振動対策から見えてくるのは。ハードウエアに悪影響を与えるほどではないとするNASAの発表とはうらはらに、事態はかなり深刻らしいということだ。
通常、このような振動が発生した場合、固体ロケットモーターの推進剤の詰め方や内部構造を変更することで、余計な付加物なしで振動を押さえ込もうと試みるものだ。従ってダンパーを装着する方針ということは、第1段担当メーカーのATK社が、振動抑制に失敗したことを意味する。
ロケットはぎりぎりまでの軽量化を前提に設計する。ダンパーの装着はそれだけロケットの打ち上げ能力に悪影響を与える。特にコンピューター制御のアクティブ・ダンパーとなると、コンピューターが誤動作した場合にも打ち上げに悪影響を与えない設計が必要となる。コンピューターから電源、配線に至るまでバックアップ系を考えていくと付加重量はどんどん増加していくものだ。
つまり、ほんの数秒間の振動を抑制するためにアクティブ・ダンパーを装着することは、設計的にあまり良い解決方法ではない。にも関わらず、アクティブ・ダンパーを選択したということは、そこまでして振動を押さえ込まなければならない状況だったことを意味する。おそらく、オリオンとアレスIの機体ハードウエアになんらかの悪影響が出る可能性を完全に否定はできない状況だったのではないだろうか。
アポロの時とは2つの条件が異なる
このようなトラブルはロケットの開発時にはありがちなことだ。アポロ計画で使用したサターンVロケットも、第1段に使用した「F-1」エンジンでポゴと呼ばれる液体エンジン特有の過大振動が発生している。1968年4月4日にNASAはサターンVロケットの無人試験機「アポロ6号」を打ち上げたが、F-1エンジンの振動でトラブルが発生し、ペイロードを予定の軌道に投入することができなかった。この時はNASAマーシャル宇宙飛行センターがぶっ続けの作業でエンジン周りの改良を行い、そのまま無人テストを行わないままで同年12月21日にはサターンV初の有人ミッションであるアポロ8号を打ち上げている(注:アポロ7号はサターンVではなく、より小型のサターンiBロケットを使用した)。ぶっつけ本番の有人打ち上げは大きな賭だったが、アメリカは賭に勝ち、アポロ8号は月を周回し、無事に帰還した。
アメリカ国内には、この先例を引いて、今回のトラブルも「克服すべき課題」だとする楽観論が存在する。アレスIは9月10日に初期設計審査(PDR)を終了し、次の開発段階に進むことが承認された。それに先立つNASAのPDR準備会合では、「否定的な意見で、これまでに達成できた成果が覆い隠されてしまうべきではない」とする意見が出た。
しかし、サターンVとアレスIでは、2つの事情が異なることを見逃してはならない。
まずアポロ計画はほとんど青天井で予算を使える計画だったのに対して、アレスIは限られた予算の中で開発をしなければならないという事実だ。NASAは、2008会計年度でオリオンやアレスIを含む新有人宇宙輸送システム「コンステレーション」に24億7200万ドル(ドル107円として2645億円)を計上している。これは、日本ならばH-IIロケットの総開発費(1985年から1994年の9年間で2700億円)にも匹敵する巨額だが、それでも青天井というにはほど遠い。
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