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クアドラプルプレーを目指す米AT&T(2)〜「買収」という選択は正しいか

2006年3月20日

(新保 豊=日本総合研究所 研究事業本部 主席研究員、通信メディア・ハイテク戦略クラスター長)

大型買収は時の政権の顔ぶれに左右される

ただ、この買収が成立するかどうかは予断を許さない。FCC(連邦通信委員会)がどのような裁定を下すかにかかっているからだ。FCCのマーティン委員長は、2006年3月6日に次のような声明を出している(関連情報)。

「私は、申請がなされた時点で、FCCの同僚たちとともに、その申請書を早急に精査することを心待ちにしています。FCCの主要な責務は、提案された取引が消費者の利益にかなっているかどうかを判断することです。私たちは、提供された情報を慎重に評価検討し、個々の市場において具体的な害悪が起こらないかどうか、新たなサービスの提供によって潜在的な便益がもたらされるかどうか、検討するつもりです」(筆者訳)と。

米国の通信規制における判断は、この「消費者の利益」、「個々の市場への害悪の波及」、「新サービスの潜在的な便益」などがキーワードとなる。AT&Tとすれば、料金の高止まりを懸念する消費者団体から、今回の買収を阻止しようとする強い圧力もあるので、「現ブッシュ政権のうちに済ませたい」と考えているのだろう。“駆け込み買い”しようというわけだ。

蛇足だが、ソフトバンクによるボーダフォン日本法人買収事案は、“駆け込み売り”である点は異なるが、竹中平蔵政権(いや小泉純一郎政権)が存続しているうちに済ませたいという事情は似ている気がする。

大型のM&Aが実現するかどうかは、その後の市場形成に多大な影響を及ぼすため、タイミングが問題になる。また、通信における安全保障が議論のテーマになるなど政治マターになりやすい性格を帯びているため、時の政権の顔ぶれにも左右される。光ファイバーの貸し出し義務を緩和策するなど、現ブッシュ政権が地域電話会社(RHC:Regional Holding Company)におおむね好意的であることはよく知られた事実である。

この買収劇は正しい選択なのだろうか?

さて、規制当局からの許可が得られたとして、この買収劇はAT&Tの将来に影響を与える選択として、果たして正しいものなのだろうか。

筆者は、正しい選択と考えている。

経営の効率を追求することは、アングロサクソン流に言えば、「株主に多大な利益をもたらす」行動に違いない。アクセスライン(固定通信)を押さえている会社が、携帯通信事業を強化し、FMCへの備えができれば、トリプルプレー(電話、インターネット接続、ビデオ通信)の先にある、クオドラプルプレー(トリプル+携帯通信)を完成できる。

図表には示していないが、RHCにおける2強の敵は、コムキャストやタイムワーナーに代表されるケーブル会社(MSO:Multiple System Operator)だ。これらと対抗していく上で、クオドラプルプレーの提供は大きな力を発揮する。MSOが力を持っている点は日本市場と大きく異なる。地域通信会社がケーブル会社と対等な競争環境にある市場は、米国と韓国ぐらいしかない。

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