。豊田紡織の創業者である豊田伊吉氏(トヨタグループ創業者・豊田佐吉氏の父親)は、金次郎の教えを生活の信条にしていた。豊田紡織はトヨタ自動車の出発点である。その子である佐吉氏も、やはり金次郎の教えに帰依していた。トヨタ自動車では、書類はA4用紙1枚にまとめると言う。この徹底したコスト削減や効率を追求する姿勢の根底には、金次郎の遺伝子が受け継がれている。

戦後民主主義は、戦前をすべて否定。二宮金次郎も、根性と倹約という古い観念に閉じこめられてしまった。しかし、倹約は「コスト削減」、根性は「企画を実現するための実行力」と置き換えて考えればいい。金次郎の改革や考え方は、人口減少と低経済成長が懸念される現代にも通じるものがある。

終戦から1990年までの45年間、高度経済成長を謳歌した日本。その後、我々は人口が減少する低成長時代に入った。これは、二宮金次郎が生きた文化文政時代の江戸後期と似た環境だ。彼は、その厳しい状況を生き抜くべく、知恵を絞り抜いた。そして、金融はもちろん、道徳や新田開墾の高いノウハウを身につけ、攻めの富国論を展開した。

二宮金次郎がなぜ薪を背負っているかを考えることは、我々が未来をどう生きるかのヒントになる。夏休みに故郷に帰った折には、子供のころに通った小学校の校庭にある二宮金次郎像を見て、二宮金次郎が薪を背負っている理由をあらためて考えてみてはどうだろうか。

金次郎が何を考え、何を実行したのか。その詳細は8月3日発売の拙著『二宮金次郎はなぜ薪を背負っているのか?―人口減少社会の成長戦略』(文春文庫)を参考にしていただきたい。

猪瀬 直樹(いのせ・なおき)

作家。1946年、長野県生まれ。

1987年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』で1996年度文藝春秋読者賞受賞。以降、特殊法人などの廃止・民営化に取り組み、2002年6月末、小泉首相より道路関係四公団民営化推進委員会委員に任命される。政府税制調査会委員、東京大学客員教授、東京工業大学特任教授、テレビ・ラジオ番組のコメンテーターなど幅広い領域で活躍中。東京都副知事。最新刊に『東京からはじめよう』(ダイヤモンド社)がある。

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