ひ弱な機械、コンピューター
問題は、汎用品とインターネット技術で築いたネットワークに脆弱な点が残っていることだ。パソコンをお使いの方はよくお分かりのように、コンピューターというのは甚だひ弱な機械である。ハードディスクなど機械自体が壊れることがあるし、パソコンの上で動かすソフトウエアの不具合によってしばしば停止する。IP電話を支えるコンピューターをパソコンと一緒にはできないが、コンピューターである点は同じであるから、ソフトの不具合によって、ルーターや制御サーバーは誤動作したり、止まったりする。特に、新しいソフトを追加したり、動いているソフトを修整する時が危険である。順調に動いていたパソコンに、新しいソフトを入れた途端、“固まってしまう”ことを思い浮かべていただきたい。
厄介なことに、IP電話の場合、数千台のコンピューターがネットワークによって結ばれ、常時動いている。1台のコンピューターの不具合が他のコンピューターに悪影響を与えることがあるし、そもそもどのコンピューターのどのソフトに不具合があったのか、なかなか突き止められない。ひかり電話の利用者の数は急拡大したため、NTTは次から次へコンピューターを増設し、複雑性は増している。
といって、電話のすべてを新しい仕組みに切り替えたわけではない。従来の交換機による固定電話ネットワークは現存している。ひかり電話と固定電話をつなぐ役割も当然、コンピューターが担っており、この接続部分に処理が集中し、通話できなくなる、といった現象も起きている。
ここまで読まれた読者の中に、「インターネットはもともとトラブルに強いことが売り物だったのではないか」と思われた方がおられるかもしれない。その通り、インターネットは、ネットワークの一部が寸断されても、別な経路を迂回し、通信を続行する仕組みを持っている。だが、ひかり電話の場合、制御サーバーごとに管轄する通信地域が決まっており、そのサーバーが故障したからといって、別のサーバーで代替することはできない。これは、緊急通報など固定電話と同等の機能を盛り込むために生じた制約である。
以上のような脆弱性は、固定電話にはないと言ってよい。昨今の交換機はもはやコンピューターの一種であるが、電話サービスのことだけを考えて設計されており、ソフトウエアも長年にわたって使い込まれている。交換機が故障した際には、特定の地域だけ通話を制限し、全体に影響を与えないようにする、といった運用が長年の経験から可能になっている。
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