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愛情や態度は評価できない〜与党・教育基本法案の危険性

2006年12月1日

(藤田 英典=国際基督教大学教授)

はじめに

私は、現在国会で審議中の教育基本法改定に反対しているが、教育基本法は改正すべきでないと主張するものではない。また、国や郷土への愛着や誇りも、道徳心や規範意識も、重要でないと考えているわけではない。それどころか、教育社会学者としての私の関心と学問的蓄積からしても、国や郷土を含む様々な集団への帰属心・愛着・誇りや規範意識は、集団にとってもそのメンバーとしての個々人にとっても、非常に重要だと考えている。

しかし、それらは、日々の生活経験・学習経験を通じて「自然に(知らず知らずのうちに)」育まれるものである。どのような方法であれ、学校教育において意図的・強制的に教え込むことによって育むべきものではない。そうした教え込みが教育の場に広まるとしたら、そのとき、教育の場とプロセスは歪んだものとなる。また、そのようにして育まれる帰属心や愛着、道徳心や規範意識も歪んだものとなる危険性が強まる。

これらの点を前提にして、現在の改定に反対する理由を述べよう。民主党も「日本国教育基本法案」を提出していた。しかし、去る11月16日、衆議院本会議での強行採決により、与党案が可決され、参議院に送付された。そこで、以下では与党案について検討する。

問題点は多々あるが、私は、次の3点が特に重大だと考えている。

  1. 国や郷土を愛する態度などの教え込みの危険性
  2. 義務教育段階からの教育の能力主義的差別化と自己責任論の危険性
  3. 政治・行政による教育の「不当な支配」と国民命令規範の危険性

紙幅の都合で、以下では1.を中心に論じ、2.3.については今回の改定問題を含めて要点を略述するに留める。詳細については末尾の参考文献を参照されたい。

愛情や態度を法律に規定することの問題性

問題点の第1は、「我が国や郷土を愛する態度」をはじめ、下記の5つの態度を養うことが「教育の目標」(第2条)として列挙されていることにある(暉峻淑子氏の2006年の論文を参照)。

  1. 「真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培う…」
  2. 「勤労を重んずる態度を養う」
  3. 「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、…寄与する態度を養う」
  4. 「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養う」
  5. 「伝統と文化を尊重し、…我が国と郷土を愛する…態度を養う」

どの項目(徳目)も重要でないと考える人は多くはないであろう。私もそれらは重要だと思っている。しかし、法律に、これだけ「態度」が並べられ、それを「養う」と書かれることには強い違和感を抱かざるを得ない。

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