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後戻りはできない

技術的に難しいIP電話への移行をなぜNTTは進めるのか。NTTの考えは次のようなものだ。IPネットワークが世の中の主流になった。IPネットワークを使えば、音声はもちろん、動画像などこれまで家庭に簡単には流せなかった大容量データを送り込める。新しいビジネスチャンスがあるはずだ。専用の機械を使う固定電話より、費用も安そうだ。固定電話にしがみつき手をこまねていると、無料のIP電話が広がってしまいかねない。既存の銅回線は劣化が進んでいるが、これを改修するより、一気に高性能の光ファイバーを敷設したほうがいい。光の普及を早めるには、電話サービスができる、とうたうのがいちばんだ、というわけである。

家庭に動画像を送るビジネスが成立するかどうか、IP電話は本当に固定電話より安く作れるのか、そして、なによりも固定電話と同等のサービスがIP電話で実現できるのか、といった数々の疑問はある。が、とにかくNTTは、光ファイバーの普及とIPネットワークへの切り替えを決断し、断行中である。

NTTの都合で新しい技術へ切り替え、その揚げ句故障が頻発するとはけしからん、と立腹する向きも多いだろう。しかし、新技術というものには常に、プラス面とマイナス面がある。固定電話のように80年はかからないだろうが、ひかり電話はこれからも故障する。故障が起きた時、利用者は我慢するしかない。「絶対に電話を止めるな」と主張した場合、その主張通りにするには、固定電話へ逆戻りするしかない。NTTを再び国営化し、固定電話を死守させてもよいが、そのコストは税金で賄うことになる。

NTTとしては、IPネットワークを安全に運用するノウハウを蓄積していくしかない。そのために必要なのは、IPネットワークの設計・敷設・運用・トラブル対策といった一連の作業をすべてNTTグループ内部の人材でやっていくことだ。本業を自力で支えられないのならNTTの存在価値はない。

谷島 宣之

経営とITサイト編集長。日経コンピュータ・ITpro・日経ビジネスオンライン編集委員。1985年に記者となって以来、情報システム関連のテーマを取材し続けている。特に、システム開発プロジェクトについては、100件以上の実例を取材し、報道してきた。かかわった媒体は「日経コンピュータ」「日経ウオッチャーIBM版」「日経ビズテック」「ITpro」「日経ビジネス」など。「経営者とIT担当者の間にある溝」に最大の関心を寄せる。

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