さて日本郵政グループの場合はどうか。企業改革のエンジンは、十分な推進力を得ることができるのだろうか。危機感を浸透させるためには、市場の風に当たることがいちばんだ。その点、郵便事業やゆうちょ銀行、かんぽ生命は、すでに競合企業との厳しい競争にさらされており、健全な危機感を育む素地はあるとみられる。例えば郵便事業の「ゆうパック」がヤマト運輸などとの競争に敗れ、撤退に追い込まれる事態はあり得ないことではない。そうなれば郵便事業の屋台骨は、大きく揺らぐことになる。健全な危機感を持ち、市場で生き抜く姿勢が浸透すれば、企業改革のエンジンは大きな推進力を得ることができる。
これに対して問題含みなのは、郵政事業の窓口業務を行う郵便局会社だ。日本郵政グループの中で、最も政治の介入を受けやすいのがこの会社だ。郵便局会社は市場原理に基づく行動がままならず、事業を完全に自社でコントロールすることができない。だから自己責任の姿勢も浸透しにくくなる。
だが郵便局会社こそ、日本郵政グループの本丸だ。郵便局会社の職員数は、郵便事業、ゆうちょ銀行、かんぽ生命に比べて圧倒的に多い。彼らの意識が変わらなければ、日本郵政グループの改革は十分に進まないであろう。世論がかもしだす「郵便局は聖域」的な風潮に逃げ込まず、人件費の削減や特定局制度の見直しなど、あるべき改革を進めるためには、経営陣の不退転の決意と強いリーダーシップが必要になる。
ビジネスモデルの再構築を進めよ
郵政事業には、過去の長い歴史で培ったインフラとブランドがある。これらをうまく使えば、企業として生き残るだけでなく、新たな成長戦略を切り開くことも不可能ではないと思われる。しかしそのためにはビジネスモデルのリノベーションが避けられない。
郵政事業のビジネスモデルの大半は、その耐用年数を過ぎつつある。郵便貯金や簡易保険は長い間、国民の余剰資金を吸い上げる集金装置の役割を担ってきた。だがその役割は、おおむね終了したと言えよう。日本経済が成熟化した今、資金の配分は市場機能に委ねられるべきである。今後の郵政事業は市場ニーズに対応した新たな役割と、新たなビジネスモデルを創出していかなければならない。
そして最も難易度が高いのが、郵便局会社のビジネスモデルの革新だ。郵便局会社は、主としてゆうちょ・かんぽ・郵便などのサービスの販売代理業務を担う企業となる。これは他社にはないまったく新しい業態である。ゆうちょ銀行、かんぽ生命などの業態や競合先が明確であるのに対して、郵便局会社のそれは曖昧(あいまい)だ。郵便局会社と正面から競合する企業はない。
郵便局会社は、銀行、保険会社、宅配便会社、コンビニエンスストアなどと部分的に競合する。ただし、郵便局会社が、これらの企業と正面から競争することは難しい。郵便局会社が、銀行のように金融の専門家を店舗に貼りつけることは困難だ。また今後物販を行うにしても、コンビニエンスストアの品そろえやロジスティックシステムに比肩することは不可能だろう。だからこそ郵便局会社は独自のビジネスモデルで勝負しなければならない。
郵便局に限らず、郵政事業すべてが、市場に支持されるビジネスに生まれ変わる必要がある。民営化によって経営体制が大きく変わる今こそ、そのチャンスだ。日本郵政は、民間企業としてのスタートを切る。民間企業の競争は厳しく、市場の変化も激しい。しかし民間企業は、そこに立ち向かっていくしか発展の道がない。これからの日本郵政が、民間企業の王道を歩むことを望みたい。
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