クアドラプルプレーを目指す米AT&T(6)〜通信産業全体の経済的利得最大化が大事
(新保 豊=日本総合研究所 研究事業本部 主席研究員、通信メディア・ハイテク戦略クラスター長)
産業が成長し強くなれば、その果実は消費者に返ってくる
ここで二つの視点を提供しよう。この視点は重要だ。一つは経済利得の最大化問題の補足。もう一つは、グローバル競争の強化を通じて実った果実は、結局、消費者の手に戻ってくるということだ。
具体的には、1)わが国の情報通信産業全体を再び成長軌道に乗せる、および2)グローバルでも通用する企業主体を育成・強化する、ことが重要になる。これらの帰結として、消費者も、手ごろな料金で品質の高いサービスを手にするという利益を得られる。
つまり、産業全体の経済的利得の最大化という視点を持つことが重要なのだ。それを実行することが、技術方式やビジネススタイルにおけるわが国の国際競争力を高めること、そして、業界標準を定めるのに必要な足場を固めることにつながる。
「常に消費者が最重要である」といった考え方に過度に立脚すると、国敗れて国民栄える(かつてのイタリア経済)のようになってしまう。
産業が育成・強化できて初めて、リストラも無くなり安心して雇用者は働ける。雇用者と消費者は、コインの裏と表の関係にあり、同じコインの問題なのだ。この視点を見落とすと、わがままな消費者にただおもねるだけの状況となり、企業活動や国の産業政策がおかしくなる。そして、その影響は、よくも悪くも、消費者自身に跳ね返ることになる。
「旧種と新種」の別の競争が産業をさらに進化させる
話を戻そう。「世界の通信市場が再び巨大企業による大競争時代に突入するなか、NTTを再分割することで国益が損なわれないか」との論がある。これは表層的な見方だ。
米国における1984年以降の通信産業史を見るだけでもそう言える。1984年、AT&Tが地域分割された。正確には、AT&Tが所有していた22社のベル系地域電話会社が、7社の地域持株会社の傘下に再編成された。いずれにせよ、1984年以前後で7〜22ものたくさんの主体があったのだ。
こうした多数の核が市場にあり、それらが相互の力関係のなかで徐々に集約されていったのである。産業内に適度な数の核があった方が、ダイナミズムや競争は生まれやすい。このダイナミズムがイノベーションをもたらす。そう考えると、先の論は的外れだ。実際は逆なのだ。
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